TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 超 越 ー

第六話「超越」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

トランスフォーマー達の長き歴史の中受け継がれてきた力・・・心・・・魂・・・。それらが蓄えられし器を叡智の結晶、マトリクスと呼んだ。マトリクスは代々オートボット・サイバトロンのリーダーが継承し、各時空に存在し多くの奇跡と繁栄をもたらしてきた。そして今、第01OG時空のマトリクスは荒ぶる破壊神ユニクロンの体内に在り、それをめぐりこの時空の二人のトランスフォーマーが互いの未来をかけた決闘を行っていた・・・。

「シャァッ!死に損ないが群れたところでこの俺に勝てると思っているのか!?」
ユニクロン体内の異物消化溶鉱炉上にて、ロードバスター&グリムロック対ヘルワープの二対一の戦いが始まっていた。ヘルワープはビーストモードへ変形し、空中を泳ぐように移動しその鋭いヒレと牙で両者を翻弄する。だがその攻撃を紙一重で回避しながらロードバスターは銃撃を放ち、銃撃に煽られ一瞬動きが鈍ったヘルワープへとグリムロックの強靭な尻尾の一撃が加えられる。
「がっ!?何だと・・・!」
驚きの声をあげながらもヘルワープは受け身をとり体勢を立て直す。
「自分達を甘く見るな!仲間と力を合わせ補いあえば、どんな強敵にも立ち向かえるんだ!」
「そうだ!俺グリムロック、ロードバスター仲間!」
仲間という言葉を喜ぶように口ずさむグリムロック。その様子にヘルワープは怒りをあらわにする。
「元々俺達に飼われてた獣風情が言うようになったじゃねえか・・・。仲間だ?そんなものと足を引っ張り合うより自分自身の力が絶対に決まっているだろうがぁ!」
ヘルワープは地面へと潜るように姿を消し、まるで水面を跳ねるように姿を現しては消すワープ移動を繰り返し始めた。その激しい動きにロードバスターとグリムロックは徐々に行動範囲を狭められていく。するとヘルワープの姿は周囲から完全に消え、不気味な声だけが響き渡った。 「シャァァ・・・、姿の見えない恐怖に怯えながら死んでいくがいい・・・。」
その時ロードバスターの脳裏に数時間前のことが思い出された。

「グリムロック、す・・・すまなかった!」 第10BS時空より救出され、メトロポリスにて最後の出撃に向けてのわずかな時間に傷を癒すロードバスターが、同じく治療中のグリムロックへ突然深々と頭を下げた。グリムロックはわけもわからずきょとんとした態度でそれを見つめる。
「自分は…お前を元ディセプティコンというだけで信用していなかった・・・。汚い裏切り者だとさえ思っていた。だが・・・お前が傷だらけの体でSARAを庇う姿を見て・・・!」
そういうとロードバスターは照れるように俯く。
「じ・・・自分は不器用だからうまく言えない・・・けど、お前は信じられる仲間だとわかった。だから、すまないグリムロック…。」
「俺グリムロック、難しいこと気にしない!ロードバスター、戦う仲間!」
そのグリムロックの無邪気な態度に救われたようにロードバスターが安堵の表情で顔をあげる。だがすぐに真剣な面持ちに変わり話し出す。
「グリムロック・・・、自分一人ではあのヘルワープを倒すことは難しい・・・だから、お前の力を借してほしい。奴を倒し、SARAを…時空界を救うために。」
その言葉を聞きグリムロックは力強く答えた。
「俺グリムロック!ロードバスターと一緒に悪い奴やっつけてSARAを助ける!」

