TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 危 機 ー

第一話「危機」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「ディセプティコン、アターック!」
号令と共にメトロポリスになだれ込むディセプティコンの兵士達、「SARA」を失い崩壊へと向うクラウド世界の大地でなおその侵攻は続いていた。オートボット戦士達が迎え撃つも、連日の襲撃による消耗、そして何より「SARA」とリーダーを同時に失っている今の状態では満足に戦い抜くこともできず、激しい破壊とエネルギーの略奪があちこちで起きていた。
その様子を遠目からまるで支配者のような態度で満足げに見ている者がいた、ディセプティコンの元ナンバー2、スタースクリームである。
「さあ破壊しろ俺様の忠実なディセプティコン兵士ども!ニューリーダーのこの俺様に従ってなあ!」
数日前…アンダーグラウンドでのオートボット達による「SARA」奪回作戦の日、両軍リーダーのオプティマスプライムとメガトロンはいずこかへと消え、現在も行方不明のままであった。そこでスタースクリームはこれ幸いとばかりにメガトロンにとって代わりディセプティコンナンバー1であるリーダーの座に居座ったのである。もちろん多くのディセプティコン兵は彼のことを信頼しているわけではないのだろうが、バラバラだったアンダーグラウンドのならず者達がメトロポリスへ侵攻するには軍団をまとめる司令塔が必要なのもまた事実であった。
「ヘヘ、メガトロンの腰巾着だった目障りなショックウェーブは、ご主人様がいなくなったのが応えたのか基地に引きこもって出てこねえ。このスタースクリーム様の王座を阻むものはもはやいない。一気にメトロポリスを占拠して俺様の王国を築いてやるぜ!」
上機嫌に笑うスタースクリーム、そこへ一機の戦闘機が飛んできた。
「トランスフォーム!おいスタースクリーム!」
ロボットモードに変形し、いらついた態度で近寄ってくる者、ディセプティコン兵士のブリッツウイングである。
「なんだブリッツウイング、さっさとオートボット共をぶっつぶしてこい!」
顔を見るなり明らかに不愉快そうな態度でスタースクリームが命令する。
「リーダー面するのもいいがなスタースクリーム、それならしっかり戦況を把握して指示を出せ!いくらオートボット共が弱っているとはいえ下手な指揮では手痛い反撃を受けるぞ!」
「うるせえや!オートボットのマヌケ共にやられるような兵は俺様の部下には必要ないんだよ、さっさとお前も行って戦いやがれブリッツウイング!」
どこまでも横柄な態度のスタースクリーム。
「チッ…、お山の大将きどりで命令出しているだけじゃ誰もお前をリーダーなんて認めないぜ?少しは戦闘にも参加して力を見せたらどうだ?こんな風にな…トランスフォーム!」
はき捨てるようにつぶやいてブリッツウイングは戦車へと姿を変え、大砲を撃ちこみながらオートボット守備隊を撃つべく向っていった。ブリッツウイングはロボット・戦闘機・戦車と3種の姿へと変形できるトリプルチェンジャーと呼ばれるトランスフォーマーの一人である。その複数の姿へと変わる特殊能力は先天的なものであり、多くのトランスフォーマーにとってその力は羨むものであった。
「クソっ・・・トリプルチェンジャーだからってえらそうにしやがって・・・その力、俺様が持っていればもっと有効に使えるのによ!」
ブリッツウイングの姿を苦々しげに見つめながらスタースクリームはぼやく。
「だが見てろよ・・・俺様には秘密兵器があるんだ。これを使えばこの世界の連中全てが俺様にひざまづくことになる・・・!このニューリーダーのスタースクリーム様になあ!」
叫びながらスタースクリームは戦闘機へと変形し、爆音あげて戦場へと向って行った。

