TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 覚 醒 ー

第一話「覚醒」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

・・・深い闇の奥底に、彼の消え入りそうな意識はあった。ふと、自分を呼ぶような声が聞こえ、思考が動き出す。
すると突如目の前の闇が裂かれ、まばゆいほどの光が溢れる。まるで世界が、自分自身が生まれ変わるような感覚。
光が収まるとその目に飛び込んできたのは見覚えのない小さな・・・少女のような存在。
「・・・う・・・ここは・・・俺は・・・?」
徐々に体の感覚が戻り周囲に目を向けると、歓声を上げる者や、機器に映ったデータを興味深そうに見つめる者達の姿が確認できた。それは自分のよく知る者達・・・そう、共に戦い続けてきたオートボット戦士達の姿。聴覚センサーが機能を回復し、その耳に最初に響いてきたのは目の前の見知らぬ少女の無垢な、そしてどこか懐かしい声であった。
「おはよう・・・、ホット・・・ロディマス。」


時空を管理するクラウド世界、その中核を担う存在「SARA」が反逆者「メガトロン」と彼の率いるアンダーグラウンドの無法者達ディセプティコンの手によって強奪されたことに始まったクラウド世界崩壊の危機。それは別の時空世界を巻き込んでの大事件となったものの、オプティマスプライムの指揮の元、時空警察オートボット達の活躍によりクラウド世界の崩壊はかろうじて免れた。そして事件より一ヶ月余りの時が経った現在――。


クラウド世界の一角にある美しき都市、クリスタルシティ。クラウド世界崩壊事件の爪痕が残るものの、修復も進み現在は平穏な街並を見せている。その中心部にある輝く水晶の湖・・・住人の憩いの場ともいえる湖畔に腰掛ける大小二つの影があった。
「ロディマス、何をしてるの?」
「釣りだよ「SARA」。こう見えても俺はちょっとした腕なんだぜ、大物を釣り上げてやるから期待して見てな!」
胸にファイヤーパターンを宿らせた赤いボディのオートボット、ホットロディマスは得意げに言いながら湖に釣竿を垂らす。そんな彼の姿を「SARA」と呼ばれた少女は緑の瞳を輝かせながら興味深々で見つめる。
「湖に、何かいるの?」
「はは、まあこのメトロポリスには他所の時空にいる魚と呼ばれるような有機生命体は存在しないが、そこはそれ、意外と面白い獲物がかかるもんさ。」
「SARA」を巡る事件の際に重傷を負い意識不明となっていたホットロディマスであったが、事件解決後「SARA」の力によって彼は再び目覚めることができた。それ以来二人は意気投合し共にいる時間が増え、事実上ホットロディマスは知識を失った「SARA」の教育係のような立場になっていた。
「ロディマス!糸が!引いてる!」
「お、来たな!よーし・・・それーっ!」
体の大きさこそ巨人と小人のような差がある二人だが、楽しげに過ごすその様子はオートボットの誰もが微笑ましく思うものであった。
「すごい!変な顔!」
「あちゃあ、シャークティコンの子供か。もっと綺麗なの釣り上げるつもりだったんだが、でもなかなか愛嬌ある顔だろ?」
「SARA」が抱えられるくらいの大きさのその獲物をひとしきり眺め湖に返した二人。そんな二人に近づく者がいた。
「これはこれは、いつの間にお前さんに妹ができたんだいロディマス。失礼、それとも恋人かな?」
からかうような口調でありつつもその顔はいたって真面目な青いオートボット、その姿を見たホットロディマスは少しばつが悪そうな表情で言い返す。
「お宅が言うと冗談なのか本気なのか解らんからやめてくれ。・・・久しぶりだな、マグナス。」
フッと笑みを浮かべ見つめ合う二人…ホットロディマスとウルトラマグナスの姿を「SARA」は大きな釣竿を抱えながらきょとんとした表情で見上げていた。