そう・・・今や心強い仲間となったグリムロック、ロードバスターは彼の力を信じ、命を預ける覚悟を決めた。
ヘルワープが姿を消し沈黙が重くのしかかる中、ロードバスターは手早く自分の持つ銃器を組み合わせる。するとグリムロックがふと虚空に向け顔をあげた。それと同時にロードバスターは武器を・・・手持ちの銃器全てを一つに合体させた大型の武装を構え、グリムロックが示した方向へ向け一斉発射した。その弾丸が向かう先に、エネルギーの波紋・・・ワープアウトゲートが開き、同時にヘルワープの叫び声と爆音が轟く。
「ギャアアッ!?な、何だと!?」
ヘルワープはそのまま地べたへと落下する。彼の得意戦法である姿を隠したままワープゲートから放つ拡散ビーム攻撃、本来ならそれにより目の前の獲物二人は恐怖におびえたままその体を撃ち抜かれるはずだったが、まるでヘルワープが現れる場所を読んでいたような銃撃に完全にヘルワープの方が不意をつかれた形となった。
「よし、一気に仕留める!」
地べたに落ちたヘルワープへ追撃とばかりに銃撃を放つロードバスター。第10BS時空にてヘルワープがSARAをワープで襲った時、グリムロックは寸前でそれを防いだ。ロードバスターはそのことを覚えており、もしやグリムロックはヘルワープの移動先がわかるのではないかと推測したのだ。グリムロックに聞いたところ本人にもなんとなくとしか思えてないようで、それは野獣戦士ならではのカンなのか、もしくはディセプティコン時代にスカイワープと共にいたことで癖を覚えていたのか・・・いずれにせよ、グリムロックにはほんの一瞬早くではあるが、ヘルワープのワープ先が読めるようなのだ。
「く・・・くそ!調子に乗るなよ!」
銃撃に晒されながらもヘルワープは再び姿を消し、今度は小刻みなワープでロードバスターの周囲から現れては消えるを繰り返し、その鋭いヒレと牙で攻撃を繰り返す。
「どうだ!これでは銃を構える暇もあるまい!」
身体中を切り刻まれるロードバスター、だが彼はじっと耐えた、一瞬の勝機を掴むために。そんなロードバスターへヘルワープは止めを刺すべく狙いを定める。ロードバスターの背後から現れ、凶悪な牙を向いてその頭を齧り取ろうと口を開け襲いかかった、だが・・・。
「な、何ィィ・・・!?」
その牙はロードバスターまでは届かなかった、ヘルワープの尾ビレにグリムロックががっちりと食らいつき捕まえたからだ。すると間髪入れずロードバスターは全合体させた銃器をヘルワープの大きく開いた口へと突っ込む。
「くらえぇぇぇっ!!」
引き金が引かれ、ヘルワープの口内へ無数の弾丸が撃ち込まれる。口から火を吹きながらたまらずヘルワープは吹き飛んで行く。
「グゲアァァァ!?そ・・・そんな・・・!」
ロードバスターの勢いは止まらず、吹き飛ぶヘルワープを追撃するようにビークルへと変形し、最大加速で突っ込む。
「うおおおおお!!」
ロードバスターの装甲車がヘルワープへと渾身の体当たりを食らわせる。ヘルワープは更に吹き飛び、通路から力無く真っ逆さまに落下していく。その先にはユニクロンの溶鉱炉がその煮えたぎる口を開けていた。
「ぎゃぁぁぁぁ・・・」
断末魔の叫びをあげ溶鉱炉へと落ちて行くヘルワープ、その姿からロードバスターは目を背けつつポツリとつぶやく。
「アイアンフィスト・・・仇はとったぞ・・・!」
近寄ってきて嬉しそうに鼻を鳴らすグリムロックをさすり、ロードバスター達はその場を後にする。
「他の皆が気がかりだ・・・行こう!」

