TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 帰 還 ー

第六話「帰還」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「オプティマス・・・私の声が聞こえますか。」
「!・・・「SARA」!?君か!」
ブローンとアルマダスタースクリームがクラウドスタースクリームを追って行った直後、二人きりになったのを見計らったように「SARA」のものと思わしき声が、以前のOG世界での呼びかけと同じようにオプティマスの心に直接語りかけてきた。
「ようやくあなたと話をできる機会が訪れたようですね。」
目の前の少女は今までの無邪気な雰囲気とは一変、無表情ながら瞳を薄く光らせどこか荘厳な雰囲気を漂わせている。
「「SARA」・・・、すまないが私は君に聞きたいことが多すぎる。いったい何故そんな姿になったのか?普段の無垢な態度と今の君、本当の君はいったいどちらなのか・・・それに・・・」
「順序立てて説明しましょうオプティマス、どうか落ち着いて・・・。」
思わずまくし立ててしまった言葉をさえぎられ、オプティマスは少し気恥ずかしい思いをする。だがすぐに真剣な面持ちに戻り「SARA」の次の言葉を待った。
「私・・・「SARA」が時空を管理するクラウド世界を安定させるために存在していることは知っていますね。あなた方時空世界の守り手、オートボットが他時空から集めた余剰エネルギーを吸収・増幅することによって、何万年・・・何億年・・・気の遠くなるような時間を私はクラウド世界と共に過ごしてきました。」
オプティマスは自分がオートボット総司令官に任命されるよりも前、遥か太古の時代からクラウド世界と「SARA」の歴史は続いているのだと改めて実感させられた。
「ですがそんな永き平穏を破る存在が現れました・・・あなたのよく知る者、メガトロンです。」
その名を告げた時、「SARA」はふと表情に陰を落としたように見えた。
「そしてあの日・・・メガトロンが私の力をその身に受けたあの時、私の力の大半は彼に奪われてしまったのです。」
「ああ…OG世界で戦ったメガトロンは、まさに鬼神のような強さで手が付けられない状態だった。」
暴走し「SARA」を求め暴れまわるメガトロン・・・できれば二度と会いたくない相手。オプティマスはその規格外の圧倒的な力を思い出すと同時に、先ほどまで戦っていたクラウドスタースクリームは強敵ではあれどそこまでの脅威は感じ無かったことに気付く。
「あのメガトロンは不安定であったとはいえ、私本来の力に匹敵する存在となってました。私のわずかな残留エネルギーで無理に進化した先ほどのスタースクリームとは根本から違ったのです。」
オプティマスの考えを読んだように「SARA」が説明する。
「では君がそんな少女のような姿となり、何も知らない子供のような態度になってしまったのも・・・」
「…メガトロンに奪われたのは力だけではありません、今まで蓄えてきた無限に近い記録・叡智…それらはあの時のショックでほとんどが壊れ、失われてしまいました。」
そう言う「SARA」は変わらぬ無表情ながら、どこか少し寂しげなように見えた。彼女は記録と言ったが、永い歴史の中、もしかしたら大切な存在との思い出と呼べるようなものもあったのかもしれない。
「そうなった以上、私は自らを初期化せざるをえませんでした。そのため、空っぽの状態から再び時空エネルギーと、それを扱う管理者としての叡智を蓄え直さねばならなくなったのです。」
「SARA」は自分の今の体をさすりながら言葉を続ける。
「この姿は効果的に他者と触れ合い、知識を得るための物なのです。」
「なるほど、確かに私もその姿となった君には自然に語りかけることができた。今まで長い間「SARA」と共にあったつもりでいたが、エネルギーユニットの姿であった君にこうして語りかけるなど考えたことも無かったからな・・・恥ずかしい限りだが。」
オプティマスは更にもう一つ気になること…メガトロンの行方について質問した。
「あのメガトロンは危険な状態でした・・・力だけでなく、そのエネルギーの不安定さも含めて。ですので私の残りわずかな力を使い、何者も存在しない「無」とも言える時空に送り閉じ込めました。そうするしか方法が無かったのです…。」
やはりどこか寂しそうな表情を浮かべる「SARA」、凶悪なメガトロンとはいえクラウド世界の住人であった彼に対しそういった仕打ちをするのは気が引けたのだろうかとオプティマスは推測した。
「今の彼には強大な力があるとはいえ時空を移動する能力はありません、恐らく二度と戻ってくることは不可能でしょう。」
「恐らく・・・とは万が一がありえるということかね?「SARA」の力を持ってしても御せないようなことが。」
不安な気持ちがあったのか、オプティマスは思わず少し責め立てるような口調になってしまったことに気づき謝罪した。「SARA」は別段気にするそぶりもなく、しかしより神妙な口調で続ける。
「絶対などありませんよオプティマス・・・。現に今の私にはクラウド世界を救うどころか、すでに時空移動を行うだけの力も残っておらず、もうじきこの意思も消えてしまうでしょう。」
「何?それはいったいどういうことだ。」
思わぬ言葉に衝撃を受け焦るオプティマス。今語りかけてくれている「SARA」の意思が消えるのも一大事だが、何より時空移動する力が残っていないというのは聞き捨てならないものであった。それはつまりこの第15MD時空からの帰還が叶わないということであり、イコールそれはクラウド世界の崩壊…仲間達の絶滅を意味する。
「私は初期化されたと言いましたね、なのであなた方が見た無邪気な少女のような人格・・・それが今の私なのです。これはわずかに残ったバックアップが語りかけているだけなのですよ。」
「SARA」は改めて重要なこと、これからすべきことを語る。
「オプティマス、私は失われた力とそれを正しく使う知恵を取り戻さなければなりません。知恵というものはただプログラムとして入力すればよいというものではありません…全時空世界に存在する多くの生きとし生けるものとの触れ合いの中で、学び育まれるもの。これからあなた方と過ごして行く日々も、きっと私の知識の泉を満たす大事な要素となるでしょう。」
相変わらず無表情な「SARA」ではあったが、どこかこれから自分が体験していく日々に対して期待するような可愛らしさを感じさせた。
「そして力とは各時空世界に存在する大いなる力の数々・・・それらに触れ分け与えてもらうことにより、私は本来の能力を取り戻して行くことができるでしょう・・・。」
大いなる力、それを聞きオプティマスは足元に瓦礫と共に散らばるマイクロンパネルを見る。「SARA」がこの世界に跳んできたのはやはりそういった理由があったのかと、だが・・・。
「その力、我々は守りきれなかった・・・。」
目の前で砕かれた希望。オプティマスは今まで多くの戦いで数えきれないほどの命を救ってきたが、救うことができなかったケースももちろん少なくなかった。その度にオプティマスはわが身の無力さを嘆き、それを糧に立ち上がってきた。だが彼の優しい心に受けた傷は決して消えることはなかった。

