TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 激 情 ー

第五話「激情」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

宇宙の深淵、その果てには未だ未知の存在が無限に存在している。高度な文明を築くもの、強大な力を有すもの、そして全能の神に等しきもの・・・。
全宇宙に散らばる数多の惑星、その中でも珍しい機械でできた惑星・・・トランスフォーマー達が生まれ育ち、気の遠くなるような長い年月を戦い続ける舞台、セイバートロン星。二つに別れたトランスフォーマー達の争いにより荒廃した金属の大地・・・今そこへ大いなる鉄槌が下されようとしていた。
セイバートロンの空を覆う超巨大な影・・・あまりに大きく地表の者達の目ではその全容を把握することは叶わなかったが、それは五本の指を持つ巨大な手の形をしていた。その手が勢いよく振り下ろされ、セイバートロンの大地を抉り取っていく。
「デ・・・デストロン軍団!敵襲だ!出撃しろぉぉ!!」
現在セイバートロン星の多くの領土を支配している勢力、デストロン軍団の司令塔であるレーザーウェーブが全軍に通信を送る。だが自分達の想像をはるかに超えた脅威にデストロン兵士達は恐れ完全に浮き足立っていた。
一振りで大地の形を変えた大いなる腕の先、セイバートロンの地平線から巨大な顔が覗きこむ。それは全宇宙を恐怖と破滅へと導く破壊神、惑星とならぶほどの巨大な身体を持つ全能の存在・・・。この時空の生きとし生けるもの達はそれをユニクロンと呼んだ。そして今、一人のトランスフォーマーがユニクロンの怒りを買い、荒ぶる神となったユニクロンはトランスフォーマー達の母星であるセイバートロン星を完全に破壊せんと行動を開始したのだ。地上施設からユニクロンを止めるべく飛び立って行くデストロン兵士達、だがそれは巨大なユニクロンの前では哀れなほど小さく無力な抵抗であった。

猛威を振るうユニクロン、その体内にユニクロンの頭脳ともいえるユニットが鎮座する空間があった。そのユニクロンの意識はセイバートロンを破壊しつつも、己を脅かさんとする存在が体の内部に侵入してきたことに気がついていた。更にその存在が時空を越えてこの世界そのものに侵入してきた招かれざる客であることも理解していた。ほどなく金属の足音が室内に響く、威風堂々とした白銀の鎧姿…クラウド時空のディセプティコン破壊大帝メガトロンである。傍には側近であるショックウェーブとサウンドウェーブも立ち並ぶ。
「貴様ら、この世界の者では無いな。何者だ。」
生物を超越したような威圧感を感じさせる声で問いかけるユニクロンに、メガトロンは物怖じすることなく答える。
「我はメガトロン、全時空界の命運をこの手に握る唯一無二の存在だ。」
「時空界・・・その呼び方から察するに、クラウドの世界の者か。」
時空界という概念を持ち、各時空世界を渡れるのはクラウド時空の住人のみ・・・他の時空の住人は自分達の世界以外、ましてやクラウド時空のことなど知る術はない。だがこのユニクロンと呼ばれる存在はそれを知っていた。
「クラウド・・・余に言わせれば時空世界の本質も知らず各時空の管理者を気取る愚か者達の世界よ。その世界のメガトロンが余に何の用だ。」
ユニクロンの言葉にメガトロンは不敵な笑みを浮かべ答える。
「ユニクロンとやら、ある時空で見つけたエネルギーにより我はお前を知ることができた。お前は時空を越えてあらゆる次元に存在し影響を与える者だとな。」
静かな語り口調ではあるが、恐ろしいほど冷たい瞳で相手を見据えるメガトロン。
「そんな存在が我ら以外にあると目障りなのでな。時空界の覇王である我の誕生を記念して、この手で滅ぼしてくれようと思ったのよ。」
その言葉にユニクロンは体内を震わせ低い声で笑う。
「身の程を知らぬ者め。仮に余を滅ぼしたとして、そこまで解っているならそれが時空世界にどれほどの影響と混沌を与えるか解っておるであろう。」
メガトロンは静かに右手を掲げ、エネルギーを集中する。
「だからこそよ、何が起こるかこの目で見てくれる。絶対的な存在である我と・・・SARAがな。」
その言葉と同時にメガトロンの右手からエネルギーが放出されユニクロンの頭脳ユニットに直撃し、大爆発を起こす。しかしどこからともなく響くユニクロンの笑い声は途絶えることはなかった。
「フン・・・。サウンドウェーブ、ショックウェーブよ、この広大な体内に奴の真の本体があるはずだ。すでに散開しているスタースクリーム達と共にこの体内を徹底的に破壊し、本体を見つけ出せ。」
「かしこまりましタ、メガトロン様・・・。」
ことの成り行きを静かに見つめていたサウンドウェーブはビークルモードに変形し速やかに出撃する。だがショックウェーブは冷めた瞳でその場に立ち尽くしていた。
「どうした、我の命令が聞こえなかったのかショックウェーブよ?」
するとショックウェーブは無言のままヘリの姿へ変形し、その場から飛び去っていった。
「フン・・・。さて、どうやらパーティーには遅れずに来れたようだな?」
メガトロンがそう声をかけた先、暗闇に包まれた通路からいくつかの影が現れる。その集団の最前部に立つのは、メガトロンが誰よりも知る人物であった。
「よくここまで来れたな、安心したぞ。やはりお前がいなければ面白くない・・・オプティマスプライム。」
クラウド時空オートボット司令官オプティマスプライム・・・全ての時空世界を守る希望の象徴ともいえる彼が、今メガトロンの前に敢然と立つ。 「メガトロン・・・私がいる限り、お前の思い通りにはさせん・・・!」
「フフ・・・アンダーグラウンドであのまま朽ち果てるかと思ったが、よく生きて再び我の前に現れたものよ。」
そう、あの時・・・。

