TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 豹 変 ー

第一話「豹変」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「なんだ・・・あの光は?」
クラウド時空、アンダーグラウンドの荒野。そこを走る五つの影が目的の方角より天へと伸びるエネルギーの柱が巻き上がったのを確認する。その光は神々しさよりも恐怖や不安感を感じさせるものであった。
「どうやら大変なことが起きているようだ・・・急ぐぞ!」
五つの影はよりスピードを上げ戦場へと急行した。


アンダーグラウンドにあるコロシアム廃墟、数刻前までオートボットとディセプティコンの激しい戦闘が繰り広げられていたそこに、今は戦いの喧騒は無かった。時空を越え帰還を果たしたディセプティコン破壊大帝メガトロン・・・彼がショックウェーブを通して放った一撃が、全てを吹き飛ばしてしまったからだ。彼がいるコロシアム地下室には地上までの大きな穴が開き、アンダーグラウンドの曇天が覗き見えていた。
「ふむ・・・悪くない威力だショックウェーブ。貴様の体を使えば我にかかる負担も少なくすむな・・・む?」
メガトロンが手を離した途端、砲台となったショックウェーブの体が力なく崩れ落ちた。度重なる戦いのダメージ、そしてメガトロンの強大なるエネルギーを放出した衝撃に、その命は耐えられなかったのだ。
「己が身を投げ打っての忠誠心・・・いや、狂信というべきか・・・見せてもらったぞショックウェーブ。」
メガトロンが動かなくなったショックウェーブの亡骸を静かに見つめていると、ガレキが崩れ中からオプティマスが這い出てきた。
「メ・・・メガトロン・・・!」
だがオプティマスもまた傷だらけの状態で、とてもメガトロンと戦えるような状態ではなかった。それでも彼は不屈の精神で宿敵の前に立ちはだかろうとしたのだ。メガトロンはそんなオプティマスの姿を一瞥したが、すぐにまた足元に転がる部下の亡骸へと視線を落とし、ゆっくりと腰に携えた小太刀を抜く。
「ショックウェーブ、貴様ほどの兵士をこのまま失うのは惜しい。再び我に仕える力を与えてやろう!」
メガトロンはまるでオプティマスにも聞かせるように大声で叫ぶと、小太刀をショックウェーブの亡骸へと突き立てた。瞬間激しいエネルギーが流れ込み、その光にオプティマスは一瞬目を背ける。次の瞬間オプティマスが目にしたのは、先ほどまで物言わぬ鉄塊となっていたショックウェーブが、メガトロンの前にうやうやしく膝まづき頭を下げている姿であった。
「メガトロン様・・・もったいなきお心遣い感謝いたします。」
傷ついていた発声回路も治り、ショックウェーブは見事に蘇ったのだ。
「死したスパークを蘇らせるとは・・・!メガトロンはやはりSARAの力を得たというのか・・・?」
オプティマスは目の前の事態に驚愕しながらも、力を振り絞り銃を構える。ここでなんとしてもメガトロンを止めねばクラウドの、全時空界の未来は無い。だがオプティマスが撃つよりも早く、メガトロンは掲げた腕より稲妻のようなエネルギー光線を走らせ、オプティマスの体を容赦なく撃ち抜いた。
「むああああっ!?」
堪らずオプティマスはその場に崩れ落ちる。だがメガトロンはその姿よりも自分の腕の方を気にしながらつぶやく。
「ふむ・・・我がボディが耐えられる出力はやはりこのぐらいか・・・。」
その時ショックウェーブが前に出て、左手のブラスターを構え倒れているオプティマスにとどめを刺そうとする。だが・・・。
「余計な真似はするなショックウェーブ、もはやそいつには何も出来ん。むしろ生かしておいて己の無力さと時空世界の行く末を見せつけてやろうではないか。」
メガトロンの静止の言葉にショックウェーブは不服そうな表情を浮かべるも、静かに銃口を下ろした。
「さて・・・、どうやらもう一人、分不相応な力を得た者がいるようだな。サウンドウェーブよ、奴を連れて来い。」
メガトロンの傍らに立ち事態を静観していたサウンドウェーブが、命令を聞きディメンションゲート発生装置へと向かう。その装置につながれたカプセルを開くと、中から一人のトランスフォーマー…スタースクリームが現れ地面へと倒れこんだ。
「がっ!?・・・う・・・うう・・・俺は・・・?」
倒れたショックで意識を取り戻したものの、スタースクリームはエネルギー不足とディメンションゲート発生のための衝撃によりボロボロの状態であった。そんな彼をサウンドウェーブは表情ひとつ変えないままメガトロンの元へと引きずっていく。
「メ・・・メガトロン・・・生きていたのか・・・!?」
うつ伏せのままなんとか顔を上げたスタースクリームは、目の前に立つ白銀の鎧を纏った姿に驚愕する。
「しばらく見ぬ間に見違えたぞスタースクリーム。どうした、その背中の砲は我を討つためのものか?」
メガトロンの挑発するような言葉、だがいかにスタースクリームとはいえ、目の前の者が持つ計り知れないパワーと恐ろしさに気づかないほど愚かではなかった。
「問おうスタースクリーム、貴様の主は誰だ?」
「あ・・・あなた様ですメガトロン様。」
スタースクリームは感情を押し殺すように頭を下げた。いかに生まれ変わった自分でもこのメガトロンには勝てない…今は。
「フン。サウンドウェーブ、こいつにエネルギーを補充してやれ。その新たな力、少しは使えそうだからな。」
そう言ってメガトロンは薄く笑うと、何かに気づいたように地上へと続く大穴を見上げた。
「感じるぞ・・・。そこにいるな、SARAよ。」