「司令官!「SARA」!無事ですか!?」
静かな森に響く豪快な声、戦いを終えたブローンがアルマダスタースクリームと共にオプティマス達の元へ戻ってきた。その肩にはぐったりとして動かなくなったクラウドスタースクリームが担がれている。
「よく戻ってきてくれたブローン、スタースクリームは・・・?」
「完全に伸びてはいますが一応死んではいませんよ、ただ当分意識が戻ることはないでしょうがね。」
投げ捨てるようにクラウドスタースクリームを降ろしながらブローンが報告する。
「そんな卑怯者は息の根を止めるべきだと私は言ったのだが・・・そいつがリーダーの判断に任せると言ってきかないのでな。」
アルマダスタースクリームが地面に倒れ伏す敵を侮蔑するような目で見下ろしながら愚痴る。そうは言いつつもブローンの意思を尊重して生かしておいたことからも、彼の心根の良さが垣間見得た。
「どうします?俺としても散々ひどい目に合わされた憎い相手だ、ぶっ殺してやりたいってのが本音ではあるんですが。」
オプティマスはしばし沈黙した後、静かに口を開く。
「いや…すでに決着はついた、捕虜として連れて帰りアンダーグラウンドの犯罪者として公正な裁判で裁こう。何より曲がりなりにも「SARA」の力で進化したボディを持つ者だ・・・、今後クラウド世界を救うための何かヒントが得られるかもしれない。」
口ではそれらしい理由を言ってみるものの、例えそれが憎き敵であっても、もうこれ以上命が失われるのを見たくないというのが彼の本心であった。砕け散ったマイクロンパネルを思い浮かべながら、オプティマスは顔を伏せた。