クラウド時空、アンダーグラウンドのコロシアム廃墟。メガトロンがこの時空に帰還し、オートボットとディセプティコン両軍が壊滅的なダメージを受けた場所。
あれからどれほどの時間が経ったのか・・・最後にメガトロンの名を叫んだまま気を失っていたアストロトレインが目を覚ます。ダメージで思うように動かない体を引きずり周囲を見渡すと、変わらず横たわる両軍の瀕死の戦士達の姿が見える。だがそこに主人であるメガトロンの姿は無い、やはり自分達は見捨てられ置いていかれたのか・・・今まで打倒メトロポリス・オートボットのためにディセプティコンへと全てを捧げていた彼に、その事実が重くのしかかる。
「む・・・、あれは・・・。」
アストロトレインが視線を向けた先、倒れ伏す一人のオートボットが目に付く。傷だらけではあるがそれは間違いなくオートボット司令官のオプティマスプライムであった。アストロトレインは体の痛みをこらえながら落ちていた銃を拾い上げ、その狙いをオプティマスへと向ける。
「オ・・・オプティマスプライム・・・!こいつを始末すれば…きっとメガトロン様は俺を再び軍団に加えてくださる・・・!・・・い、いや・・・俺が新たな軍団のリーダーになることだって・・・!」
依然動かないオプティマスをギラついた瞳でにらみ、引き金を引こうとするアストロトレイン。だがその時、一発の銃弾がアストロトレインの手を弾いた。
「うっ!?何だと・・・!」
「動くな!ディセプティコン共!」
間一髪、オートボットの援軍がコロシアムへと突入してきた。彼らを乗せた輸送船が着陸し、先頭に立つジャズがオートボット達を先導しアストロトレインや生き残りのディセプティコンを包囲させつつ、オプティマスの元へと駆け寄る。
「司令官!しっかりしてください!私の声が聞こえますか!?」
「・・・おぉ・・・ジャズ・・・。」
瀕死ではあるがかろうじて意識を取り戻したオプティマスにジャズが安堵のため息をもらす。
「レッカーズを援軍に送り出した後アンダーグラウンドから大きなエネルギー反応を感知し、危険を感じ我々が救援部隊として急行しました。いったい何があったのですか?さ・・・SARAは・・・?」
ジャズが質問をするも、オプティマスは再び意識を失う。今は司令官や生き残った仲間達の命を救うことが最優先だと判断したジャズは救援部隊へ指示を告げる。
ジャズの指示を受けオートボット戦士達が傷ついた仲間を助ける中、包囲されたディセプティコン達にはもはや刃向かう力は無かった。オートボット戦士の一人スキッズがアストロトレインへと詰め寄る。
「さあ、何があったか聞かせてもらおうか。」
「・・・ふ、ふざけるな。貴様らオートボットに屈する俺ではない・・・!」
銃を向けられたアストロトレインが覚悟を決めた、その時である。突如上空からの猛烈な爆撃がコロシアムを襲った。
「な・・・何!?」
その攻撃は的確にオートボット達を襲い、不意をつかれた彼らは態勢を崩される。
「くそ・・・!全員輸送機へ乗り込め!今は仲間を救い状況を確認することが優先だ!」
爆撃の中アンダーグラウンドより退却していくオートボット達。唖然とするアストロトレインら生き残りのディセプティコン達の上空を、巨大なステルス機を中心とした爆撃機編隊が不気味に飛び交っていた・・・。