メガトロンがショックウェーブの砲台から放った一撃が過ぎ去った直後…コロシアム地上ではオートボットディセプティコン問わず、多くの者がダメージを負い戦闘は中断を余儀無くされていた。
「サ・・・SARA・・・、すまない、助かったぜ・・・。」
オートボット戦士ブローンがつぶやく。SARAの近くにいたブローン、そして恐竜型戦士のダイノボットはSARAがとっさに張ったバリアによりダメージは軽微であった。だがSARAはバリアを解くと力が抜けたようにゆっくりと倒れこむ。
「お、おい大丈夫か!?」
とっさに抱えようとするブローンより早く、ダイノボットがその体でSARAを支え、労わるように顔を擦り付ける。位置的に直撃ではなかったが、その強力な破壊力から仲間を守ったSARAは気を失っていた。
「なんだったんだ・・・今のは。」
言葉にできぬ恐怖を感じながら、ブローンは周囲を見回す。オートボットもディセプティコンも傷だらけであり、直撃を受け蒸発してしまった者もいるようだった。


「な・・・なんで俺をかばった・・・?」
ディセプティコンの若き凶戦士、デッドロックは自分を守るように覆いかぶさるオートボット戦士アイアンハイドへ問いかける。だがアイアンハイドの装甲は焼け焦げ、意識を失っているようであった。
「俺がお前を殺さないとでも思っているのか?ああ!?」
アイアンハイドの頭へ銃口を突きつけながら吠えるも、舌打ちをしながらデッドロックは顔を背けた。
「チッ・・・断末魔の声も聞けないボッツを殺してもつまらねえゼ・・・。」


「うう・・・お前達!状況を報告せよ・・・!」
傷ついた体を支えながらアストロトレインが叫ぶも、周囲のディセプティコン兵士からの返事は無かった。彼もとっさに直撃は避けたものの、大きなダメージを負い戦闘を続けられる状態ではなかった。
「ア・・・アストロトレイン・・・助けてくれ・・・スカイワープが・・・!」
フラフラとおぼつかない足取りで近づいてきたのはディセプティコン航空兵のサンダークラッカー、そして彼の肩には力なく支えられたスカイワープの姿があった。だがスカイワープの方はあの砲撃を避けられなかったらしく、ボディの左半分が無くなり半死半生の状態であった。そんな二人にアストロトレインは厳しく言い放つ。
「チッ・・・戦えなくなった兵士に価値は無い!オートボット共も傷ついたチャンスだというのに、誰か戦える者はいないのか!」
アストロトレインと同様、ブローンもまた現状を把握できず次の手を決めあぐねていた。ディセプティコン達はもはや問題ではないが、何かとてつもないことが地下で起こっているのは明らかだ。ここはSARAを安全なところまで連れて逃げるべきか、そもそも司令官やロディマスはどうなったのか・・・。だが眼前の敵、アストロトレインはこの状況にあってなお戦意を失ってはいないようであった。
「ショックウェーブの作戦がうまくいったかはわからんが・・・俺は自分の任務、オートボット殲滅を遂行するだけだ!」
ダメージを負った体を顧みず銃を構えるアストロトレイン、ブローンもまた迎え撃とうと戦闘体勢をとる。だがその時突如銃撃が降り注ぎアストロトレインのボディを撃ち抜いた。
「がああ!?な、なにぃ・・・?」
たまらず吹き飛ぶアストロトレインを驚いた表情で見つめるブローンの前に、五人の戦士が並び立った。
「そこまでだディセプティコン!オートボット特殊部隊レッカーズ到着!」
「お前ら!来てくれたのか!」
思わぬ援軍に表情が明るくなるブローン。彼の元にレッカーズ五人のうちの一人、一際大柄で重火器を満載した戦士が駆け寄る。
「大丈夫かブローン、自分達は時空間通信でパーセプターに呼び寄せられたんだ。」
「そうかパーセプターが・・・、お前さん達が来てくれたなら心強いぜロードバスター。」
ロードバスターと呼ばれた大柄の戦士の他、目の前に立つはトップスピン、ツインツイスト、アイアンフィスト、ホワールの四人。彼らはレッカーズと呼ばれるオートボット特殊戦闘部隊であり、普段は時空を乱すようなイレギュラーとなる事件を解決する言わば時空警察のスペシャリスト達である。
「各時空に散らばっていたんで全員は集まれなかったけど、急いで来たおかげで肝心なタイミングには間に合ったみたいだね。よかった…。」 そう言いながらアイアンフィストは拳を鳴らし周囲のディセプティコンを見回す。
「追ってたでかいヤマのせいでしばらくクラウド時空に戻ってなかったが、今回はなんとか力になれそうだ。しかしこれはどういう状況なんだ?どちらもここまでボロボロになっているとは・・・。」
ロードバスターの疑問にブローンが答える。
「俺にもよくわからん、だが地下で何かが起こっているのは間違いない。司令官とロディマスもそこにいるはずなんだが…。」
「そうか。ならばまずは地上のディセプティコン共を制圧してから調査しよう!」
そう言うとロードバスター他レッカーズのメンバーは身動きできそうな数人のディセプティコンへと向け武器を構える。
「レッカーズ、ミッションスタート!」