「く・・・皆!陣形を崩すな!」
メトロポリスのオートボット守備隊基地が大規模なディセプティコンの襲撃を受ける中、オートボット戦士の副官ジャズが必死に指示をだす。しかし満身創痍の彼らは今までにないほどの苦戦を強いられていた。
「怪我人が多すぎる!ここは施設を放棄していったん引くしかない!」
ラチェットが傷ついた仲間に応急処置をほどこしながら苦汁の提案をする。
「仕方ない・・・オートボット戦士!ここは退却…」
「じょ…冗談じゃないぜ」
ジャズの撤退の指示を阻む声、オートボット戦士の一人ブローンだ。
「ブローン!なぜ出てきた!お前の身体は今まともに動ける状態じゃないんだ!」
「SARA」奪還作戦の際、メガトロンの手によって「SARA」の強烈なエネルギーを浴びたホットロディマスとブローンはその力に耐え切れず、溢れるエネルギーによって内部から侵食されているのであった。
「オプティマス司令官は行方不明・・・ホットロディマスも意識がもどらない・・・。こんな時に何もしないで寝ていられるわけがないだろう・・・!」 ラチェット達の制止を振り払い、ボロボロの身体を引きずりながらブローンは前へと出る。
「あの時司令官が消えるのをただ見ているしかできなかった自分が、俺は許せないんだ!!」
叫びながら近くにいたディセプティコン兵士を殴り倒すブローン、その気迫に周囲の者達は圧倒される。しかし・・・。
「どけどけ!ニューリーダー様のお出ましだ!」
突如上空に現われた戦闘機によりビーム攻撃が降り注ぎオートボット達を襲う、その戦闘機…スタースクリームはロボットモードへと変形、ブローンの前に立ちふさがり不敵に笑う。
「こんな死に損ないの連中にいつまでも苦戦してるんじゃねえよ、くたばれ!」
放たれるスタースクリームのナルビームキャノン、その一撃は傷ついたブローンの胸を容赦なく撃ち抜いた。
「がっ!ああぁぁ・・・ぁ・・・」
力なく吹き飛ばされるブローン、周囲のオートボット達は声にならない叫びをあげる。
「ブローン!しっかりしろ、ブロ・・・」
駆け寄ったラチェットの表情が凍りつく、それを見たジャズ達は聞かずとも理解した、ブローンの命の火が消えてしまったこと・・・仲間の紛れもない「死」を。
「よ…よくもブローンを・・・!貴様ら!今の状況がわかっているのか!?「SARA」無き今このクラウド世界自体が滅びへと向っているんだぞ!こんな中でまだ戦い合うというのか!?」
仲間を殺された怒りと悲しみに頭脳が焼き切れそうな感覚に陥りながら、ディセプティコンへ問いかけるラチェット。だがスタースクリームは相変わらず薄ら笑いを浮かべ勝ち誇ったように語る。
「フフフ…安心しろ、お前らを全滅させ俺様がクラウド世界を掌握しさえすればそんな心配はなくなる。これさえあればな!」
言いながらスタースクリームは隠し持っていたエネルギーユニットを取り出す。
「ん?あいつ・・・一体何をする気だ。」
少し離れた場所でオートボット守備隊と戦っていたブリッツウイングがスタースクリームの方へ注意を向ける。
「こいつはな…メガトロンのヤツが消えた部屋に残っていたエネルギーを回収したものだ。その部屋に何があったか知っているか?「SARA」だよ。つまりこいつは「SARA」の残留エネルギーってわけだ。」
その言葉にオートボットはもとより周囲のディセプティコン達も驚く。これぞスタースクリームが独断で控えていた『切り札』なのだ。
「聞け全クラウド住人共!このエネルギーを得れば俺様は「SARA」の圧倒的な力を手に入れられる。全時空を支配する覇王の誕生を見るがいい!」
戦場に響く大声で高らかに宣言し、スタースクリームは「SARA」の残留エネルギーが詰まったユニットを自身のボディへつないだ。
それを見ていたラチェットの脳裏にブローンやホットロディマスの惨状が浮かぶ。
「やっ・・・やめるんだ!」
それは反射的に出た言葉、仲間を殺した憎い相手に対してでも向けられたラチェットの医者としての本心であった、だが・・・。
「うぐああああああ!!?」
閃光に包まれながらスタースクリームは絶叫、溢れるエネルギーが撒き散らされ爆発が起き、周囲の両軍戦士達はたまらず下がる。
しばらくしてエネルギーの暴走は収まり、全身をズタズタに焼き裂かれたスタースクリームが膝から崩れ落ちた。「SARA」のエネルギーは個々のトランスフォーマーが到底耐え切れるものではない・・・例えわずかな残留エネルギーであってもそれは例外ではなかった。
スタースクリームは途切れそうな意識の中、自分に何が起こったのか理解できずにいた。
「そんな・・・なんで・・・こんな・・・うあっ!?」
突如背後から蹴りつけられ地べたに叩きつけられるスタースクリーム。顔を上げるとそこには冷ややかな視線で見下ろすブリッツウイングが立っていた。
「みっともない姿をさらしやがって、この鉄クズが!」
倒れたスタースクリームを容赦なく踏みつけ吐き捨てる。
「て・・・てめえ・・・ニューリーダーのこの俺にこんな・・・がはっ!?」
全身のダメージに息も絶え絶えになりながらも言い返そうとするスタースクリームをブリッツウイングは強く蹴り飛ばす。
「誰がお前をリーダーと認めたと言った?メトロポリスを攻めるのにバラバラの兵をまとめる役が必要だったから従ってるよう見せてただけだ。だが敵前でこんなみっともない姿をさらすとは…どこまでも使えない奴だ!」
冷たく本心を告げ、ブリッツウイングは手持ちのライフルを構える。
「やはりお前ごときじゃリーダーの器じゃなかったってことだ、スタースクリーム。」
「ち・・・ちくしょおゥゥゥ!」
ボロボロの体を引きずりながらスタースクリームは転がるように命からがらその場から逃げ去る。
事態を呆然と見ているしかできなかったオートボット達、しかしブリッツウイングの銃口が自分達に向けられたことで、再び緊張が走る。

「さて・・・茶番は終わりだ。降伏してもらおうかオートボット。」
「ふ・・・ふざけるな!誰がお前達などに・・・」
ジャズが言い返そうとするも、気づけば周囲を完全に包囲され、すでに逃げ場の無い絶体絶命な状況に陥っていることに気づく。
「その気が無いなら構わんさ、貴様らはこの場で皆殺しにするまでだ。」
ブリッツウイングが銃の引き金に指をかける。
「もはやこれまでか・・・司令官・・・。」
ラチェットはブローンの遺体を強く抱きかかえ、数秒後には自分達も冷たい金属の塊と化すことを覚悟した。

――瞬間、ラチェット達の頭上に閃光が走る、膨大なエネルギーの渦が巻き起こり、空間が裂けた。
「あれは…ディメンションゲート・・・!?」
直後ゲート内より一閃、ビームの一撃が放たれブリッツウイングのライフルを破壊する。
「な!?なんだと!一体何が!?」
ブリッツウイングだけでなく周囲のディセプティコン達も事態を把握できずうろたえる。だがオートボット達は気づいていた、次元の向こうから感じられるその懐かしくも頼もしい気配を。
銃を構えながらディメンションゲートから現われたその姿は、赤く堅固なボディと青い瞳に強い意志を秘めた戦士。手には小さな機械の少女を優しく抱えている。それは紛れも無くオートボット達全ての希望の象徴、ラチェット達は声を揃えその名を呼んだ。
「・・・オプティマスプライム司令官・・・!我らがリーダーの・・・帰還だ・・・!」

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