「オプティマス司令官、ダイオン警備隊よりウルトラマグナスおよびパーセプター、ただいま到着いたしました。」
メトロポリス内オートボット基地司令部にて、ウルトラマグナスと名乗ったオートボットが敬礼をしながら報告する。
「二人ともよく来てくれた。そんなにかしこまらなくてもいい、どうかラクにしてくれ。」
オプティマスプライムはリーダーとして威厳ある風格を感じさせながらも、久しぶりの旧友との再会に笑みをこぼした。
「「SARA」を奪われるという重大な危機に何もお力になれず、申し訳ありませんでした・・・。」
ウルトラマグナスは口惜しそうな表情を浮かべ、深々と頭を下げた。
「顔を上げてくれマグナス。指令系統が乱れたあの混乱の中、君達が各地で独自にディセプティコンへの迎撃や住民救助などの対処をとってくれたからこそ我々も戦い抜くことができた。君達は立派に己の責務を果たしてくれたのだ、心から感謝しているよ。」
オプティマスがそう言うとウルトラマグナスは静かに顔を上げる、その表情は硬いがどこか安堵したような雰囲気を感じさせた。
「今回君達を招集したのは情報の共有に研究、今後の相談など色々あるが・・・まずは改めて彼女を紹介しよう。」
オプティマスが促す先にはホットロディマスとその傍に立つ小さな少女。
「初めまして、「SARA」・・・です。」
あどけなさを感じさせつつも少し緊張した態度で「SARA」が挨拶をする。
「驚きました、話には聞いてましたがまさかこの小さな子があの「SARA」だとは・・・。」
「SARA」・・・クラウド世界を支える大いなる存在。それは以前の事件の最中その偉大な力と叡智を失い、今は小さな少女の姿となってオートボット達と共に過ごしている。空っぽの状態になってしまった「SARA」であったが、事件後一ヶ月余りの間彼女はあらゆることに興味を持ち、まさに子供が学習するようにその知識をぐんぐんと成長させていった。
「ううむ、実に興味深い・・・。これは我々の種族の起源にも関わる重要な事態ですよ!」
「SARA」を不思議そうに見つめるウルトラマグナスの傍、パーセプターが目の前の研究対象にいてもたってもいられないような態度で身を乗り出す。
「おい、あまり妙な考えは起こさないでくれよ。この子は今や俺達の大事な仲間なんだ。」
ホットロディマスが「SARA」をかばうように食ってかかる。
「落ち着けロディマス、ちゃんと彼らもそのことは理解しているさ。すまんなマグナス、ロディマスは「SARA」のことになると少し熱くなるところがあってな。」
オプティマスが間に入って場をなだめるも、ウルトラマグナスは別段気にする様子もなく笑みを浮かべる。
「わかってますよ司令官、彼は私にとってはまだまだやんちゃな子供のようなものですから。」
「おい!いつまでもヒヨッコ扱いはよしてくれ!」
ホットロディマスの普段とは違う少し苛ついたような態度に「SARA」は不安そうな表情を見せる。そんな「SARA」へ部屋に入ってきた大柄な戦士が声をかけた。
「ホットロディマスとウルトラマグナスは幼馴染なんだ、あれは会うたびにやりあうあの二人の挨拶みたいなものだから気にしなくて大丈夫だよ。」
言いながらそのオートボット戦士、ブローンが「SARA」をひょいと肩に抱え上げる。
「ブローン!久しぶりだな!いやこれはすごいボディだ、見違えたよ!」
先ほどまでの科学者の顔ではなく、旧友との再会を喜ぶ笑顔でパーセプターがブローンに歩み寄る。
「その場にいなかったとはいえ、君が大変な目にあった時何も出来なくて本当にすまなかった・・・。やはりこれからは私も研究だけでなく仲間を守る戦闘技術も向上すべきだと痛感したよ。君の格闘を援護する射撃の腕でも磨こうかと。」
「やめときなパーセプター、お前さんはお前さんにしかできない戦い以外の大事な役目がたくさんあるんだからよ。」
そうやって笑いあう両者の様子を見て、「SARA」もパーセプターへの警戒心が解けたように微笑む。
「ブローン、パトロールの様子はどうだったかね?」
オプティマスに言われ、ブローンは「SARA」を降ろしながら報告する。
「今のところメトロポリスのどこも異常はありません、ディセプティコンの連中もさすがに諦めたんじゃないですかね。」
あの事件の後、オートボット部隊は再度アンダーグラウンドのディセプティコン基地へと突入したが、すでにそこにはディセプティコン達の姿は無かった。その後もアンダーグラウンドの探索は続けられたが、未知の荒野は調査するにはあまりに広く危険であり、またメガトロンという指導者を失った荒くれ者達に以前のように結託して再びメトロポリスへと侵攻する力は無いと判断、ディセプティコン探索はいったん打ち切られ現在はメトロポリス周辺の再建と警戒が中心となっていた。事実この一ヶ月余りの間ディセプティコンの目立った行動は皆無であった。
「メガトロンは行方不明、スタースクリームも今はメトロポリスの刑務所内にて厳重に幽閉中。さすがにこの状況じゃディセプティコン連中も何かしでかす気にはなりませんよ。もっとも、やってきたらこのブローン様がまた叩き潰してやりますがね!」
意気揚々と腕を鳴らすブローン、その隣で同じポーズで真似をする「SARA」の姿に微笑みながらもオプティマスは思案を巡らせていた。 確かに今は平穏と言える日々が続いている、だが彼の胸には拭いきれない不安感があった。ディセプティコンをまとめあげる人物がまだいるかもしれない。それにこの世界は今も完全に救われたわけではない、そのためには「SARA」を成長させ、その力を取り戻さなければ・・・。オプティマスは不安を払い気持ちを奮い立たせるように天を仰いだ。


