TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 争 奪 ー

第四話「争奪」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「ヘルワープ!貴様ぁ!」
ロードバスターが思わず声を荒げる。目の前に現れたのは忘れもしない、仲間の命を奪った憎き敵、漆黒の海獣ヘルワープであったからだ。
「シャァァ・・・、見つけたぜオートボット共、それにSARA!この時空の連中をあえて泳がせておいたメガトロン様はやはり偉大だ!」
その言葉を聞かず、ロードバスターは反射的にヘルワープへと発砲した。だがヘルワープはまるで空中を泳ぐようにその攻撃を回避する。
「へ、やる気かオートボット!SARA以外はどうしようが構わないと俺はメガトロン様に言われてるんだぜ!地獄へ行きたいのか!」
「アイアンフィストの仇、今ここで討ってやる!」


突然の乱入者に驚いたのはこの時空のデストロン達も同様であった。事態に困惑するサイボーグビースト達の中、ヘルスクリームがリーダーへ問いかける。
「ガルバトロン様、ど、どうしましょう?あの醜い怪物は・・・?」
「・・・よい、デストロン軍団、しばらく様子を見るぞ。」
ガルバトロンは冷静を装いつつ、思案を巡らせていた。あのヘルワープという者は恐らく・・・白銀の鎧をまとった強者の眷属であると確信したからだ。
「・・・認めたくはないが、どうやら奴の手で踊らされていたようだな。」
普段以上に歯を強く食いしばりガルバトロンの表情がゆがむ。


ロードバスターとヘルワープの戦い、それを見ながらブローンがもどかしそうに声をあげる。
「くそ・・・連中に不意打ちでやられた傷で思うように動けん・・・!ロードバスター…今はそいつに構ってる場合じゃないだろう・・・!」
「サ・・・SARA・・・!」
ボディの痛みに耐えながらホットロディマスも叫ぶ。ロードバスターはヘルワープに気をとられ、SARAを無防備な状態にしてしまっていた。
「シャァッ!死ねぇ!」
ヘルワープが突進し、その鋭いヒレがロードバスターへと襲いかかる。だがロードバスターはそれを紙一重で回避すると、そのままヘルワープの体に飛び乗るように掴まった。
「ちぃっ!貴様ァ・・・!」
しがみついたロードバスターを振り落とそうとアクロバティックに宙を舞うヘルワープ、だがロードバスターは決して手を離さず、落とされないよう堪えながら銃口をヘルワープの頭へ当てる。
「お前がどんなに動きが早くても、これなら避けられまい!」
その時、ロードバスターはヘルワープの瞳が冷たく歪んだのを見た。刹那彼の脳裏に失われた友…アイアンフィストの最後の瞬間がフラッシュバックし、ヘルワープを突き飛ばすように手を離す。まさにその直後、1秒にも満たないうちにヘルワープの体は異空間へと消えた。わずかに気がつくのが遅かったら、ロードバスターも彼の友と同じ最後を遂げていたであろう。
「くそ!出てこい!卑怯者め!」
ロードバスターの抗議が虚しく響き、姿を消したヘルワープの不気味な笑い声が聞こえてくる。
「シャァァ・・・。バカかお前は、俺は別にお前になんぞ用は無いんだよ。俺の目的は・・・。」
その言葉に我に返ったようにロードバスターは振り返る、その視線の先には無防備に佇むSARAと、その背後の空間に現れるワープアウトの波紋。
「SARA!」
ホットロディマスとブローンが傷ついた体を引きずるように駆け出すも間に合わず、SARAの背後から黒い鮫が鋭い牙を剥いて現れる。だがその瞬間・・・。
「なっ、何ぃ・・・!?」
ヘルワープの口をがっちりと掴み動きを止めた者がいた。ロボットモードへと変形した守護獣、グリムロックだ。
「俺グリムロック!俺、SARA、守る!」
そのままヘルワープの体を地面に向け投げつける。だが激突の瞬間ワープゲートが開き、砂埃の代わりにエネルギーの飛沫をあげて再びヘルワープは姿を消す。
「うっとうしい奴らだ、これでも食らいやがれ!」
ヘルワープの声と共に、空中に開いたワープゲートからオートボット達へ向け無数のビームが雨のように降り注ぐ。その量と範囲はとても今の彼らに回避しきれるものではなかったが・・・。
「な・・・SARA・・・!」
SARAが広範囲にバリアを張り、オートボット達を守ったのだ。だがその行為は消耗した今のSARAには負担が大きく、徐々にバリアの効果は薄れていく。
「く!」
ロードバスターとグリムロック、両者がSARAをかばうように体を寄せると同時にSARAは意識を失い、バリアは消滅した。ヘルワープのビームは止まることなく容赦なくオートボット達へと降り注ぐ。
「うわあああ!」
しばらくして攻撃が止むと、立ち込める煙の中から倒れ伏したロディマスとブローン、そしてSARAをかばったままのロードバスターとグリムロックの姿が現れる。皆すでに戦闘は不可能なほどのダメージを負っているように見えた。


