TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 鉄 鎚 ー

第五話「鉄鎚」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「動くなよ?さもないと大事な「SARA」を握りつぶしちまうぜ?」
下卑た笑みを浮かべながらクラウドスタースクリームが手を掲げる、その手の中には小さな機械の少女・・・クラウド世界の最後の希望と言える「SARA」が握りしめられていた。
「「SARA」・・・!スタースクリーム・・・お前って奴は・・・!」
ブローンが怒りに震え睨みつける。「SARA」は依然ぐったりと体をもたげたまま動くことはなかった。気を失っているだけなのか、それとも最悪の場合すでに・・・?そんな不吉な考えが一瞬ブローンの脳裏に浮かんだが、その嫌な予感を払うように声を張る。
「「SARA」はお前さんにとってもまだ必要なはずだ、そうそう無茶なことはできまい!」
「俺様を舐めるんじゃねえ!」
叫び声と共に「SARA」を握る手の力を強めるスタースクリーム、慌ててオプティマスが声をかける。
「よすんだ!彼女の重要性はお前にも理解できているはず!」
だがクラウドスタースクリームは目元をゆがませながら、手の中の「SARA」を見つめる。
「ああ分かってるぜ・・・お前らはどうあってもこいつを無事に取り戻さなきゃならないってことをなあ。へっ、俺様はすでに絶対無比のパワーを手にいれている、後はこの世界で時空を越えられるに足るエネルギーを奪うだけ。確かにこいつは持っていれば便利かもしれねえが、俺にしてみればいざとなったらどうなっても構わんのさ、こんな風にな!」
そうまくし立てながら手の中の「SARA」にナルビームキャノンの銃口をあてがうクラウドスタースクリーム。脅しなのか、本心なのか・・・その真意を測る暇はオプティマス達には無かった。
「や、やめてくれスタースクリーム!お前の言うことを聞こう・・・。」
オプティマスのその声にブローンも悔しげな表情を浮かべたまま従う、その二人の様子にクラウドスタースクリームは満足そうな笑みを浮かべた。
「よーし二人とも並べ、いいか?ピクリとも動くんじゃねえぞ。もし動いたら俺様ビックリしてこのちびっこいの握りつぶしちまうかもしれねえからなあ!さて、おいお前。」
クラウドスタースクリームは顔だけ向けて、なりゆきを困惑の表情で見守っていたアルマダスタースクリームを呼びつける。
「ぼさっとしてるんじゃねえよ、俺様がこいつらを引き止めてる間にさっさと遺跡からマイクロンを掘り出せ。」
「き、貴様・・・いくら敵を倒すためとはいえ、それは卑怯すぎるのではないか・・・?そんな手を使って貴様はなんとも思わないのか?」
クラウドスタースクリームを・・・というよりその手に握られた名も知らぬ小さな存在・・・「SARA」を見つめながらアルマダスタースクリームは戸惑いを見せる。
「は?何の冗談だ?くだらねえこと言ってねえで早く言うとおりにしろ。マイクロンが必要なんだろ?」
その言葉に苦悩するアルマダスタースクリーム。確かに自分の目的は一つでも多くのマイクロンを手に入れること、その力が自分の望みのため必要だ。だが本当にそれでいいのか・・・。
「く・・・、わかった・・・。」
考えるのをやめ、目的のためマイクロン発掘を始めるアルマダスタースクリーム。クラウドスタースクリームはその姿を一瞥すると、再びオプティマスとブローンに向き合う。
「さて、どちらから料理してやろうか?そうだな…まずは死に損ないのデカブツからか?」
言うや否やブローンの右手首めがけナルビームキャノンを発射、なす術もなくその拳は撃ち抜かれ、無残に砕け散った。
「ぐあああああ!?」
片手を失ったブローンが苦痛の叫びを上げる、オプティマスはとっさにブローンの体をかばおうとするが・・・
「動くんじゃねえよ!」
「SARA」を見せつけるように差し出しクラウドスタースクリームが怒鳴る。オプティマスは言葉もなく睨みつけることしか出来なかった。アルマダスタースクリームもまたブローンの悲痛な叫びに反応するも、自らの揺らぐ心を押さえつけるように顔を背けつつ、黙々と遺跡の発掘作業を続ける。
「フン、この俺様のボディをよくも何度も小突いてくれやがったな、そんな拳は二度と使えないようにしないとなあ。」
容赦無く二発目のナルビームキャノンを発射し、今度は左拳を砕かれブローンは苦悶にのたうつ。
「むぐあああああ!!」
「はっはっは!動くなって言っただろうが!まあ無理もねえか!」
痛みの絶叫と狂気の笑いが周囲に響く。その音に反応したのか、今までずっと動かなかった「SARA」がふいに意識を取り戻し、ゆっくりと顔を上げる。
「お?お目覚めかいお嬢さん?ちょうどいいタイミングだ、今は正義の味方オートボットの処刑ショーの真っ最中だぜ。特等席で見せてやるから感謝しな!」
そう言って「SARA」を握った手をブローンの方向へ突き出す。「SARA」は苦しむブローンの姿を見ると、ひどく悲しげな表情を浮かべ、手の中で暴れ出した。