メトロポリスの平穏な街並み、その建物群の死角を滑るように移動し、上空へと飛び去る影がひとつ。それは誰にも気づかれることなく矢のようなスピードで進み、暗雲に包まれた荒野・・・アンダーグラウンドの地へと急ぐ。
「レーザービークが戻ッテきた。」
舞い降りた鳥型トランスフォーマー・レーザービークはたちまちディスク形態へと姿を変え、ノイズ混じりの冷たい声…主であるディセプティコン諜報員サウンドウェーブの胸部へと収納された。
「メトロポリス施設とオートボット共のデータは集まったようだな、サウンドウェーブ。」
アンダーグラウンドにある薄暗い廃墟・・・行方をくらまし潜んでいた多くのディセプティコン達がその場に集結していた。その中でも一際不気味な存在感を放つ者が前に出る。禍々しさを感じさせる紫のボディ、逆間接の異質な脚にクロー状の右手、そして左手にはブラスターを装備し、一つしかない目を鈍く光らせるその姿・・・。ディセプティコンの中でも卓越した頭脳と戦闘力、そして残虐性を兼ね備えし者、ショックウェーブだ。
「ディセプティコンの兵士達よ、ついに行動の時だ・・・。」
サウンドウェーブから転送されたデータを解析しながら周囲のメンバーに呼びかけるショックウェーブ。その言葉を聞くや否や一人の若きディセプティコンが凶悪な笑みを浮かべる。
「やっとか、早くボッツ(オートボット達)を殺したくて待ちくたびれちまったゼ。」
「はやるなデッドロック、これは極めて重要な作戦なのだからな。それにショックウェーブは今の我々にとって軍事作戦司令官だ、軍人にとって上官は絶対…それを肝に命じろ。」
デッドロックと呼ばれた若者が銃を抜き今にも発砲しそうに構えるのを隣に立つ大柄な戦士、アストロトレインが諌める。
「俺は軍人になった覚えはねえ、メトロポリスでぬくぬく暮らすボッツを殺せればそれでいいんだよ!」
銃口をアストロトレインに向け殺意剥き出しでにらみつけるデッドロック。
「まったく狂犬だな貴様は、ショックウェーブが生み出したこの殺戮マシーン・ダイノボットとまるで変わらん。」
アストロトレインが握る装置から伸びる鎖状のビームの先、白銀の冷たいボディをもつまるで恐竜のような見た目の獣が、首輪に繋がれながらも狂暴性に満ちた目をギラつかせながら低くうなり続けている。
「それともそこの凶悪犯罪者ども・・・コンバッティコンのようにショックウェーブにアタマを調整してもらうか?そうすれば貴様も少しは言う事を聞くようになるか。」
アストロトレインの指差す先には整然と並ぶ五人の兵士、コンバッティコンの姿が見える。だが彼が言うように「調整」されたその五人の瞳にはおよそ感情と思われるものが感じられない。 「冗談じゃねえ・・・俺は俺の意思でボッツを殺す。人形なんかにされてたまるかよ。」
忌々しげにコンバッティコンを睨みつけながら渋々と銃を収めるデッドロック。その目には何事かへの深い憎しみと暗い怒りの炎が燃え盛っているようであった。
「あの小僧といいショックウェーブといい、なんだか嫌な感じの奴ばかりになっちまったな。そうは思わねえかサンダークラッカー。」
「声が大きいぞスカイワープ、まあ俺も同意見だがよ・・・。」
デッドロック達のやり取りを一歩引いたところで眺めてた二人、スカイワープとサンダークラッカーが膝を抱えてぼやき合う。
「スタースクリームのバカはともかく、メガトロン様無しでディセプティコンはどうなっちまうんだ?」
「ショックウェーブはメガトロン様に忠実で信頼されてたからな、今はあいつの言うことを聞いて動くしか俺達に道は無い。お互いスタースクリームみたいにならない様うまいことやっていくしかねえよサンダークラッカー。」
自分を言い聞かせるようにつぶやきスカイワープは立ち上がる、ショックウェーブが作戦開始の号令をかけたのだ。
「誇り高きディセプティコンの精鋭達よ、反撃の時だ。全ては我らの偉大なる指導者・・・メガトロン様のために!」
ショックウェーブの宣言に応えるように、集まったディセプティコン達の奮起の声がアンダーグラウンドの大地に轟く。まるでつかの間の平穏を引き裂くように・・・。