「おっと危ねえ危ねえ・・・やりすぎちまうところだったぜ、SARAをかばってくれてありがとよ。・・・さて、そろそろか。」
姿を表しロボットモードへと変形したヘルワープが静かにつぶやく。ガルバトロン達も何かに気づき周囲を見渡すと、上空にヘリコプターと二機の航空機が、そしてジャングルの中から銀の戦車と二つのビークルが飛び出し戦場に現れた。それぞれが次々とロボットモードへ変形し、ガルバトロン達の前に並び立つ。
「連中の見張りご苦労だったなヘルワープ。」
それはクラウド時空よりSARAを追ってやってきた招かれざる客、メガトロン率いるディセプティコン達であった。メガトロンを中心に立ち並ぶは側近のサウンドウェーブにショックウェーブ、スタースクリームにサンダークラッカー、そしてデッドロック。オートボット達を含め、この時空にやって来たクラウド時空の住人が今この場に勢ぞろいしたことになる。
「さて、では眠れる姫をこの手に納めるとしようか。」
ロードバスターの陰にいる意識を失ったままのSARAをまっすぐに見つめながらメガトロンが歩み出す。だがその前に堂々と立ちふさがる者がいた。この時空のデストロンを支配する強者、ガルバトロンだ。
「貴様・・・、我々にあえて情報を伝え、目的の物を探索させ利用したな。」
静かな口調ではあるが、その言葉には抑えきれない怒りが感じられた。しかしメガトロンはさして気にかけずあしらう。
「未知の惑星、しかも余計なエネルギーがあふれるこの地で目的の者を探すのは少々骨が折れそうだったのでな。お前達に聞かせればきっと勝手に探し見つけてくれると思っておったよ。礼の言葉の一つも欲しいなら言ってやらんこともないぞ?」
メガトロンはガルバトロンとすれ違いざま歩みを止め、二人の破壊大帝が横並びに立つ。その無言の迫力に周囲のトランスフォーマー達はみな沈黙し注目する。
「ガルバトロン・・・と言ったか。お前もそれなりの力を持つ者ならわかるであろう、我に歯向かうことの愚かさが。」
「確かに貴様からは計り知れん力を感じる・・・。だが、デストロン破壊大帝として退けぬこともある!」
その言葉と同時に周囲に激しい金属音が響く。ガルバトロンは斧を、メガトロンは太刀を引き抜き、お互いの刃を重ねにらみ合っていた。武器を握る手に力を込めながらガルバトロンは吠える。
「デストロン軍団よ、この連中に我らの恐ろしさを思い知らせてやれ!」
ガルバトロンの号令と共に雄叫びをあげ戦闘体制に入るデストロン軍団。
「愚か者めが・・・。ディセプティコンの者共よ、相手をしてやるがいい!」
メガトロンの言葉を受け、クラウド時空のディセプティコン達も武器を構え一斉に飛びかかる。この第10BS時空を舞台に、ディセプティコン対デストロンという時空を越えた対決が始まったのだ。


「兄ちゃんの許しが出たぞ!お前達!生意気な連中に思い知らせてやれ!」
部下に命令するギガストーム。その巨体に真っ先に突っ込んできた戦闘機があった、ディセプティコンのスタースクリームだ。
「面白い、この次期破壊大帝のギガストーム様に向かってくるとはいい度胸なんだな!」
「は?てめえみたいな能の無さそうなデカブツが次期リーダー?こいつはお笑いだぜ!ニューリーダーになるべき器ってものをこのスタースクリーム様が教えてやらあ!」
嘲笑の声をあげながらスタースクリームはミサイルを発射するも、アンゴルモアエネルギーで強化されているボディを持つギガストームはひるむことなく、口から燃え盛る炎を吹き出し反撃する。
「うわわ!?熱ぃ!!」
寸前で直撃は避けるも熱風に炙られバランスを崩し落下するスタースクリーム。ギガストームは追撃を加えようとするが、横から紫のヘリ・・・ショックウェーブが機銃を乱射し動きを封じる。
「ちっ・・・トランスフォーム!」
落下しながらスタースクリームは戦車の姿へ変形し、着地と共にその砲塔をギガストームへと向け発射する。だがその砲撃さえも物ともせず、ギガストームは足を上げスタースクリーム戦車を踏み潰そうとし、更に空中のショックウェーブにも火炎攻撃で応戦する。その暴れ狂う姿はまさに怪獣王とも言える迫力であった。
「どうだ!俺様は本気になれば一番強いんだぞ!」