・・・その後、メトロポリスに戻り治療を受けたオプティマスより話を聞いたオートボット戦士達は、ホットロディマスの時空間通信を頼りに第10BS時空へ赴き彼らと合流。その後、メガトロンに連れ去られたSARAのエネルギーを頼りにここ・・・『第01OG(オージー)時空』へと到達した。 「あの場で私を完全に仕留めなかったのは間違いだったぞ、メガトロン!」
ユニクロンの体内の一室で向かい合うオプティマス達オートボットとメガトロン・・・。オプティマスと共にやってきたのはホットロディマス、ブローン、それにロードバスターとグリムロックだ。SARAを失った今のオートボット達ではそこまで大規模な時空移動をすることができずメンバーを選別しなければならない状況で、戦闘力・・・それ以上に本人達の強い希望でこのメンバーが最後の決戦へと赴くことになったのだ。 「フフフ・・・そうでもない、むしろ我の望み通りで嬉しいぞオプティマス。我がこれから起こす行動を見て、何もできず無力感に苛まれる貴様の姿を楽しむことができるのだからな。」
「メガトロン・・・いったいこの第01OG時空で何をするつもりだ・・・!」
第01OG時空・・・以前オプティマスが迷い込んだOG001時空と限りなく近く、同じく全ての事象の根源的な時空の一つとされている世界。そしてユニクロンが表舞台に現れたこのタイミングは、ここより広がる多くの時間の流れのターニングポイントともいえる重要かつ不可侵な時であった。
「ユニクロン・・・と言ったか。これが少々目障りなのでな、我が時空の覇者となった記念にこの手で消し去ってくれようと思ったまでよ。」
「な・・・何を馬鹿なことを言ってやがる!」
ブローンが驚き声をあげるもメガトロンは涼しい顔で続ける。
「今の我には造作もないこと。この時空の連中も喜ぶのではないか?」
「それはこの時空の住人の手で成されねばならないことだ・・・!もし部外者であるクラウド時空の者の手でそんなことをしたらこの後に続く時間のみならず、全時空界にどれほどの異変が起こるか・・・そんなこともわからないのか!」
怒りの声をあげるホットロディマスを制し、オプティマスが決意を込めたようにつぶやく。
「オートボット戦士達、このユニクロンの体内にいるであろう残りのディセプティコン達を止めるんだ。メガトロンとは・・・私一人で決着をつける。」
「な・・・、無茶です司令官!奴の恐ろしさは…もう奴は今までのメガトロンではありません!それにそのお体では・・・!」
ロードバスターが驚き止めようとするも、オプティマスの決意はもはや他の者達がどうこうできるものでは無い様子であった。メガトロンは静かにニヤリと笑みを浮かべる。
「わかりました・・・。司令官、どうかご無事で・・・!」
ホットロディマスの一声でブローンにロードバスター、グリムロック達は意を決したように散開していく。彼らはわかっていた、例え今の自分達が真っ向から挑んでもあのSARAの力を完全に得たであろうメガトロンには敵わないことを・・・。ならば、この場はオプティマスに・・・リーダーの意思に全てを託し、自分達は自分達にできることをするべきと判断したのだ。
「よかったなオプティマス、貴様が惨めに地に這いつくばり我に許しを乞う姿を部下に見られずに済んだな。我に負わされた傷も未だ完治せぬような状態でいったいどう戦うというのだ?」
オプティマスとメガトロン、二人だけになった空間でメガトロンがあざ笑うように言う。両者は距離をとったまましばし立ち尽くす。緊張が走る中、オプティマスが口を開く。
「メガトロン・・・、SARAの力を得たお前の本当の目的は一体何だ。いたずらに時空界を混乱させることなのか?」
オプティマスは自分の疑問、思いをメガトロンへとぶつけるように語りだす。
「長い間、私とお前は『SARA』の扱いについて対立してきた。私は時空の維持と平穏を、お前は力による支配と統一を・・・だがそれは形は違えどお互いに時空界の未来を思ってのことだったはずだ。それなのに今のお前は・・・。」
あふれる感情を抑えきれずオプティマスの握った拳が震える。
「絶対的な力による支配が正しいとは私は思わない・・・だが今のお前は、それさえも忘れ時空界を更なる混沌へと誘おうとしている!力に溺れ自らの道さえも見失ったのかメガトロン!SARAはお前が思っているようなただの力では無かったというのに・・・!」
するとメガトロンは静かに笑みを浮かべ、自らの左胸の装甲へと手をかける。
「そんなにSARAに会いたいかオプティマス、ならば会わせてやる。」
「何・・・!?」
胸の装甲が開かれると、メガトロン内部に機械に繋がれた少女…SARAの小さな体がわずかに覗き見えた。オプティマスは驚く、SARAがメガトロンに奪われたとホットロディマス達から報告を聞いていたオプティマスは、とうにSARAの少女としての体と意思は吸収され消滅したと思い込んでいたからだ。そんなオプティマスを見据えながらメガトロンはつぶやいた。
「SARAは・・・我と共に真の自由を得るのだ。」