「どんな物事も終わりとは意外なほどあっけないものよな、オプティマスよ…。」
メガトロンがどこか憂う表情で言う、その視線の先には命の火が消え灰のようになったオプティマスの亡骸が立ち尽くしていた。
「オプティマス・・・!」
SARAが嗚咽をあげる、わかってはいた結末であったが、それを自らの手で招いたことにSARAの心は押しつぶされそうになっていた。
「SARAよ、所詮奴はここまでだっただけのこと。奴のことは忘れることだ。」
そのメガトロンの言葉はどこか自分自身にも言い聞かせるようなところがあった。メガトロンはオプティマスの亡骸に背を向け、静かに歩み始める。もはや彼を止める者はないのだ。
だがその時…、周囲の空間をどこからともなくあふれる光が照らした。
「・・・む・・・、なんだ・・・これは・・・?」
その光はメガトロン達がいる場所から遠く離れてはいるが、同じユニクロンの体内で発せられたものであった。第01OG時空のサイバトロン戦士とデストロン戦士、その二人の決闘の最中、この時空の叡智の結晶…マトリクスがその力を開放したのだ。開かれたマトリクスを燃えるような赤いボディを持つ若きサイバトロン戦士が高く掲げる。その光は彼を新たなリーダーの姿へと変え、全宇宙の闇を照らす。今ここにこの時空の新たな歴史の始まりが告げられたのだ。
その光はユニクロンの全身へも駆け巡り、その巨大かつ邪悪な存在を破壊していく。体内のあちこちで爆発が起こりユニクロンの苦悶の声が響き渡る。
メガトロンとSARAがいる空間にもその光が満たされ、周囲が崩壊を始める。だがメガトロンの注意はそれらではなくただ一点に集中していた。物言わぬ骸となったオプティマスが共鳴するように光に包まれたからだ。
「む・・・一体何が・・・?」
クラウド時空のオートボットリーダーオプティマスプライム…彼の胸の奥にもまた、マトリクスと呼ばれる物が存在していた。クラウド時空のマトリクスといえるそれは、この時空のマトリクスの叡智の光に共鳴し、その力を開放しようとしていた。そして…。
「あ・・・あぁ・・・。」
SARAが思わず声を漏らす。光に包まれたオプティマスの体はみるみる元の輝きを取り戻し、拳を強く握りしめメガトロンの方へと向き直り、鋭くも澄んだ眼光でにらみつける。二つのマトリクスの輝きが失われたオプティマスのスパークに再び命の火を灯したのだ。

ユニクロン体内の崩壊が始まる中、各所で繰り広げられるクラウド時空の戦士達の戦いも最終局面を迎えていた。
「ショックウェーブ!全力を出していないな!お前の力はこんなものでは無かったはず…今度は一体何を企んでいる!?」
銃撃を繰り出しながらホットロディマスが叫ぶ。相変わらずその本心は読めないものの、確かにショックウェーブは以前の戦いとは違い、力を温存して立ち回っているようであった。
「・・・潮時・・・か・・・。」
崩壊を始めた周囲をちらと見た後、一言だけ通信を送りショックウェーブはヘリコプターの姿へと変形する。
「何!逃げる気かショックウェーブ!」
ホットロディマスの方を振り向くそぶりも見せずそのままショックウェーブは飛び去っていく。ホットロディマスが後を追おうとするも目の前の壁が爆発を起こし爆煙によってショックウェーブの姿を見失ってしまう。
「くそっ・・・。だがこんな状況になってしまったら今はブローン達と合流するのが賢明か・・・。」
ホットロディマスもヘリコプターへと変形し、爆風を切り裂き飛び去っていった。

「お…おいおい、何がどうなってやがる・・・!?俺様がこいつの力を利用するはずだったのに・・・!」
スタースクリームが困惑の声をあげる、周囲が爆発し崩壊を始めてブローンとの戦いどころではなかったからだ。その時彼にショックウェーブより緊急通信メッセージが入る。
「あ?なんだ・・・?ディセプティコンは生き残りたければ至急集合しろだと…?」
通信を確認するスタースクリームの隙をつき、ブローンは右手を鉄球に変えストレートパンチを放つ。スタースクリームは間一髪で両腕をクロスし防御するも、その威力に大きく吹き飛ばされた。
「どうやら試合時間が残り少ないようだな。だが判定になんて持ち込ませないぜ、きっちりKOしてやる!」
周囲が燃え上がる中ブローンが闘志まんまんで近寄ってくる。スタースクリームは一瞬考えた後、飛行機へと変形し舞い上がった。
「俺様の助けを求める連絡が入ったんでな、今日のところはこのぐらいにしておいてやるぜブローン!もっとも、このデカブツの崩壊に巻き込まれててめえらオートボットは全滅かもしれねえがな!」
捨て台詞を吐きながら猛スピードで飛び去るスタースクリーム。ブローンは少し呆れたような顔をしながらも、回復しきれてない傷をさする。 「ふう・・・ああは言ったが今の俺じゃ奴が本気でかかってきてたら危なかったぜ。」
すると爆発音が響く通路の先から彼を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ブローン!無事か!」
「おお、ロードバスターにグリムロック!お前さん達も無事だったか。」
ビークルモードのロードバスターがグリムロックを上に乗せて走ってくる。すると上階からローター音が聞こえ、ブローン達はそちらへ警戒を向けるもすぐに表情をゆるめた。
「ロディマス!」
ローター音はホットロディマスのヘリの音であった、合流しロボットモードになった四人はお互いの無事を確認し合い安堵の笑みをこぼす。だが事態は喜んでばかりもいられなかった。
「どうやらこの時空の住人達がこのデカブツを倒したようだが・・・このままでは崩壊に巻き込まれて俺達もおだぶつだぜ!」
ブローンが大げさに頭を抱える。その巨大さゆえユニクロンの崩壊は徐々にではあるが確実に進み、いずれ宇宙のチリとなるのも時間の問題であった。その時である、突如彼らの目の前に時空移動の入り口・・・ディメンションゲートが開かれた。
「な!なんだ!?このゲートは一体!?」
ロードバスターが驚きの声をあげる、だが直後、彼らの頭に声が響いた気がした。
「司令官・・・?」
彼らは直感的にそれが自分達の信頼するリーダー、オプティマスのものだと感じた。オプティマスが、自分達にクラウド時空へ戻れと伝えていると・・・。
「俺グリムロック!SARAを取り戻してないのに、帰りたくない!」
グリムロックが抗議の声をあげるも、ホットロディマスがそれをしずめる。
「何が起こったのかはわからないが・・・司令官は俺達が考えもつかない力を今手にしているようだ。このディメンションゲートが何よりの証拠だ。今の俺達にできることは、司令官に全てを託し信じて待つことだけだ…悔しいが・・・。」
グリムロックも薄々わかっていたようで、その言葉を聞き素直に従う。四人のオートボットはクラウド時空へと続くであろう目の前のディメンションゲートへと静かに進んでいく。皆がリーダーの勝利とSARAの無事を信じて・・・。