「サンダークラッカー!あの連中を叩き潰すぜぇ!シャァァァッ!!」
「あ・・・ああ!」
ヘルワープの言葉に若干気遅れする様子で応えるサンダークラッカー。黒きメカ鮫と青の航空機が照準を向けた先に映るは、鮫と犬のサイボーグコンビ…デストロンのヘルスクリームとマックスビーである。
「あの黒いの・・・なんて醜い姿なのかしら!マックスビー、構うことないわ蹴散らすわよ!」
「マックスラジャー!」
両コンビが接近。ヘルワープは鋭いヒレで、ヘルスクリームは頭部先端の刃で真っ向からぶつかり合う。元航空兵であり、今は機械の鮫の姿というある種不思議な共通点を持つ両者は、空中を泳ぐように飛び回りながら何度も激突する。ヘルスクリームはこの時空のトランスフォーマー特有の小さめのボディであるものの、アンゴルモアエネルギーで強化されたその戦闘力は決してヘルワープに引けをとっていなかった。
「くそ!この気持ち悪い犬っころめ!」
サンダークラッカーが光弾を連射するも、対戦相手のマックスビーはまるで大地を駆け回る野獣のように空中を縦横無尽に動き回り、更に爆撃機のような大量のミサイルを撃ち込んできた。サンダークラッカーはそれを必死に回避する。
「くう・・・。こ、ここで無様な姿を見せたら、メガトロン様はきっと俺を見捨てる…!」
アンダーグラウンドに残っても先は無いと腹をくくりメガトロン達に着いては来たものの、特別な進化もしていない自分はいつメガトロンに切り捨てられてもおかしくないとサンダークラッカーは自覚していた。そしてそれはきっとメガトロンからだけではない・・・、笑い声をあげながら戦闘を繰り広げるヘルワープの姿へサンダークラッカーはちらりと目を向けた。


「わての力、思いしれ!ブラストリーダー、食らっとけや!」
サイボーグ蜂ダージガンの羽から発せられる超音波攻撃、相手の動きを止める彼の得意技である。だが彼の対戦相手・・・ディセプティコン情報参謀サウンドウェーブはそのボディから同じく音波攻撃を仕掛け、ぶつかり合った波動は共に打ち消し合い相殺された。
「な、なんやそれ!?そらないわ!」
ダージガンが驚く隙に、サウンドウェーブは間髪入れず胸部から部下の鳥型兵士レーザービークを射出する。レーザービークはビームを放ちながらダージガンの周囲を素早く移動し、それに合わせてサウンドウェーブも肩のミサイルランチャーを撃ち込む。その見事な連携プレイはダージガンをまったく寄せ付けない。
「あた!ちょっ!わて・・・もしかして相手が悪かったんとちゃいますか!?」


「ちっ!ボッツじゃねえとはいえ、命令とあらばぶっ殺すまでだゼ!」
デッドロックはサイボーグ恐竜のスラストールへと銃を構える。だがスラストールは猛スピードで距離を詰め、頭部の角で襲いかかる。
「危ねえ!・・・な、なんだこれは!?」
デッドロックは回避したものの、スラストールの角で切り裂かれた周囲の樹木が凍りついているのを見て驚愕する。
「どこのどいつかよおわからんが、あんまりわてらのこと舐めくさっとると痛い目みるで!」
凍結能力を持つ角を振り回しながらスラストールが叫ぶ、デッドロックは距離をとろうとするもサイボーグビーストの俊敏な動きに苦戦を強いられる。
「く・・・、こんな豊かな時空の住人でも結局戦い殺しあうのか。何か・・・イラつくゼ!」