「ちっ・・・なんだこれは、気持ち悪ぃ!」
スタースクリームが声をあげる。メガトロンの命令に従いユニクロン体内で破壊活動を始めようとしたところ、突如無数の機械触手が襲いかかってきたのだ。それはユニクロンが体内に侵入した異物を排除するための防衛組織といえるものであった。
「シャァッ!邪魔だ!」
ビーストモードのヘルワープが華麗に宙を泳ぎ、その鋭いヒレで触手を次々と切り裂いて行く。スタースクリームもナルビームキャノンで触手ごとユニクロン体内を破壊していく中、突如悲鳴がこだまする。
「う、うわああ!?誰か助けてくれ!」
触手に体を巻かれ苦しむサンダークラッカーの声だ。必死に抵抗しもがくも抜け出すことができずヘルワープ達に助けを求める、しかし…。 「・・・自力で何とかしなサンダークラッカー。それができないなら弱者は生き残れず淘汰されるのが戦場の掟だ、これからの時空界では尚更な。残念だが・・・。」
ヘルワープがサンダークラッカーへと視線を合わすことなく冷たく言い放つ。
「おい、二手に別れてこんな所一気にぶっ壊そうぜヘルワープよお。」
スタースクリームの提案にヘルワープは頷くと、二者は戦闘機と鮫に変形しそれぞれ別れ飛び去っていった。
「く・・・くそ!離せこの!」
残されたサンダークラッカーがうめく、その時銃撃が触手を撃ち抜きその隙にサンダークラッカーはからくも抜け出した。
「す、すまねえ助かったぜデッドロック・・・。」
「休んでる暇はなさそうだゼ。まったく・・・嫌なところだゼ!」
銃のエネルギーカートリッジを装填しながらデッドロックが吐き捨てるようにつぶやいた。