コロシアム地下、メガトロンは地上へと意識を向けていた。だがそれは壊滅寸前のディセプティコンへではなく、ましてや増援のレッカーズでもない、たった一つの目標・・・。
「感じるぞ、そこにいるかSARA。久方ぶりに我が会いにいこう。」
そんなメガトロンにショックウェーブが無感情に意見を述べる。
「メガトロン様、ディメンションゲート発生テクノロジーはすでに私が得ております。メガトロン様の強大なお力を使えば今や自由な時空移動が可能でしょう。時空を支配するに足る力を得たメガトロン様にとって、もはやSARAなど無用の存在かと・・・。」
言いながらショックウェーブは静かに前に出る。
「ですがあのような弱々しい姿になっていてもSARA・・・、万が一にでもメガトロン様の覇道の妨げになるやもわかりません。ご命令頂ければ速やかに私が破壊して参りま・・・」
そこまで言ってショックウェーブの言葉は遮られた、メガトロンの鋼の拳が彼の顔に叩き込まれたのだ。吹き飛び地面に叩きつけられるショックウェーブをメガトロンは冷たい表情でにらみつける。
「愚か者めが…でしゃばった真似をするなショックウェーブ、あれは貴様ごときの理解を超えた存在なのだ。それに我が力は未だ完全ではない、SARAを手にいれることは変わらず我らの最優先事項なのだ。」
ゆっくりと立ち上がるショックウェーブ、その瞳は相変わらず無機質な光をたたえている。
「…失礼しました、メガトロン様。それでは地上に向かいSARAの捕獲を・・・」
「そ・・・そうはさせない・・・!」
突然の声に身構えるショックウェーブ、その眼前にはガレキの中から立ち上がる傷だらけの戦士…ホットロディマスの姿があった。ショックウェーブは静かに銃口を向けるも、メガトロンがそれを制し前に出る。
「力が有り余っているのでな、少し遊ばせてもらおう。」