「し…司令官、あの子は何をしてるんでしょう?」
ブローンの問いかけに我に返り、彼が指す方を見るオプティマス。するとそこでは「SARA」が体をぼんやりと発光させ、その光に呼応するように砕け散ったマイクロンパネルの破片が集まってきていた。
「体は壊されても・・・、この子の力…いえ、魂はまだ・・・」
オプティマスの心に再び「SARA」の声が響く、すると集まったパネルの破片が一つになり、光の中から小さな影が現れる。
「おお…あれはマイクロン・・・あの少女が蘇らせたのか・・・?」
オプティマス以外には「SARA」の声は聞こえてないようで、アルマダスタースクリームは死んだと思ったマイクロンの復活に純粋に感銘を受けているようであった。
「SARA」は優しくその影に手を伸ばす。
「サージ…そう、あなたはサージというのね。サージ、お願いがあるの、あなたの力を私にわけて欲しい…時空界を救うために…。」
するとサージと呼ばれたマイクロンの影は「SARA」の体と重なり、暖かい光を放ちながら溶け合うように消えて行った。
「「SARA」・・・これはいったい・・・?」
「大丈夫オプティマス、彼は私と共にあることを選んでくれました。彼の遺志と力はこの体に・・・。この世界の大いなる力マイクロン・・・それは今私の中で次元力となり、この力があれば時空移動も、クラウド世界の崩壊を止めることも可能と思います。」
その言葉を聞きオプティマスは安堵のため息をつく、今度こそクラウド世界は救われる…とりあえずは。
「ですがオプティマス、忘れないで。「SARA」の知識や力は失われていることを。今のままでは遅かれ早かれクラウド世界、ひいては時空界全ての滅びの時が来る…。それを防ぐために、「SARA」と共に時空世界を越える旅を・・・」
徐々にその声は小さくなっていく、オプティマスは慌てて「SARA」にかけよる。
「待ってくれ!まだ…聞きたいこと話したいことが・・・!果てしなく永い時間をかけ、クラウド世界と我々を見守り続けてきてくれた君と・・・!」
「さようなら・・・、 わたしを おねがい」
それを最後にオプティマスの心に語りかける声はぷっつりと途切れた。「SARA」はがくりと体をもたげるが、すぐに顔を上げると先ほどまでの荘厳な雰囲気は消え、無垢な瞳でオプティマスを見つめる少女へと戻っていた。
「「SARA」・・・!」
オプティマスはその少女の体を優しく手の中に包み込んだ。

「すまないが、我々のことは他の者に伝えないでいてほしい。」
不可解な表情で見つめるアルマダスタースクリームに対して、オプティマスが願いを告げる。
「自分達の素姓は何も話さず一方的な頼みか、ずいぶん虫のいい話だな。」
「君の言うことももっともだ、だが今我々のことを他人に話しても、君が余計な誤解やトラブルを受けるだけかとも思う。」
オプティマスの申し訳なさそうな態度にアルマダスタースクリームは渋い顔をしつつも答える。
「・・・約束はできん。が、覚えてはおこう。」
「助かる。それに…奴を止められたのは君の協力があってこそだ、感謝する。ありがとう。」
オプティマスの礼にアルマダスタースクリームはほんの少し照れたようなそぶりを見せ、そんな二人のやりとりをキョロキョロと観察している「SARA」に目を向け微笑みかける。
「別にお前たちのためにやったことじゃない、私自身の信念のためだ。」
信念・・・そんな言葉をスタースクリームの名を持つ者から聞くことになるとは、オプティマスは妙に嬉しくなり笑みをこぼす。
「司令官、そろそろ戻りましょう。帰る家がまだ残ってるか心配だし、この荷物も重くっていけませんや!」
相変わらず意識が戻らないクラウドスタースクリームを抱えながら、ブローンが冗談めかして呼びかける。
「よし、では「SARA」、お願いできるかい?」
「SARA」はまるで自慢の特技を見せる子供のように嬉しそうに反応し、意識を集中させる。すると空気の渦が起きみるみるうちに空間が裂け、ディメンションゲートが開放された。
「こ・・・これは・・・?まさか奴が言っていた別の世界というのは本当に・・・?!」
目の前の光景に驚愕するアルマダスタースクリームを尻目に、ブローンはゲートの中に消えていき、オプティマスもその後に続く。
その時、オプティマスの腕にいた「SARA」がふとアルマダスタースクリームの方を見つめ・・・
「あり・・・がとう・・・」
「「SARA」、君は言葉を・・・!」
そのままオプティマスと共に時空の向こうへと消えていった。ディメンションゲートが消えた後はまるで何事もなかったかのように森に静寂が訪れ、アルマダスタースクリームはその場に立ち尽くしていた。
「・・・私と同じ名を持つ者が現れ、この私がよりによってサイバトロンと共闘した・・・。バカな話だ、本当に。」
ふと、小さな少女の最後の言葉を思う。
「・・・こんなことメガトロン様に伝えても一笑にふされるだけ・・・か。・・・む!」
その時である、森の中から何台かのビークルが飛び出し、目の前でロボットモードへと変形した。
「ようスタースクリームじゃないか、こんなところで何してるんだ?まさか懲りずにまたマイクロン探しかい?」
その黄色いボディのロボットは肩にオートボット・・・いや、サイバトロンのエンブレムを輝かせ、ここであったが百年目といった態度で挑発してきた。続き他のビークルもロボットモードへと変形していく。
「アニキー!一人で先行しちゃ危ないですって!」
「まったく・・・無鉄砲なのもいいがもう少しコンボイのように冷静さも身につけたらどうだ?」
同じサイバトロンの仲間であると思われる二人が並び立つ。
「師匠!ステッパー!大丈夫、見ててくださいって!さあどうしたスタースクリーム、こないならこっちから行くぜ?」
黄色いサイバトロン戦士がファイティングポーズをとる。アルマダスタースクリームがこの急な遭遇に戸惑っていると、今度は空からヘリコプターが飛んできて声が響く。
「ラーリホー!おいこらスタースクリーム!一人で楽しんでるんじゃねえよ!俺にも戦わせろ!」
更に森をなぎ倒し前進する装甲戦車も現われる。
「スタースクリーム!定時連絡もいれずに何をしていた!?メガトロン様はお怒りだぞ!」
「サンドストーム、アイアンハイド・・・。」
うんざりするほど見知った顔、同じデストロンの仲間の姿を見てアルマダスタースクリームは普段の自分を取り戻す。
私がサイバトロンと共闘?まさか、私は私自身のために戦うだけ。そしていつかメガトロンをも超えるトランスフォーマーとなる…そのために!
「さあかかってこいサイバトロン共よ、このスタースクリームが相手になってやるぞ!」