「メガトロンは破壊しろと命令してたが、実際このでかいやつはなんなんだ…?ユニクロンと言ったが・・・。」
戦闘機となり単独でユニクロン体内を突き進むスタースクリームが思案する。
「そうだ・・・SARAの力の一部を持つ俺様が、うまいことやってこいつの力も得ることが出来れば、あのメガトロンを超えることができるんじゃねえか?」
ここにきてスタースクリームの野望が再熱する。彼は決してメガトロンに従うのを享受したわけではない、隙あらば自分がディセプティコンのリーダー・・・ひいては時空界の王になるという目的を捨ててはいないのだ。
「これはチャンスだ・・・そうと決まればまずはこのユニクロンを言いくるめて・・・ぐえっ!?」
突然の衝撃にスタースクリームがうめき声をあげ地面に叩きつけられる。ロボットモードに変形したスタースクリームが顔をあげると、そこには彼が見るだけで不快感を覚える者が立っていた。
「よう、そんなに急いでどこへ行くんだスタースクリーム!」
それは幾度となく彼の前に立ちはだかったオートボット戦士ブローンの姿であった。ブローンは飛行するスタースクリームへと飛びかかり、両腕を組み合わせた強烈なハンマーパンチを機首へと打ち付け叩き落としたのだ。
「て・・・てめえ・・・!またノコノコと現れ俺様の邪魔を・・・!」
「お前さんがあのままおとなしくムショに入っててくれればよかったんだ。俺だってお前の相手なんて好きでやってるわけじゃないんだぜ。」 ブローンの言葉に怒りを抑えきれないようにスタースクリームはナルビームを連射する。ブローンはそれを回避しようとするも若干動きが鈍りビームが肩を掠めた。
「へ、どうした?どうやら本調子じゃねえみたいだな!」
スタースクリームの言う通りブローンは第10BS時空で受けたダメージが回復しきれてはいなかった。SARAを失ったことで再び崩壊の危機を迎えたクラウド時空、そのため今のオプティマスやブローン達には傷を完全に癒す時間は無かったのだ。だがそれでもなおブローンは不敵に笑う。
「お前さん相手にはこのぐらいが丁度いいハンデなんだよ、遠慮せずにかかってこい!」
「舐めるなぁ!」
戦車へと変形したスタースクリームが突進し、真っ向からブローンとぶつかり合った。

暗い通路の中火花をあげる破壊された電子ユニット群、それらを調査し記録している単眼の戦士…ショックウェーブの姿があった。彼は何かに気づいたようなそぶりのあと、忌々しそうに視線を向ける。
「また・・・貴様か・・・。」
静かに歩み寄るのは胸に抱いた炎のエンブレムと同じく熱い情熱を持つ勇士、ホットロディマスだ。
「お前との因縁もそろそろ終わらせようか、ショックウェーブ!」
ショックウェーブは無言で左腕のキャノンを構え、対するホットロディマスは剣を振りかざし飛びかかる。

「ギャアァァァ・・・」
名もしれぬ異星人の断末魔にロードバスターは顔をしかめる。彼の立つ通路の下、吹き抜けとなっている眼下の空間には巨大な溶鉱炉のようなものがあり、そこへユニクロンに捕食さえたであろう惑星の生き残り達が次々と落とされていた。
「溶解・・・いや、消化しているのか・・・むごい・・・。」
ロードバスターが続々と運ばれる異星人達を助けようとしたその時、足元にエネルギーの波紋が現れる。間一髪ロードバスターが気づき体を引いた瞬間、黒い影が飛沫をあげながら飛び出してきた。
「シャァァ・・・、よく気づいたな。」
飛び出してきた影、ヘルワープがロボットモードへと変形しにらみつける。ロードバスターも武器を構え臨戦体制をとる。
「現れたな・・・!お前だけは絶対に自分が倒す!レッカーズの誇りにかけて!」
「やれるものならやってみやがれ!」
ヘルワープの左腕からビームが放たれ、それは拡散し広範囲にビームの雨を撒き散らす。ロードバスターは退避すべく物陰に隠れた。
「てめえは所詮俺の獲物に過ぎないんだよ!大人しく狩られな!」
そう叫ぶヘルワープの頭上に大きな影が落ちる、彼が気がついた時には遅くその物体はヘルワープを背中から踏みつけるように着地した。恐竜の姿をしたオートボットの野獣戦士、グリムロックだ。
「ぐえっ!?て、てめえ・・・!」
だがグリムロックの下敷きになったヘルワープはすぐにワープし、少し離れた場所へ現れ距離をとる。ロードバスターはグリムロックの隣に駆け寄り並び立った。
「グリムロック、二人で奴を仕留めるぞ!」
「俺グリムロック!ロードバスターと一緒に悪い奴やっつける!」