同じ頃、地上ではレッカーズの手によりディセプティコン兵士達が制圧されつつあった。もはや今のディセプティコンに戦い続ける余力はなく、最後まで抵抗したデッドロックとアストロトレインもレッカーズ五人に包囲されてしまった。
「クソ!ボッツのクセにエゲツねえ連中だゼ!だがただでは死なねえ!」
「粋がんじゃネェーヨディセップの小僧!お前はこの場で裁いて死刑だ!」
レッカーズのホワールがデッドロックの頭部に銃口を向け脅しかける。傷だらけのアストロトレインももはや動けそうにない状態であった。
「あいつら・・・頼りにはなるんだが少々血の気がありすぎる。SARAが気を失っててよかったぜ・・・。」
ブローンがそう思ったその時、地下へと続く大穴から突如何かが飛び出して天高く舞い上がった。レッカーズは一斉にその物体へと銃を向けるも、そのまま地上へと落下したその姿を見て驚愕する。
「ロ・・・ロディマス!?」
それは地下から吹き飛ばされてきたホットロディマスであった。すでに意識を失っているように見える彼の元へブローンが駆け寄ろうとするも、ぞっとするような気配に動きが止まる。それはブローンだけでなく、レッカーズ、そしてデッドロック達ディセプティコンも同様であった。
宙を飛び大穴からゆっくりと姿を表した者・・・その姿はその場にいた誰もが知り、そして恐れている相手であった。
「メ…メガトロン!」
地上に降りたメガトロンはゆっくりと周囲を確認する、だがそれは部下であるディセプティコン達の安否を気遣う物ではなく、たった一つの目的に向けての物であった。
「見つけたぞ・・・SARA!」
ダイノボットが本能的に体を丸めて隠していたものの、メガトロンはしっかりとその存在を見つめ、静かに歩み出した。だが凍りついていたような空気を裂くように、レッカーズがメガトロンの前に立ちはだかる。
「犯罪者メガトロン!ディセプティコンはもはやここまでだ!大人しく投降しろ!」
そんなロードバスターの言葉をまったく聞く様子もなく、メガトロンは静かに歩みを続ける。
「投降の意思は無しか・・・ならば!」
レッカーズ五人が一斉にメガトロンへ向け銃を構える、だが一向に止まる気配のないメガトロン。その姿に彼らはえもいわれぬ気味の悪さを感じるも、それを払うように声を張り上げる。
「やむを得ん!撃てー!」
レッカーズ五人が一斉に銃撃を放つ。だがその銃撃が届くより早く、メガトロンは愛用の太刀、フュージョンブレードを引き抜き一閃。その居合は強大なエネルギーの衝撃波を生み出し、レッカーズの放った銃撃をかき消し、そのまま彼らへと襲いかかった!
「うわあああ!?」
その圧倒的な威力の前に吹き飛ばされるレッカーズの五人。メガトロンはまるで何事も無いようにSARAへと歩みを続ける。
「と・・・とんでもない奴が戻ってきちまった…だが!」
ブローンは恐怖心を払ってSARAの前に立ち、ダイノボットもそれに並んだ。その時メガトロンの歩みが止まる、倒されたと思ったレッカーズが立ち上がり再び戦闘体制をとったのだ。
「ほう・・・オートボットの中にも少しは骨のある連中がいたか。」
「当然だ・・・自分達はオートボット特殊部隊レッカーズ、時空を乱す全てのものを排除するのが使命だ!」
ダメージを負いながらも声を張り上げるロードバスター、その姿を楽しげに見据えるメガトロン。その時メガトロンの元にフラフラと近づく者がいた。
「メ・・・メガトロン様・・・。どうかこいつをお助けください・・・。」
それはスカイワープを抱えたサンダークラッカーであった。半身を失ったスカイワープはもはや傍目には助からないように見えた、だが・・・。
「よかろう、我もまだ自分の力に未知なる部分が多い。あらゆることを試してみねばな!」
そう言うとメガトロンは小太刀を振り上げ、スカイワープの胸へと突き立てた。サンダークラッカーはわけもわからず驚き倒れこむ、周囲の戦士たちもその光景に唖然としていた。
「失くなった体の分は別の生物の遺伝子を組み込んでみるか、我が手で新たな命を創造してやろう。」
まばゆい光と共に膨大なエネルギーが流れ込むと、スカイワープの体はグズグズと崩れながら再構成を始め、みるみる異形化、そして大型化していった。
「お、恐ろしいゼ・・・あれがメガトロン様の力だってのか・・・?」
凶悪なデッドロックも目の前の事態にただただ呆然としていた。やがて光が収まり、湧き上がる蒸気の中から奇怪な姿が現れる。
「・・・ッ・・・シャァァァ・・・!」
漆黒の翼を背負うシルエット、その体色は確かにスカイワープを思わせるものであったが、まるで半分獣のように思えるその姿は、すでに元の面影を残していないほど変化していた。
「お・・・おい・・・、お前・・・スカイワープなのか?大丈夫なのかよ・・・?」
目の前の相手に怯えるような声で問いかけるサンダークラッカー、スカイワープだったと思われる存在がそれに答える。
「大丈夫かだって・・・?ああ・・・最高だ・・・!地獄から舞い戻ったようにいい気分だぜ・・・!」
その様子を満足げに見ていたメガトロンが新たな下僕に命令を下す。
「貴様には我が偉大なる力の片鱗を授けた、オートボット相手にその力を試してみるがいい。」
その言葉を受け漆黒の戦士はレッカーズ達をにらみつける、事態をただ見ているしかできなかった彼らに戦慄が走る。
「俺の名は・・・ヘルワープ・・・!貴様らにも俺と同じように…地獄を見せてやるぜ・・・シャァァッ!!」

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