「まったく、久しぶりに会ったと思えば相変わらず口うるさいなマグナスは。」
クリスタルシティの見回りをしながら愚痴るホットロディマス、そんな彼の肩に腰掛けながら「SARA」はいたずらっぽく微笑む。
「マグナスの前だと、ロディマスいつもと違うね。ちょっと、子供っぽい。」
「おいおい、「SARA」まで俺をそんな風に言うのか?」
少しおおげさなアクションでふてくされるようにホットロディマスが頭を抱える。
「でもわかる、二人はとても大切な、友達同士だって。」
「よしてくれ、ただ付き合いが長い腐れ縁で・・・」
その時ホットロディマスは異変に気づく。地面が小刻みに揺れる感覚・・・それは徐々に大きくなり、遥か彼方から何かが猛スピードで近づいてくるのを。
「「SARA」!乗るんだ!トランスフォーム!」
ホットロディマスはビークルモードであるスーパーカーへと変形し、「SARA」を乗せて走り出す。直後その場には建物をなぎ倒しながら巨大な列車が轟音を上げ駆け抜けてきた。
列車は急ブレーキをかけクリスタルシティのど真ん中で停止、すると車両内から大勢のディセプティコン達が我先にと飛び出してくる。 「さあ・・・パーティーの始まりだゼ!」
真っ先に飛び出したディセプティコン兵士デッドロックが両手に握った銃を乱射し、市街に銃声と住人の悲鳴が響く。乗り込んでいたディセプティコンメンバー全員が降りたところで輸送列車・・・アストロトレインもロボットモードへとトランスフォームする。
「今までの鬱憤を晴らす時だ!各自徹底的に破壊せよ!」