「オプティマス・・・貴様・・・。」
メガトロンが息を飲む。蘇った目の前の宿敵、オプティマスプライムのボディが激しく光を放っている。その輝きはまるでSARAの髪のように美しくも神々しい緑色であり、二つのマトリクスの奇跡とSARAの力を宿した今のオプティマスは次元力とも言える力を得た状態・・・ディメンションモードとでも呼ぶべき姿であった。しばし瞑想するように腕を前に掲げていたオプティマスは、意識をこの場に戻したように腕を下ろした。
「今のは・・・離れた空間にディメンションゲートを開いたかオプティマス。そんな芸当ができるようになったとは、驚いたぞ。」
「・・・私の大切な仲間達は送り出すことができた。後はお前からSARAを取り戻し、クラウドへ戻るだけだ。」
激しいエネルギーを発しながらも静かな口調でオプティマスが告げる。それはどこか超越したような神格を感じさせるものであった。
「オプ・・・ティマス・・・。」
SARAが何か言おうとするも、メガトロンはそれをさえぎるように再び胸の奥へとSARAの小さな身体を押し込み、装甲を閉ざした。
「残念だがオプティマス、SARAをこの身に携えている以上我の方がどうあっても力は上なのだ。こんな風にな。」
するとメガトロンのボディもまばゆいばかりの緑の光・・・次元力に包まれた。SARAを得て時空の覇者となりうる力を持ったメガトロン、その真の力が今完全に解放される時がきたのだ。
向かい合う両者が静かに腕を掲げる、するとそこから膨大なエネルギーの衝撃波が放たれた。今までメガトロンが放っていたものとは比べものにならないほどの威力をもつそれは、目の前の空間でお互い相殺し合い猛烈な爆風を巻き上げる。その爆風を切り裂いてオプティマスの方がメガトロンへと仕掛けるべく飛びかかった。
「うおおおおっ!!」
オプティマスの握りしめた拳がメガトロンの顔めがけ振り下ろされる、だがメガトロンはそれを片腕で受け止める。その衝撃で周囲の壁や床はメリメリと剥がれ砕けていく。
「そうだな、もはや我らに武器などいらん。この拳で決着をつけてくれよう!!」
メガトロンもまたその緑の輝きに包まれた鋼の拳を振るいあげた。