「い・・・今のうちに・・・SARAを逃がさなければ・・・。」
ロードバスターがボロボロの体に鞭を打ってSARAを抱える。だがダメージが大きく思うように身動きがとれない。
「無駄なことはやめて大人しくそこでSARAの面倒を見ているがいい。」
背筋が凍るような一声、メガトロンは戦いながらもSARAのことを注視しているのだ。今の自分達の状態では逃げることも戦うこともできない…ロードバスターは置かれた状況に絶望するしかなかった。
「私を前にしてよそ見をするか!」
ガルバトロンが怒りの声と共にアックスを振り下ろすも、メガトロンは俊敏な動きでその一撃をかわす。
「ガルバトロンとやら、なかなかの力だが我の相手には足らんな!」
「舐めるなぁ!トランスフォーム!」
ガルバトロンの姿が変化し、先端に巨大なドリルを携えた戦車へと変わる。それを見たメガトロンは口元をゆがめ、自らも戦車の姿へと変形する。爆音をあげて二機の巨大戦車が真っ向から激突し、鋼のぶつかり合いと無限軌道が大地を削る音が周囲に轟く。
「抉り取ってくれる!」
戦車同士ぶつかり合ったまま、ガルバトロンのドリルが高速回転を始める。それはメガトロン戦車の銀の装甲へ食い込み激しい火花を散らした。
「フン・・・、トランスフォーム!」
メガトロンはロボットモードへと瞬時に戻り、両手でガルバトロンのドリルを掴む。その驚異的な握力で徐々にドリルの回転する勢いは弱まっていく。
「どうした、デストロン支配者とやらの力はこの程度か?」
するとドリルの回転が突如ピタリと止まる。メガトロンが不審に思った次の瞬間、ドリルが真っ二つに割れ中から灼熱の炎が溢れ襲いかかってきた。
「むお!?」
至近距離でそれを浴びたメガトロンは全身を炎に包まれる。ドリルの中からは機械の竜とも言うべき頭が炎を吐きながら現れ、続いて戦車だったボディも瞬く間に凶悪な姿へと変わる。これぞガルバトロンの第三の姿、比類なき戦闘力を誇るドラゴンモードである。
「私を怒らせた報いだ、このまま消し炭になるがいい!」
休むことなく炎を吹き付けるガルバトロン。アンゴルモアエネルギーによる業火につつまれてはいかにメガトロンといえども無傷では済まない。だがその時炎の中からガルバトロンへ向け強力な衝撃波が放たれる。
「ぐう!?き、貴様・・・まだ・・・!」
メガトロンの放つ衝撃波・・・通常のトランスフォーマーなら一撃で致命傷になりかねない威力を誇る攻撃。だがガルバトロンはその一撃を受けても怯まず、炎を浴びせ続けていく。すると炎に包まれたメガトロンが一瞬輝き、今度は先ほどの比ではないほどの凄まじいエネルギーがガルバトロンを襲った。
「がああああ!?」
さすがのガルバトロンも大爆発を起こし遥か後方へと吹き飛ばされる。炎が残る中仁王立ちでそれを見すえるメガトロン、全身の鎧はガルバトロンの炎によって溶解し始めていたが、それ以上に彼の両腕は今にも崩れ落ちそうなほどボロボロになっていた。それはたった今メガトロン自身が放った衝撃波のエネルギーに彼のボディが耐えきれていないことの証であった。
「・・・フフ・・・、我にここまでの力を使わせるとは。思ったよりは楽しめたぞ、ガルバトロンよ。」


「に、兄ちゃん!大丈夫かい!?」
ギガストームが巨体に似合わない情けない声をあげ、ガルバトロンが吹き飛ばされた方へ慌てて振り向く。
「スタースクリーム・・・撃て・・・!」
「おお!吹き飛びやがれ!」
ブラスターモードへと変形したショックウェーブをスタースクリームが構え、ギガストームの隙だらけの背中に大出力のビームを撃ち込む。 「あぎゃあああ!?」
ギガストームは奇声と爆煙をあげながら転がって行く。それを見たダージガンとスラストールも戦いを放棄しギガストームの元へと駆け出していった。