オートボット基地内に緊急事態を告げるけたたましいサイレン音が響く。
「クリスタルシティがディセプティコンの襲撃にあっているだと・・・!」
騒然とする司令部でオプティマスが状況確認を求める。
「現在シティ駐在の防衛部隊が応戦中のようですが・・・通信妨害を受けているようで現場の詳細な状況は確認できません!」
ラチェットが報告しながら必死に通信回復を試みる。
「クリスタルシティ近辺の防衛部隊を援護に送れ!ブローン達も近くにいるはずだ!」
オートボット戦士達に指示を出しながらも、オプティマスは妙な胸騒ぎを覚えていた。それを察したのか傍のウルトラマグナスがつぶやく。 「クリスタルシティには特に軍事的に重要な施設もありません。その分手薄で襲撃も容易だったのかもしれませんが、何か別の目的があるのかも・・・。」
その時オプティマスの脳裏にあの日の様子が思い出される、メガトロンにまんまと「SARA」を奪われたあの時のことを・・・。
「我々の目を引きつけるための陽動・・・?「SARA」!?「SARA」はどこにいる!」
嫌な予感を払いつつオプティマスが問うが、青ざめたラチェットからの報告は彼にとって好ましくないものであった。
「確か…ロディマスと共にクリスタルシティにいたはず・・・です・・・。」
「な・・・なんだと・・・!?」


クラウド世界でもっとも美しい都市と言われていたクリスタルシティ、だがその街並みは今や見る影も無く破壊され、爆音と怒号が飛び交う凄惨な戦場と化していた。
「目標確認、一斉掃射!」
逃げ惑うシティの住人に向かって、コンバッティコンの五人が一糸乱れぬ動作で銃撃を浴びせる。
「クリスタルシティ圏内の通信妨害率95%、引き続き妨害音波照射ヲ継続する。」
ビルの屋上で通信妨害工作をしながら、サウンドウェーブは戦場の様子を冷ややかな態度で伺っていた。
「せっかく大暴れできる機会だってのに高みの見物とは、あいつは相変わらずつまらねえやつだゼ。ショックウェーブの奴も姿が見えないが、偉そうなこと言ってたくせに戦いには参加しねえ臆病者なのか?」
両手で構えた銃でオートボット戦士を撃ち抜きながらデッドロックが悪態をつく。
「ショックウェーブはお前のような殺ししか能のない奴には理解できない重要な作戦を進行中だ、黙って働けデッドロック!」
アストロトレインの言葉を無視し、デッドロックは足元に転がる瀕死のオートボット戦士に銃弾を何発も撃ち込み口元をゆがませた。