「・・・う・・・ここ・・・は・・・、地獄・・・か・・・?」
深い暗闇に落ちていたヘルワープの意識は、混濁しながらも徐々に感覚が戻ってきていた。うっすらと目に入る光景は爆発と炎に包まれ崩壊していく世界・・・それはまさに地獄と言える状況であったが、皮肉にも全身に渡る痛みと苦しみが自分がまだ生きているということを確信させた。
「う・・・?な・・・何・・・!?」
意識を取り戻したヘルワープは爆発する通路の中、自分が何かにおぶさりながら移動しているのに気づく。
「よう、目が覚めたかよスカイ・・・じゃなかった、ヘルワープよ。」
それはヘルワープが良く知る者、サンダークラッカーであった。
「溶鉱炉に落ちるお前を見て、サンダークラッカーは自分が焼かれるのも厭わずにお前さんを引き上げたんだゼ、ヘルワープさんよ。まったく、世話の焼ける奴だゼ。」
隣を歩くデッドロックの言葉を聞き、ヘルワープは焼け焦げ溶解し始めていた自分のボディと、同じように酷い火傷を負ったサンダークラッカーの腕に気づく。
「サンダークラッカー・・・お前・・・どうして・・・。」
「うるせえな。姿が変わろうが、馴染みの奴をこんなところで見殺しにしたら寝覚めが悪い、それだけだよ。」
それっきり両者は言葉を発さなかった、デッドロックはそんな二人を見て不思議と笑みがこぼれる自分に驚いていた。
「お、いたゼ、ショックウェーブだ。」
デッドロック達は通信メッセージを送ってきたショックウェーブと合流する。そこには先に到着していたスタースクリームの姿もあった。するとショックウェーブは速やかにブラスターモードへとトランスフォームを始める。
「スタースクリーム・・・、お前と私のエネルギーを合わせれば、時空移動システムを起動することが可能なはずだ。撃て・・・。」
「なんだおい、本当に俺様の力が必要だったんだな。へへ、頼み方の態度は気に入らねえが仕方ねえ、やってやるか。」
スタースクリームとショックウェーブ、二者の力が合わさり増幅し合う。引き金が引かれると、ショックウェーブの砲口から膨大なエネルギーの塊が発射され、それは空中で弾け時空移動の扉・・・ディメンションゲートを開放した。
「ディセプティコンよ、クラウド時空へ戻るぞ・・・。」
ロボットモードに戻ったショックウェーブがディメンションゲートへと周囲のメンバーを促す。
「おお、ありがてえ。これでこのデカブツと心中せずに済むってわけだな。」
スタースクリームが嬉しそうに言うも、デッドロックが疑問を問いかける。
「おい・・・メガトロン様はどうするんだ。勝手なことしたらまずいゼ。」
ショックウェーブは瞳を鈍く光らせながら答える。
「私情に狂い道を見誤ったメガトロンは時空の支配者に相応しい器では無くなった。もはや淘汰される存在だ。ディセプティコンは再建されねばならない・・・、我々の手で。」
その言葉にメンバーは一瞬静まり返るも、スタースクリームがニヤつきながら声をあげる。
「へへ、ご機嫌とりの腰巾着かと思ってたお前がなかなか面白いこと言うじゃねえか。そうと決まればこんなところさっさと引き上げようぜ。」
一番にディメンションゲートへと入ったスタースクリームを尻目に、サンダークラッカーは少し戸惑いを見せ、抱えているヘルワープへと目を向ける。
「・・・お前の好きにしな、サンダークラッカー。」
その言葉を聞き、サンダークラッカーも意を決したようにヘルワープと共にゲートへと進む。
「おい・・・人数が足りないゼ、あいつは・・・。」
「好きにさせろ。メガトロンと共に滅びたいならそれも良かろう。」
そう言い放つとショックウェーブもゲートへと向かい、デッドロックも少し後ろ髪を引かれながらも進んで行く。その場に集まったディセプティコン達全員が中へ消えてすぐ、ディメンションゲートは静かに閉ざされ周囲の空間は大爆発を起こし崩壊した。