「ガ・・・ガルバトロン様が!マックスビー、助けに行くわよ!」
「マックスラジャー!」
ヘルワープの激しい攻撃に押されていたヘルスクリーム達であったが、主人の危機に即座に戦闘を止め飛び出して行く。メガトロンの勝利を確信したヘルワープとサンダークラッカーはそれを追わずロボットモードへ変形し大地に着地する。するとヘルワープは冷たい口調で相棒へと宣告した。
「シャァァ・・・。サンダークラッカー、残念だがパワーアップした俺の戦いに今のお前じゃもうついて来れないみてえだなあ。今後はせいぜい俺やメガトロン様の足を引っ張らないようにしろよ。」
確かに両者の実力には差がついてしまったが、以前のように息が合わない理由はそれだけではなかった。手に入れた強力な力に狂うヘルワープの戦い方は仲間とのコンビネーションを考えてるとはとても思えない粗暴なものとなっていたのだ。しかしサンダークラッカーはヘルワープの非情な物言いに何も言わず目を背けるのみであった。


ロードバスターは身体中の痛みさえも忘れるほどの緊張と恐怖を感じていた。ガルバトロンとの戦いを終えたメガトロンがゆっくりとこちらに近づいてきたからだ。両腕が崩れ落ちそうな状態でありながらも、メガトロンは悠然とした態度でこちらを見据えていた。
「さて・・・ようやくSARAを迎え入れる時が来たか。」
どうすることもできずSARAを抱えたまま動けないロードバスター、だがそんな状況にあってなお立ち上がる者がいた。
「お・・・お前・・・!」
それはどれほど傷つきながらも最後までSARAを守ろうとする守護獣、グリムロックであった。
「俺グリムロック!グリムロック、SARA、守る!」
自らを奮い立たせるようにSARAにもらった名前を何度もつぶやくグリムロック。すでに戦闘など不可能なほど傷ついてはいたが、気力のみが彼の体を支えていた。その愚直なまでに健気かつ勇敢な姿にロードバスターは目を奪われ、胸の奥から溢れる熱いものを感じていた。
だがメガトロンはそんなグリムロックさえも気にかけぬ様子で近づく。グリムロックが雄叫びをあげ残りわずかな力を振り絞ってパンチを繰り出すも、カウンターのようにメガトロンの鉄拳がグリムロックのボディへ打ち込まれた。グリムロックはそのまま声をあげることもなく崩れ落ちる。
「・・・グ・・・グリムロック!」
ロードバスターが初めてその名を呼ぶも、倒れたグリムロックの耳にそれは届かなかった。ボロボロだったメガトロンの右腕はグリムロックへ打ち込まれた衝撃で粉々に砕けてしまったが、それさえもまったく気にせずメガトロンは前進する。ついにロードバスターの…彼がかばうSARAの目前までメガトロンは近づく。
「う・・・!じ、自分は・・・時空を守るレッカーズのロードバスターだ!」
恐怖を振り払うように叫び銃を向けるも、メガトロンは目にも止まらぬ居合で一閃する。その衝撃波は構えた銃を断ち胸の装甲に大きな傷を刻み、ロードバスターの体を後方へと吹き飛ばした。
「がっ・・・ああ・・・!」
「ロ…ロードバスター・・・!」
かろうじて意識を保つホットロディマスとブローンが弱々しく仲間の名前を呼ぶ。倒れ伏す四人のオートボット達…そんな彼らに無力さを思い知らせるようにメガトロンは残った左腕でSARAの小さな体をつかみ上げる。
「ようやくお前を我が物とする時が来た・・・長かったぞ、SARAよ。さあ、我が胸で静かに眠るがいい・・・。」
そう言うとメガトロンは自身の左胸部装甲を開き、エネルギーが脈打つ胸の機械内部へSARAを埋め込んでいく。
「サ・・・SARAァァァ!!」
ホットロディマスの叫びも虚しく、メガトロンの装甲は閉ざされSARAはそのボディへと取り込まれてしまった。するとメガトロンの体が青白く発光し、失われていた右腕と傷ついた左腕や鎧がみるみるうちに再生された。
「ふ・・・うう・・・。」
静かではあるが圧倒的な威圧感…。今この瞬間、SARAの力を完全に得て、時空世界を統べる覇王が誕生したのだ。