「「SARA」、俺から離れるなよ!こんな連中に好きにさせてたまるか!」
ホットロディマスは建物を背に、「SARA」をかばいながら向かってくるディセプティコンを手持ちの銃で迎撃していた。
「くそ、あの赤い奴は手ごわい!出番だ、やれダイノボット!」
スカイワープの指示を理解したのか定かでは無いが、血に飢えた野獣兵士・・・恐竜型殺戮マシーンダイノボットが獲物へ向けて勢いよく飛びかかった。
「うわぁ!こ、こいつ・・・!ぐあ!?」
ダイノボットは野獣の本能を剥き出しにホットロディマスの腕、そしてボディへと何度も食らいつく。鋭い牙が深く食い込み赤い装甲を引き裂き、苦痛に表情をゆがめ呻くホットロディマス。
「だめ!ロディマスを離して!」
「サ・・・「SARA」!下がるんだ・・・!」
思わず前に出た「SARA」、だがその姿に気づいた時ダイノボットの動きが一瞬止まったようであった。すると次の瞬間ダイノボットはボディに強烈なパンチを打ち込まれ絶叫とともに大きく吹き飛ばされる。
「ブローン!」
「SARA」が喜びの声をあげる。心強い援軍、オートボット戦士ブローンが守備隊を連れ到着したのだ。だがブローンはダイノボットを殴った拳を下ろすと、傷を負いうずくまるホットロディマスを掴み上げ厳しい顔で言い放つ。
「何をしてる!こんなところで戦っている場合か!お前さんは「SARA」を安全なところに連れて行き守るのが役目だろう!街を破壊された悔しさはわかるが、大事なことを見失うな!」
その言葉にホットロディマスは我に返り、自分の足元にしがみついてる「SARA」を見つめる。
「・・・すまないブローン、お前の言う通りだ。トランスフォーム!」
ビークルモードに変形したホットロディマスは「SARA」を乗せ、瓦礫の街を全速力で走り抜けた。その姿を見送るブローンに、起き上がったダイノボットが再び襲いかかる。がっしりと組み合う両者。
「ディセプティコンのペットか?面白い、怪力ブローン様の力見せてやるぜ!」


同じ頃・・・オートボット基地施設の中に点在するコンピューター管理棟、そのうちの一箇所が奇妙な静けさに包まれていた。その建物内部に転がるはオートボット数人の遺体・・・みな一撃でボディに致命傷を受けている。そしてその先のコンピュータールームにて、一つ目を冷たく光らせながら黙々と機械を操作する者がいた。
「そこまでだ!」
背後からの声に機械を操作する手をピタリと止め静かに振り向く一つ目の侵入者、その瞳に映るのは青きオートボット戦士ウルトラマグナスの姿。
「大人しく投降しろ。派手な陽動を仕掛けておいてまんまと潜り込み目的を達する・・・、潜入と諜報
そして暗殺を得意とする貴様お得意の戦法だな、ショックウェーブ!」
ウルトラマグナスが言うや否やショックウェーブは無言で左手のブラスターから光弾を撃ち出す、それを回避しながら臨戦体制をとるウルトラマグナス。
「やはり投降の意思は無しか、ならばこちらも手荒く行かせてもらおう!」


