TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 衝 撃 ー

第三話「衝撃」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「ショ…ショックウェーブ!?」
反射的に叫んだホットロディマスに向かって、紫の戦闘ヘリ・・・ディセプティコン兵士ショックウェーブが猛スピードで突っ込んでくる。ホットロディマスは咄嗟に全身で受け止め、強烈な衝撃に一瞬意識が揺らぐもののその威力を利用し、ヘリを壁に向かって勢いよく放り投げた。だがショックウェーブは壁にぶつかる直前でバランスを取り戻しロボットモードへと変形し着地、一つ目が鈍く発光し邪魔者を見すえる。
「まさか別時空から帰ってきたらお前に出迎えられるとはなショックウェーブ、ただいまと言うべきか?」
軽口を叩きながらもホットロディマスはSARAを下がらせ、目の前の敵へと戦闘体制をとる。
「パーセプター達は何故ディメンションゲートを閉じないんだ?これじゃ・・・」
ロディマスが自分の背後にある時空移動マシンと依然として開放され続けているディメンションゲートへ一瞬だけ目を向けると、その隙をついてショックウェーブが飛びかかる。
「邪魔を・・・するな!」
抑揚は少ないものの強い闘争心を感じさせる声をあげ、ホットロディマスの首を掴み一気に押し倒した。ショックウェーブの右手、エネルギーを宿らせた強力なクローにグイグイと締め上げられ苦悶の表情を浮かべるホットロディマス。その耳にパーセプターの通信が聞こえた。
「ロディマス!周辺の守備隊はショックウェーブの突然の襲撃に倒されてしまった・・・もうすぐ他のメンバーが到着するからそれまで耐えてくれ!」
簡単に言ってくれると思いながら、ホットロディマスは声を絞り出し疑問をとなえる。
「い・・・いいから早くゲートを早く閉じてくれ、気になって戦いに集中できん。」
だが少しの沈黙のあと、パーセプターから現在の状況が伝えられる。
「ダメだ…ゲートが閉じられないんだ。なんらかのウィルスのせいで時空移動管理コンピューターが制御できなくなっている!しかもそのゲートの転送先も未知の時空に勝手に設定されているようなんだ・・・!」
ホットロディマスは耳を疑った、時空移動施設が乗っ取られたとでもいうのか?だがオートボット施設のシステムは外部から侵入されるような脆弱な物では無かったはずなのだが・・・。その時眼前の冷たい瞳と目が合い、ホットロディマスは何かに気づく。
「そうか・・・うおおおっ!」
ホットロディマスは足を上げ、のし掛かるショックウェーブを思い切り蹴り飛ばし再び距離をとる。
「あの時・・・マグナスを襲った時にコンピューターにウィルスを仕込んだな!全てお前の計画通りというわけかショックウェーブ!」
ショックウェーブはその問いかけに無反応のままジリジリと間合いを計る。
「自力で時空移動をする方法が無いディセプティコンのお前は、この施設を利用しようとしたわけか。一体どこへ行こうとした?目的はなんだ?」
そう言いながらもホットロディマスは手持ちの銃を相手に向け構える。時空移動が目的なら施設を破壊する気は無いはず、それならばディメンションゲートを自分が背にしているかぎり奴はこちらへ向けて飛び道具は撃てないだろうとホットロディマスは考えた。
「話す気が無いならいい、お前を無力化してから尋問させてもらおう!」
言うが否やホットロディマスは銃の引き金を引く、だがショックウェーブはそれを見切っていたようにジャンプし回避すると空中でヘリコプターへとトランスフォームする。
「外ならいざ知らずこんな狭い室内ではお前のその姿も十分に能力を発揮できまい!狙い撃ちさせてもら・・・?」
銃を構えながらホットロディマスは目を疑った。ショックウェーブはヘリから更に姿を変え、4本のアームを生やした異形の姿へとトランスフォームしたのだ。
「な・・・まさかトリプルチェンジ!?」
ヘリの本体から長い手足がカギ爪のように生えたその姿はまるで凶悪な魔物の手のようであった。驚きながらも標的へ向け銃撃を放つホットロディマスであったが、ショックウェーブは目にも留まらぬ素早さかつ縦横無尽な動きでそのビームを回避していく。ショックウェーブの第3の形態ともいえるこの異形の姿はヘリの飛行性能に加え小回りの効く敏捷性と攻撃力に優れた形態である。だがショックウェーブはけしてブリッツウイングやアストロトレインのような生まれついてのトリプルチェンジャーではなく、ましてやスタースクリームやホットロディマスのようにSARAの力で進化したわけでも無い。多段変形の有用性に目を付けた彼自身が研究の末、自らのボディを改造し身につけた新たな戦闘モードなのである。通常こうした体を改造するという行為は命を失う高いリスクと拷問に等しい苦痛を伴うが、ショックウェーブはまったく動じることなく淡々と自らの手で改造手術を行ったという。それもまた狂気の論理と呼ばれ彼が敵味方問わず恐れられる所以であると言えよう。
「ロディマス!今ウィルス除去と同時にゲートを閉じる操作を試行中だ!それまでなんとしても奴がゲートをくぐるのを食い止めてくれ!」
「ちぃっ!そうしたいのはやまやまだが・・・!」