「メガトロン様・・・目的の達成、おめでとうございます。」
メガトロンの隣にショックウェーブが音もなく現れる。続き他のディセプティコン達も主の元へと集う。
「では早速、そのお力で時空界の制圧へと向かいましょう・・・。覇者たるメガトロン様の絶対的な力による支配こそ、この混沌とした時空界に真の平穏と秩序をもたらすのです・・・。」
だがそのショックウェーブの言葉はメガトロンの耳には届いてないようである。
「ふふ・・・こいつは面白い。」
周りの部下たちが戸惑いを見せる中、メガトロンは静かに言葉を続ける。
「SARAから流れるこの時空の力、アンゴルモアエネルギーと言ったか・・・それを通じ面白いモノを知った。どうやら我々以外に時空を越え存在する者がいるようだ。」
メガトロンは薄く笑みを浮かべ、太刀を引き抜いた。
「先ずはそいつをこの手で滅ぼしてくれよう。時空の覇者の誕生に相応しい演出だとは思わんか?」
そう言うとメガトロンは太刀を構え意識を集中する。SARAを組み込んだ胸部が光を放ち始め、太刀を振りかざし空を一閃。すると嵐を巻き起こしながら空中に裂け目ができた。それこそまさに時空移動を可能とするディメンションゲート、SARAを得たメガトロンはついに自らの手で時空移動をできるに至ったのだ。
「さあ、我が覇道の始まりだ。」
メガトロンが意気揚々とゲートへと突入していく。ディセプティコン達は主が何をしようとしているのか理解できずしばし呆然としていたが、置いていかれてはたまらないとばかりに次々とそれに続く。デッドロックやサンダークラッカーはわずかな躊躇いを見せたが、もはや前進しかないと悟りゲートへと消えていく。ショックウェーブもしばし様子を見据えていたものの、無言のままゲートへと突入する。直後ディメンションゲートの口は閉ざされ消滅した。
「な・・・なんてことだ・・・、目の前でSARAを連れ去られて・・・何もできなかった・・・!」
ホットロディマスが動かない体を軋ませながらうめく、ブローンもまた同じく悔しさに言葉を出せないでいた。


「メガトロン・・・どこだ・・・!」
失意のオートボット達の前に怒りの声をあげながら現れたのはデストロン破壊大帝ガルバトロンであった。メガトロンの強烈な一撃をまともに食らったにも関わらず、彼は再び立ち上がったのだ。
「逃がしたか・・・おのれ!これほどの屈辱は初めてだ!」
怒りに声を張り上げるガルバトロン、その叫びは大地を揺らすほどの迫力であった。するとガルバトロンは倒れ伏すオートボット達へ目を向ける。
「こうなればこやつらを捕らえ連中の正体を徹底的に解析してくれる・・・。」
だが次の瞬間、部下のヘルスクリーム達が慌ててやってくる。
「ガ・・・ガルバトロン様!サイバトロンが!」
すると樹々の隙間を縫って多種の動物達が駆け寄ってくる、先陣を切るは雄々しさと逞しさを感じさせる白い獅子。
「ちぃっ・・・!このタイミングで嗅ぎつけて来るとは・・・!」
忌々しそうな態度でガルバトロンはその動物達を迎え撃つべく駆け出す。その時オートボット達の背後に突如大気のうねりが巻き起こり、新たなディメンションゲートが開放された。ホットロディマスが驚き目を向けると、そこから見慣れた数人の戦士達・・・クラウド時空のオートボット達が飛び出してくる。そして彼らを指揮するは赤き勇士、オートボット司令官オプティマスプライムであった。
「し・・・司令官、ご無事でしたか!」
「すまない・・・、このタイミングでしかディメンションゲートをつなぐことができなかった。SARAは・・・?」
ホットロディマスとブローンは無言で顔を伏せる。その様子にオプティマスは事態を察し、連れてきた部下たちへ傷ついたホットロディマス達の回収を指示する。
「今はとにかくオートボット本部に戻り体制を立て直すんだ!」


「く…この状況でサイバトロン共を相手にするのは得策では無い・・・。デストロン軍団、退けぇい!」
ディセプティコンとの戦いでダメージを負った現状では不利と判断したガルバトロンは退却命令を出す。動物達を迎え撃っていたデストロン兵士達はそれを聞き次々と撤退していった。
「今日の屈辱は忘れんぞ・・・!あのメガトロンという者、どこに逃げようとも必ず見つけ出して思い知らせてくれる!そのために今は…必ずネメシスの計画は成功させる!」
そう言い残しガルバトロンも姿を消した。


クラウド時空のオートボット戦士達全員が時空移動し引き上げるのを確認し、オプティマスも速やかにこの時空を後にしようとする。
「む・・・、あれは・・・。」
ふと動物の群れの中にいる白い獅子と目が合い、両者はしばし見つめ合いながらお互いの中に通じ合う不思議な感覚を覚える。
「そうか・・・彼がこの時空の・・・。」
そう言うとオプティマスは静かにディメンションゲートをくぐり、異邦者達は第10BS時空から全て姿を消した。

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