「!・・・なんだ、この嫌な感覚は?」
オートボット基地中央の時空管理施設に「SARA」を送り届けようと走るホットロディマスを妙な胸騒ぎが襲う。ふと通りがかったコンピューター棟に違和感を感じ停車し、「SARA」を降ろしながらロボットモードへとトランスフォームする。
「ロディマス・・・?」
「「SARA」、少しここで隠れていてくれ、嫌な予感がするんだ。」
「SARA」は不安そうな表情を浮かべながらも、ホットロディマスの真剣な面持ちを見て、静かにうなずく。
施設内部に入ったホットロディマスはすぐに異変に気づく、いくら都市が大規模な襲撃を受けているからと言っても、警備兵が一人も残っていないのはおかしい・・・。そしてすぐにその感覚は戦慄へと変わる、通路に横たわるオートボット達の遺体、奥の部屋から聞こえてくる銃撃戦の音。ホットロディマスがその部屋へ踏み込んだ瞬間目にしたのは激しく撃ち合う二つの影。
「マグナス!」
ホットロディマスは見慣れた友…ウルトラマグナスの方に視線を向けてしまう。その隙を突きもう一つの影、ショックウェーブは侵入してきたホットロディマスへ反射的にブラスターを構える。
「危ない!」
まさに一瞬の出来事であった、ショックウェーブの発射した光弾に胸を撃たれ吹き飛ぶ姿…だがそれは本来の標的であったホットロディマスではなく、彼をかばったウルトラマグナスのものであった。
「マ・・・マグナス!そんな・・・!き・・・貴様ぁ!!」
逆上しショックウェーブへ飛びかかるホットロディマス、しかし押さえつけようとするも先ほどクリスタルシティで負ったダメージが大きく力が出しきれない。そんなホットロディマスの傷口へショックウェーブは容赦無くブラスターを撃ち込む。
「がっ・・・ああああ!?」
苦悶に転がるホットロディマス。さらに追い討ちをかけるように彼の目に映ったのは、部屋の入り口で泣きそうな表情でこちらを見つめる少女…彼を心配し内部へ入ってきてしまった「SARA」の姿。
「な・・・!「SARA」・・・!?に、逃げろ・・・!」
刹那、ショックウェーブは「SARA」へと瞬時に駆け寄りその右手で小さな体を掴み上げる。
「きゃあああ!?」
驚きと恐怖に悲鳴をあげる「SARA」を冷たい単眼が見つめる。
「・・・予定外の収穫だ、感謝するぞオートボット。」
起伏の少ない低い声でショックウェーブはつぶやく。すると外から事態に気がついたオートボット戦士達が集まる音が聞こえてくる。
「作戦は9割完遂した、撤退する。」
ショックウェーブは左手のブラスターで天井を破壊し、ビークルモードである戦闘ヘリの姿へとトランスフォーム、「SARA」をコクピット部分へと押し込み天井に空いた穴からそのまま上空へと飛び去っていった。
「「SARA」・・・!マ、マグナス・・・!」
ホットロディマスは傷ついた体を引きずるように立ち上がり、呼びかけに応えず横たわるウルトラマグナスの姿を見つめながら叫び声をあげる。
「うあああああっ!!」
ビークルモードへと変形し、駆けつけてきたオートボット戦士達の間を走り抜け外へ飛び出す。ショックウェーブの姿はすでに遥か彼方の空、豆粒のような大きさでかろうじて確認できる程度。ホットロディマスは全速力で追いかけようとするも負ったダメージは大きく相手との距離は開く一方であった。
走りながらホットロディマスはスパークが燃え上がるかのような激しい怒りを感じていた。それは「SARA」とウルトラマグナスという二人の大切な友を奪わんとする敵へのものであると同時に、守ることができなかった自分への怒りでもあった。

――マグナスの言うとおりだ、自分は何もわかっちゃいないヒヨッコだった――。

怒りは徐々に渇望へと変わる。力がほしい、自分はどうなってもいい、今大切な者を取り戻す力を。
「「SARA」ァー!!」
その叫びと共にホットロディマスのボディは赤く燃え上がり、火の玉となって空へと舞い上がった。
「・・・!だめ・・・、今のあなたに、その力は・・・!」
ヘリとなって空を行くショックウェーブのコクピット内で何かに気づいたようにつぶやく「SARA」、その様子に異変を感じたショックウェーブは、背後から猛スピードで近づく飛行物体を確認する。
「データに無い・・・。なんだ、あれは?」
天空を駆けるその姿、まるで燃え盛る炎のような赤いボディをもつ一機のヘリ。
「ロディ・・・マス・・・!」
「SARA」は気づいていた、それが自分を救うために命をかけて進化した友達だということを。
機銃を後方の追手へ向け乱射するショックウェーブ。ホットロディマスの変形したヘリはその弾丸の雨を抜け、加速し一気に距離を詰める。