パーセプターからの放送を聞きながらホットロディマスは銃撃を続ける。だが第3形態・・・オルタネイトモードとなったショックウェーブの動きはなかなか捉えることができず、また周囲の機器に注意しながらの射撃のため思うように迎撃することができずにいた。
「ロディマス!」
「SARA!俺から離れろ・・・!」
ホットロディマスが背後のSARAに気を取られた一瞬、ショックウェーブはホットロディマスへ一気に降下し襲いかかる。
「ぐわあっ!?」
ヘリから伸びた4本の腕でホットロディマスを捕らえ床へと叩きつける。強烈な衝撃にうめき声をあげるホットロディマス。しかしショックウェーブの攻めは止まることなく、獲物を捕らえたまま床をえぐるように駆け出し、宙に舞い上がったと思うと壁へと突撃しホットロディマスのボディを容赦なく打ち付ける。壁面に羽交い締めにされるホットロディマス、そんな彼の頭を吹き飛ばさんとショックウェーブは左手のブラスターを構えエネルギーをチャージする。
「・・・死ね、オートボット。」
だがまさに光弾が発射されようとしたその時、ショックウェーブの手は銃撃を受けはじかれた。
「こっちだ!ディセプティコンのクソッタレ野郎!」
間一髪ホットロディマスを救ったのは駆けつけたオートボット守備隊アイアンハイドの銃撃であった。
「SARA!オイラ達のところへ!」
守備隊の一人であるバンブルビーに保護されSARAは部屋の入り口まで下げられる。だがショックウェーブは特に慌てるそぶりも見せず、ホットロディマスから離れるとブラスターをアイアンハイド達に向けて乱射した。
「ぐうっ!」
守備隊は攻撃を避けながらわずかに後退する。その間にショックウェーブは方向転換し、ディメンションゲートへと向かっていく。
「・・・させる・・・かぁ!」
ダメージで薄れそうになる意識を奮い立たせながら、ホットロディマスはショックウェーブの足にしがみつき武器である剣を突き立てた。だがそれに怯むことなくホットロディマスを引きずりながらショックウェーブはなおもゲートを目指す。
「ロディマス!」
オートボット戦士達の静止を振り切り思わず駆け出したSARAが、引きずられて行くホットロディマスの足に必死にしがみつく。
「ロディマス!SARA!」
アイアンハイドの叫びも虚しく、ショックウェーブは二人を引きずったままディメンションゲートへと入って行き、次の瞬間ゲートは閉じた。 「くそ!やられた・・・しかもSARAまで・・・!」
残されたオートボット達が落胆する中、パーセプターの声が響く。
「いや・・・、ゲートを閉じるのは間に合わなかったがロディマスが時間を稼いでくれたおかげで、なんとか行き先だけは変えることができた。奴が何の目的でどこに時空移動しようとしてたかはまだわからないが、とりあえず思い通りにするのだけは阻止できたはずだ。」
放送しながら制御室で脱力し溜息をつくパーセプター、彼も自らの演算能力をフル活動し対処していたのだ。オプティマスが近づき労いの言葉をかける。
「すまない、だが君がいてくれたおかげで最悪の事態は避けられたようだ、礼を言うパーセプター。」
「いえ、本来ならシステムを完全に取り戻したいところでしたが・・・。私の全力でもこれが精一杯とはあらゆる面で恐るべき敵ですよ、あのショックウェーブは。」
普段マイペースなパーセプターも神妙な顔つきで語る。
「とにかく、システムの復旧と同時に奴がどこの時空に行こうとしていたのかも調べてみます。そこから連中の企みがわかればいいのですが。後は・・・ショックウェーブとSARAに関しては・・・。」
「うむ・・・今はロディマスに任せるしかないだろう。頼んだぞ、ロディマス・・・!」

深い闇の中混濁する意識、そんな中遠くから聞こえてくる自分を呼ぶ声。目を開けると目の前には見慣れた少女の姿・・・この子の顔を見ながらの目覚めはこれで何度目だったろう・・・そんなことを考えながらホットロディマスは意識を回復させた。
「ロディマス・・・目が覚めた・・・?」
「SARA・・・俺たちはいったい・・・うわっ?」
ホットロディマスは回りの状況に思わず声をあげた。自分が今いる場所は大きな湖の湖畔、だがその湖はクリスタルシティにあったような美しい湖ではなく、岩と泥にまみれたものであった。そして何よりも驚いたのは周囲にたくさんの動物が水浴びをしに集まっていたことだ。鳥、カバ、象、サイ・・・あらゆる動物達の群れがむらがるその光景はのどかな自然の風景そのものであるが、有機生命体に慣れていないクラウド世界の住人であるホットロディマスには衝撃的な光景であった。
「ロディマス、あのツノのある生き物は、何?」
「え、えーと・・・サイと言う有機生命体だよ、確か。」
思わず普通に質問に答えてしまったホットロディマス。状況に圧倒されている彼に反しSARAは動物達に興味深々なようで、ホットロディマスの無事を確認するやいなや草を食べるサイの姿に早速見入っているようであった。
「なんだなんだ、いったいここはどこなんだ・・・?」
気を取り直してホットロディマスは意識を失うまでのことを思い出す。ショックウェーブとの戦い、そしてディメンションゲートをくぐってきたこと…。
「そうだ・・・俺達は時空移動して・・・、ショックウェーブは!?」
周囲を見回すもショックウェーブの姿は見当たらない。間違いなく奴も一緒にこの時空に飛ばされたはず、奴はこの時空に何の目的で来ようとしていたんだ?