クラウド時空の戦士達、そしてこの時空の戦士達も去り、いよいよ崩壊間際となったユニクロンの体内。だがオプティマスとメガトロン…ディメンションモードとなり他者を超越した力を持った二人だけは、崩壊続くユニクロンの中最後の決戦を繰り広げていた。
「メガトロォォォン!!」
「オプティマァァァス!!」
両者の戦いは己の身をぶつけ合う激しい殴り合いとなっていた。その拳が振るわれる度に溢れんばかりのエネルギーが弾け、ユニクロン崩壊の爆発と相まって周囲の空間が歪んでいく。いつしか二人の周りは現実空間を越えた時空の渦ともいえる状態へ変わっていった。ぶつかり合う二人にあらゆる時空世界のビジョンが飛び込んでくる、それは自分達と同じ名前を持つ戦士達・・・、オプティマスプライム、コンボイ、そしてメガトロン・・・その戦いの歴史であった。青い星を舞台にエネルギーアックスとメイスを振り上げ戦う二人、マトリクスを投げ捨てリーダーではなくただ純粋な戦士として戦う二人、一つのキューブを巡り人間の街を駆け抜けながら戦う二人・・・。
「見えるかオプティマス!どこの時空の我らもよくもまあ飽きもせず戦い続けているものよな!この時空界という名の無限地獄に終止符を打ちたいとは思わんか!」
拳を振り上げながらメガトロンが問う、しかしオプティマスもまた拳を握りながら答える。
「例え時空界が無限に続く戦いの獄だとしても、それを力で破壊することが救いだとは思えない・・・!何より、この力を持つSARAがそんなことを望んではいない!」
「貴様に何がわかる!!」
メガトロンは激昂し全身から衝撃波を放ち、オプティマスはそれを両腕で受け止める。
「オプティマス・・・!」
その時再び両者の頭に直接響く声。
「SARA・・・!SARAか!?」
わずかに聞こえる消え入りそうなか細い声で、SARAはオプティマスへ伝える。
「一つになってわかった・・・メガトロンは、エネルギー体としてメトロポリスに安置されてた頃から、前の私…『SARA』に意思があることを感じとっていたの。」
「何・・・!?」
オプティマスは意外な事実に驚く。自分と共にメトロポリスで時空警察として活動していた頃から、メガトロンは『SARA』がただのエネルギー体ではないことに、遥か悠久を生きる彼女の意思に気づいていたというのか。だが目の前のメガトロンは怒りの声をあげより激しくオプティマスへ襲いかかる。
「SARA!余計なことを言うなぁ!!」
だがSARAの声は続く。
「言葉は返ってこなくても、メガトロンはずっと『SARA』へと語りかけていた。いつしかメガトロンは『SARA』の意思を解放したいと思い始めた。ただのエネルギー体としてでなく、時空界を統べる存在として自由にしたいと願い始めたの。絶対的な力を持つ自分と共に・・・。」
それが『SARA』の在り方を巡り自分と袂を分けたメガトロンの真意・・・?ふとオプティマスは第15MD時空で以前の『SARA』の意思とわずかな時間話した時のことを思い出す。彼女がメガトロンのことを話す時に一瞬見せた寂しげな表情…思いを通じさせることこそできなかったものの、彼女もまた自分に対して語りかけてくれるメガトロンへ特別な感情を抱いていたのかもしれない。
「その後『SARA』の力を中途半端な形で得たメガトロンはそれに耐えられず暴走し、無の時空へと閉じ込められ400万年もの間、自分の体を駆け巡る荒ぶる力に苦しめられ続けた・・・。その中で、彼の心は変わって・・・いえ、壊れてしまったの。」
SARAが辛そうに言葉を続ける。
「無限に拡大し続いていく時空界、それ自体が『SARA』にとっての牢獄であるとメガトロンは思うようになってしまった。それらを全て壊し、自分と『SARA』が理想となる世界を新たに作りあげる…自らが得た力はその破壊と創造のためのものであると・・・。」
メガトロンからの休む間もない攻撃を受け止めながらオプティマスはSARAの言葉を聞き、目の前の宿敵の心情を思う。するとオプティマスはSARAへと逆に問いかけた。
「メガトロンの『SARA』への考えはわかった・・・。ではSARA、今の君自身はどう思っている?メガトロンの思いに答え、共に今の時空界を壊し作り変えたいと思っているか?」
その言葉を聞きメガトロンの攻撃の手が少しゆるむ。
「私には・・・以前の記憶はもう無く、今の私はまだ知らないことばかりのちっぽけな存在・・・。けれど、オプティマスやロディマス達、みんなと一緒に過ごした時間は、以前の私が過ごしてきた時間に比べたら例え僅かな時でも、かけがえの無い大切な時間。」
SARAはゆっくりと今までのことを思い出すように言葉を続ける。
「そして私はみんなと一緒に時空を回って、それぞれの世界に生きる命の暖かさ、素敵なものをたくさん知った。確かに悲しいことや悪意もあったけれど・・・それでも・・・。」
はっきりとした声で力強く言う。
「この時空界を終わらせたいなんて思わない、私の力は、きっと時空界全ての命を守るためにあるのだと思うから!」
その言葉を聞きオプティマスは力強く頷き、メガトロンは絶叫する。
「オプティマスゥゥ!SARAを惑わせるなぁぁ!!」
いつしかメガトロンは以前の暴走状態のような風体へと変貌しつつあった。両者は一気に距離をつめ、互いに拳を握り渾身の一撃を放つ。それはお互いの胸部装甲を貫き、拳が胸の奥へ深々と痛ましくめり込む。
「オプティマス・・・貴様の命をつないでいる物…この手で握りつぶしてくれるゥゥ!!」
腕を更に押し込み、メガトロンはオプティマスの胸にあるマトリクスへと手を近づける。
「・・・うおぉ・・・?」
苦悶のうめき声、だがそれはオプティマスのものではなくメガトロンの声であった。オプティマスもまたメガトロンの胸部装甲の奥へ腕をめり込ませていたが、その腕が・・・光を掴み取ったのだ。
「おおおお!!」
オプティマスは一気に腕を引き抜く、その腕にはSARAの小さな体がしっかりと握らていた。SARAを失ったメガトロンのボディは今の溢れんばかりの次元力を維持できず崩れ始める。だがそれでもなおメガトロンはオプティマス・・・そしてSARAへと向けその手を伸ばす。
「メガトロン・・・終わりだ・・・。」
オプティマスは背中のエネルギーユニットをイオンブラスターへと変形させ、その引き金を引く。発射されたエネルギーは真っ直ぐにメガトロンの身体を撃ち抜き、メガトロンは力なく落ちて行く。
「メガトロン・・・。」
SARAは悲しみをたたえた瞳でその名をつぶやき、オプティマスと共に次元の渦へと消えて行った。