「トランスフォーム!」
ホットロディマスは空中でロボットモードへと変形し、新たに手に入れた武装である「剣」をショックウェーブのボディへと深く突き立てて取り付く。そのままコクピット部分をこじ開け、中から飛び出してきた「SARA」を抱きかかえる。
「・・・!貴様・・・!!」
抑揚の無い中にも確かな焦りと怒りを感じさせる声でつぶやくショックウェーブ。だがホットロディマスに取り付かれたことで飛行バランスを崩し、その進行方向目の前にメトロポリスの高層ビルが迫る。
「危ない!「SARA」!しっかり捕まってろ!」
ホットロディマスは体を丸めて小さな「SARA」の体を腕の中に包む。ショックウェーブとホットロディマスはそのままビルへと激突し壁を砕き内部を破壊しながら進み、反対側の壁を突き破って建物を貫通し飛び出した。ホットロディマスは「SARA」を抱えながら地上へと落下、ショックウェーブは体制を立て直し再び上空へと高度を上げる。
「・・・作戦終了時刻だ。本来の目的はほぼ達成した、引き上げる。・・・赤いオートボット・・・今日の事は忘れんぞ。」
普段通りの冷徹な声ではあるが、その奥には作戦の進行を妨げ自分のボディを傷つけた相手・・・ホットロディマスへの激しい怒りと殺意がこめられていた。


その頃、激しい戦いが続くクリスタルシティでは戦力が集まりだしたオートボット戦士側が有利になりつつあった。
「時間だ。ディセプティコン兵士達よ、退却セよ。」
「了解、トランスフォーム!」
サウンドウェーブからの指示を聞いたアストロトレインは巨大な輸送シャトルへと変形した。アストロトレインは列車とシャトルという二つの巨大ビークルへの変形能力をもつトリプルチェンジャーなのだ。
ディセプティコン達が一斉にアストロトレインへと乗り込む中、未だ攻撃の手を休めないデッドロック。
「あいつ…、おいダイノボット!あの狂犬を連れ戻して来い!」
スカイワープの手に握られた装置からビームの鎖が伸び、ブローンと交戦中のダイノボットの首輪につながりその首輪から電流が流れる。するとダイノボットは苦悶にうめきながらも大人しくなり、スカイワープの命令にしたがいデッドロックに噛み付き持ち上げて、アストロトレイン内部へと戻っていく。
「痛ぇ!離せこの獣が!俺はまだ殺したりないゼ!」
「まったく…獣の方がまだ躾ができてるってもんだ。」
同じくアストロトレインに乗り込みながら、スカイワープとサンダークラッカーはやれやれと顔を見合わせた。
「逃げる気か!?そうはさせんぞディセプティコンどもめ!」
ディセプティコン全員を収容し離陸しようとするアストロトレインへ、傷つきながらも攻撃を仕掛けようとするブローン達オートボット守備隊。
「そう死に急ぐなオートボットよ、今日のところは挨拶のようなものだ。次に会う時までせいぜい仮初めの平穏を楽しむがいい!」
飛び立ったアストロトレインは捨て台詞と共に大地へ大量の爆雷を降らせた。
「みんな伏せろ!」
ブローンの叫びをかき消すように轟く爆発音。爆煙が晴れた時すでにアストロトレインとディセプティコン達の姿は無かった。
「くそ!また連中に好き放題やられたままかよ・・・!」
悔しさをあらわにしながらも、ブローンはオートボット戦士達に周囲の救助活動を始めさせた。


深い闇の中混濁する意識、体が燃えるような感覚。だがそこに暖かい光が差し、瞳に飛び込んできたのは・・・見覚えのある小さな少女の姿。聞き慣れた心安らぐ声が聴覚センサーに響く。
「よかった・・・ロディマス・・・!」
ガレキの中横たわるホットロディマスの胸の上で「SARA」が安堵の表情を浮かべる。その時オプティマスから通信が入る。
「聞こえるかロディマス!?ようやく通信が回復した。安心しろマグナスは一命はとりとめた、「SARA」はどうなった!?」
意識がまだはっきりしないホットロディマスの代わりに「SARA」が通信に応えその無事を伝える。その様子を見ながらホットロディマスは二人の友人の無事に安堵しながらも、今回の件で己の未熟さを痛感していた。だが・・・。
「守ってやる・・・俺の手で時空世界も、仲間達も・・・!ディセプティコン共・・・例えお前達が何を企んでいようともな・・・!」
新たな戦いへ向け、胸の炎のエンブレムのように熱く強い決意を固めるのであった。

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