本当はパーセプターの活躍により本来ショックウェーブが向かおうとしていた時空とは違う世界に飛ばされたのだが、ホットロディマスはまだその事実を知らず、今自分たちがいる時空を検索するべく腕のパネルを開き操作する。
「ここは・・・第9BW時空・・・か。」
改めてホットロディマスは周囲の環境を見回す。人口的な建造物が一切見当たらない広陵とした大地、あふれる野生動物達。
SARAを見ると、湖の水を飲む動物の隣でぱしゃぱしゃと湖面を手で波立たせている。その姿にホットロディマスは少し気を緩めるも、ボディに妙な違和感を感じた。どうやらこの惑星には強力なエネルギーが満ちているようだ。今のところ自分にはそこまで大きな障害ではないが、あまり長居するのはよろしくないとホットロディマスは感じ取る。
「あるいはこのエネルギーを求めて奴は来たのか?だとしたら奴自身も相応の危険を負うことになるが。・・・焦っても仕方ない、とにかく俺達が無事であることをクラウド世界の皆に伝えておこう。」
時空世界を越えての連絡は大きなエネルギーを消費する上、リアルタイムの通信はできず短い文章メールを送るのが限界である。ホットロディマスは極めて簡潔に自分達の無事と現在の居場所を伝えるメッセージをクラウド世界のオートボット司令部へと送った。
「とにかくショックウェーブの行方を追わないとな。と言っても何か手がかりはあるだろうか、前に来たBW時空と概ね同じような環境のようだが・・・。」
体中を泥だらけにしたSARAが近づき、ホットロディマスに問いかける。
「ロディマス、前にこの時空に来たことがあるの?」
泥遊びをした子供のようなSARAの姿に少し顔をしかめながらホットロディマスは答える。
「厳密にはこの時空ではないが、少し前に任務で第24BW時空に来たことがあるんだ。」
まっすぐにこちらを見つめ聞きいるSARAへ説明を続ける。
「時空というのはとても不安定で、ちょっとしたきっかけで分岐してしまうものなんだよ。この世界は同じBW時空でも俺が前に来たところとは少しだけ違う時間を歩む平行世界なのさ。」
ホットロディマスは汚れたSARAの体を拭いはじめる、少しくすぐったそうにするSARA。
「あらゆる世界と時の流れ・・・それにより時空界は構成されている。例えば前に行ったMF時空とこのBW時空も大きな時の流れの上ではつながっている、だがそれぞれで独自の世界を構築しているので、俺達は便宜上各時空名をつけて区別し管理しているんだ。更にその中でいくつにも枝分かれした時間の流れを数字で区別しているんだよ。」
一息ついたのち、少し真剣な表情になりながら言葉を続ける。
「何事も無限ではない、どこまでも広がり続ける時空界も限界があると考えられている。だから俺達はそれぞれの時空を管理すると同時に必要以上に各時空に干渉しない決まりを設けている。俺達が関わったせいで時空に影響が出て、新たな世界ができてしまったりしたら大変だからね。」
「なるほど、興味深い話なんダナ。」
ふいに聞こえた野太い声に二人は驚く、ホットロディマスに指さされたSARAはブンブンと首を横に振った。
「こっちこっち、ボクなんダナ。」
声のする方を振り向くと、群れから離れた一匹のサイがこちらをつぶらな瞳で見つめていた。驚いて目を丸くするホットロディマスへSARAが問いかける。
「ロディマス、サイって、言葉をしゃべるの?」
「お、俺の知る限りではそんな知能は無いはずなんだが・・・。」
そんな二人を尻目に目の前のサイは近寄ってきて・・・
「ボクはサイのようでサイじゃないんダナ、ライノックス・・・変身!ダナー!」
なんとみるみるうちにその姿をロボットへと変身させた。
「ト・・・トランスフォーマー!?」
「ボクの名前はライノックス、どうやら君は遠い世界から来たサイバトロンのお仲間のようなんダナ。」

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