「成功です!メトロポリスに・・・いえ、クラウド世界にエネルギーが広まって行く!」
ここはクラウド世界のオートボット守備隊基地の中、今まで「SARA」を安置していた中央施設。第15MD時空から無事に戻ってきたオプティマスとブローン、それに「SARA」は早速その力でクラウド世界の崩壊を食い止めた。
「まだ以前のようにすべての時空管理施設が100パーセント機能できるようになったわけではありませんが、とりあえずこの世界は救われたと言っていいでしょう。司令官!よくぞご無事で戻ってくれました!」
ラチェットが感激したように立ち上がり、オプティマスに感謝を告げる。オプティマスがガラスの向こうの「SARA」起動ユニットに目を向けると、その機械に体をつながれた「SARA」が、褒めて欲しそうな笑顔で手をふっていた。
「ラチェット、あまり彼女に無理をさせることは避けてくれよ。」
「わかってますよ司令官、「SARA」は・・・あの子は我々全員の救世主ですからね。ですが一休みしたら是非ホットロディマスのことをお願いしたいとは思います。彼を無事に目覚めさせられるのか…、ブローンの時は確認できなかったその瞬間を今度はしっかり見ておきたいですね。」
オプティマスはラチェットやホイルジャックが「SARA」に対して妙な研究心に駆り立てられることが無いよう祈りつつ、これからのことを考えていた。「SARA」の力と叡智を取り戻すための時空を超える旅・・・果たして自分に彼女を元の偉大な存在へと戻すことが可能なのか。
「いや、やるしかない・・・。「SARA」と・・・時空界を守るために。」
自らに言い聞かせるように、オプティマスは決意の言葉をつぶやくのであった。

クラウド世界の崩壊の影響によりますます荒廃が進んだアンダーグラウンドの大地、そこに存在するディセプティコン基地。
その内部・・・薄暗い小部屋で一人のトランスフォーマーがモニターへと一つしかない無機質な目を向けていた。
突如コンピューターが異常な反応を検出する。操作する手を止め、その者…ディセプティコン兵士ショックウェーブは瞳を冷たく光らせながら低い声でつぶやいた。
「ようやく見つけました・・・メガトロン様。」

  • トランスフォーマー
  • タカラトミーモール
  • X
  • e-HOBBY SHOP