戦いに敗れ時空の渦より通常空間…崩壊進むユニクロンの体内へと一人戻ったメガトロン。力なく地べたへと横たわるその体にすでに意識は無く、あとはこの破壊神の体と共に宇宙の塵となるのを待つだけであった。だが・・・。
「・・・メガトロン様、あなたはここデ終わるような方ではナい・・・。」
爆発に包まれる中メガトロンの身体を抱え上げる者・・・ディセプティコン兵士サウンドウェーブの姿があった。
その時、サウンドウェーブは頭脳に直接響くような謎の声を聞く。ユニクロンが崩壊直前の今、自分達以外にこの場に残っている存在がいるとは考えられない。だがサウンドウェーブは不審に思いながらも何かに導かれるようにメガトロンを抱えたままその声が導く方向へと静かに歩みを向ける。
「・・・お連れいたシます、メガトロン様・・・。」
直後、ユニクロンの身体は全宇宙を揺るがすほどの大爆発を起こし消滅した。その首だけが形をとどめ、セイバートロン星の軌道上へと乗る。この第01OG時空が今新たなステージへと進み出したのだ。

そして・・・クラウド時空メトロポリスのオートボット基地。先に無事帰還を果たしていたホットロディマス達はみな無言で待ち続けていた、自分達の希望が戻ることを信じて。
すると突如空に緑色に輝く次元の渦が観測される。オートボット戦士達は何かを確信したように皆次々と外へ飛び出し天空を見上げた。皆の視線の先に、ゆっくりと降りてくる存在が見える。
「・・・司令官!それに・・・SARA!」
ホットロディマスが声をあげたのをきっかけにオートボット達が一斉に歓声をあげる、それは間違いなく自分達の、そして全時空界の希望であるオプティマスプライムとSARAであったからだ。
次元の渦が消え、両者は静かに大地へ降り立つ。オプティマスに抱えられたSARAはその小さな体をわずかに震えさせながらつぶやく。
「オプティマス・・・あなたや・・・メガトロンを苦しめて…私は…。」
「いいんだSARA、今は君が無事に戻ってきてくれただけで。ほら…。」
オプティマスが促す先、二人へと駆け寄る仲間達の姿があった。彼らの姿を見たSARAは少女の姿相応の屈託のない笑顔を向ける。
「みんな・・・ただいま・・・!」
その優しい笑顔にオプティマスは時空界の未来を重ね、共に微笑むのであった。

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