「サ・・・SARA・・・!」
オプティマスは驚き言葉を失っていた、メガトロンに奪われたと聞きすでにSARAという少女の存在は消されていたと思っていたからだ。それでも・・・例え無意味な抵抗であったとしてもメガトロンのやろうとしていることだけは止めなければ・・・そんな悲壮な覚悟で来た彼に、この再会は思いもしないものであった。オプティマスはフラフラとSARAへ近づこうとするも、メガトロンの腕から衝撃波が放たれ体を貫く。
「むおおおっ!?」
「気安く我らに近寄るな、もはやSARAは我とともにある。我がSARAを自由へと解放するのだ。」
片膝を付きながらも顔を向けるオプティマスへメガトロンが冷徹に語る。
「・・・以前の我はこの混沌とした時空界を憂い、誰かが絶対的な力で支配し導かねばならないと思っていた。そのための力である『SARA』を我は求め、手に入れようとしていた。」
どこか遠くを見ながら、思いを綴るようにメガトロンは言葉を続ける。
「だが、その力の片鱗を手にし、そして400万年の間その暴走する力に苛まれ苦しみ続けるうちに我の考えは変わったのだ。この混沌とし拡大しきった時空界に未来など無い、いずれは破滅すると。ならば我が、絶対の力を得た我の手で破壊し、新たに創り変えてやるべきだと!」
徐々に声を荒げるメガトロン。だがオプティマスは凛とした態度で言葉を返す。
「メガトロン・・・やはりお前の心は、強大な力によって壊れてしまったようだ。私と共に時空界の未来を考えていたあの頃のお前はもはやいないのだな。」
力を振り絞り立ち上がりながら、オプティマスは声を強める。
「それにメガトロンよ、お前はSARAの意志を感じなかったのか・・・?時空界の破壊など…彼女自身そんなことを望んではいない!」
するとメガトロンは怒りの形相で突如オプティマスの顔へ鋼の拳を打ち付けた。
「SARAの意志だと・・・貴様ごときが今更そんなことを言うか!」
先ほどまで冷静だったメガトロンの態度が豹変したことに疑問を感じながらも、不意をつかれたオプティマスは歯向かうこともできずただ殴られるままであった。
「や・・・めて・・・。」
その時、オプティマスが何かに気づきメガトロンも動きを止める。二人が聞いた声・・・いや、聞くというより直接頭に響き渡る澄んだ声。それは紛れもないSARAの声であった。
「メガトロン・・・もう・・・やめて・・・。」
その悲壮な声にオプティマスは思わずメガトロンへ向け駆け出す。
「SARA!」
だが次の瞬間、メガトロンの目前でオプティマスの動きは止まる。その脇腹に深々とメガトロンの太刀が突き刺さったからだ。
「・・・お前は最後まで生かして時空界の行く末を見届けさせてやりたかったが・・・、残念だぞ、オプティマス。」
腹部に刺さった太刀が命を削り、オプティマスのスパークの炎は急速に弱まっていった。だがオプティマスは声を振り絞り願う。
「SARA・・・!力をかしてくれ・・・!メガトロンを止め、君を救える力を・・・!」
しかしその言葉にSARAは萎縮するように沈黙する。それを感じ取りメガトロンが応える。
「オプティマス、ただでさえ強大なSARAの力、今のお前の体で耐えることはできんぞ。ただ無駄死にするだけだ。」
だがオプティマスはメガトロンのボディに捕らえられたSARAへと手をのばす。
「覚悟は・・・できている・・・。残りわずかなこの命…例え小さな可能性でも・・・!」
それを見てメガトロンは太刀を握る力を強める。
「面白い、SARAよ、奴の望み通りやってやるがいい。お前の手でオプティマスに止めを刺すというのもまた良かろう。さもなくば我がこの太刀を一閃し奴の体を両断するまでだ。」
太刀がより体に食い込みオプティマスがうめき声をあげる。だがなおも手をのばし続けるオプティマスの姿に、SARAは意を決したように機械の隙間から手をのばし、オプティマスの手と重ねた。その瞬間、まばゆいエネルギーの流れが起き、あたりは閃光に包まれる。
しばらくして、光が収まった中メガトロンが無言のまま太刀を引き抜き納刀する。
「・・・あ・・・ああ・・・。」
SARAの絶望と悲しみに打ちひしがれるような声が脳裏に響く。メガトロンの眼前にあるのは、ほんの数秒前までオプティマスであったもの・・・。全身まるで真っ白に燃え尽きた灰でできた像のように、オプティマスの形をしたそれは立ち尽くしていた。触れれば崩れてしまいそうなその体からは、もはや生命を感じられない。冷ややかな目でそのオプティマスの成れの果てを見つめながらメガトロンはポツリとつぶやいた。
「この・・・愚か者めが。」

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