「あ?なんのつもりだ・・・大人しくしやがれ!」
クラウドスタースクリームは語気を荒げ握る力を強める。その締め付けに耐えられず「SARA」の半身は大きくのけぞった。
その時・・・無心となって発掘作業を続けていたアルマダスタースクリームには、「SARA」の声にならない苦しみの叫びが聞こえたように思え、不意に目を向ける。
視線の先にいる「SARA」と目が合い、その弱く儚げな瞳は彼の心に強く刺さった。そう・・・すでに以前マイクロンと出会ったことのある彼は知っているのだ、弱き存在と通じ合い・・・それを労わる心を。
「ようやく大人しくなったかチビめ。さて、いつまでも遊んでいられるほど俺様も暇じゃないんでね、そろそろてめえらには死んでもらおうか。」
クラウドスタースクリームは勝ち誇ったように悠然とした態度でナルビームキャノンの狙いをブローンの頭部に向けた。ブローンは痛みと怒りに顔を歪ませる。オプティマスも「SARA」を取り戻す方法を必死に模索していたが、もはや猶予は無かった。
まさにその凶弾が発射されようとする・・・その時である。
「あ!?ぐあああああ!!」
その叫びはオートボットのものでは無く、他ならぬクラウドスタースクリームのものであった。なんと「SARA」を握っていたその腕は鋭く切り落とされ、目の前には無残に転がる腕と、「SARA」を抱えた赤き戦士・・・アルマダスタースクリームが愛用のウイングブレードをその手に握り立っていた。オプティマスとブローンも思いもよらぬ事態に驚愕する。
アルマダスタースクリームの腕に優しく抱えられた「SARA」は、まるで愛する父親に抱きかかえられた少女のように安堵の表情を浮かべ笑いかける。アルマダスタースクリームも一瞬優しく微笑み返すもすぐに険しい表情に戻り、無言で「SARA」をオプティマスの方へ行くよう促し、片腕を切り落とされ苦痛と怒りに震える眼前の「敵」に対し意識を向ける。
「てっ・・・てめぇ・・・、何しやがる・・・!気でも狂いやがったか・・・?」
「黙れ!確かに私の目的はマイクロンを得ること、だがそのために・・・こんな小さき者を盾にするような薄汚い真似を看過することなど到底できぬ!ようやく分かった・・・やはり貴様は私とは相入れぬ存在だと!」
凛とした態度で言い放つアルマダスタースクリームのその顔は、これこそ自身の信じる真のトランスフォーマーの姿であるという自信と誇りに満ちていた。
「SARA」を迎え入れたオプティマスとブローンはその光景にしばし魅入る。まさかスタースクリームの名を持つ者からこんな言葉を聞くとは、無限に広がる時空世界の可能性の一つを垣間見たようにオプティマスは思えた。
「ふざけるなあぁ!同じ名前と思って下手に出てればつけあがりやがって!相入れないだと?それはこっちのセリフだぁぁ!」
怒りの絶叫と共にクラウドスタースクリームの体から閃光のようなエネルギーが発せられ、驚くべきことに切り落とされた腕がみるみるうちに再生されていった。「SARA」の力により備わった恐るべき再生能力である。そしてその姿は瞬時に装甲戦車へとトランスフォームした。
「何!?更に別の姿にもなれるのか!」
「奥の手はとっておくもんだぜ!くたばりやがれ!」
アルマダスタースクリームに向けて主砲の狙いがつけられる、だがその瞬間砲塔へ大きな影がしがみついてきた。両拳を失いながらも未だ闘志を失わない勇敢な戦士、ブローンだ。
「おいあんた!さっきは助けてくれてありがとうよ!ここはこいつを倒すため共闘と行こうや!」
「て、てめえまた邪魔を!離れろ!」
ブローンにしがみつかれ狙いをつけられず焦るクラウドスタースクリーム。アルマダスタースクリームはその様子を険しい表情で見つめるが・・・ 「別に貴様を助けるためにやったわけじゃない・・・それに、私がサイバトロンと共闘だと・・・?バカな・・・!だが・・・。」
一瞬表情をゆるめ、フッと小さく笑う。
「協力してそいつを叩きのめすというのは、悪くない!」
ウイングブレードを振りかざし、吹っ切れたように迷いなく戦車へと斬りかかるアルマダスタースクリーム。だがブローンを弾き飛ばしながらロボットモードへトランスフォームし、その攻撃を回避するクラウドスタースクリーム。
ブローンは傷ついた腕をかばいながらも受け身をとり、アルマダスタースクリームと並び立つ。ここにオートボット&デストロンVSディセプティコンという異色の対決が始まったのだった。

その時オプティマスは「SARA」が遺跡に意識を向けたのに気がつき、促されるまま遺跡の前まで彼女を連れてきていた。
遺跡を前にした「SARA」はしばらくその場を見つめていたが、その体が突如ぼんやりと光りだした。
「む・・・。君、いったい何を・・・?」
すると「SARA」の光に同調するように、遺跡内部より光がこぼれ、岩が割れて一枚の不思議なパネルが現れた。そのパネルは「SARA」の体よりも小さな物で、オプティマスが見たこともないエンブレムのような物が描かれていた。
「それが君の探していた物なのかい?そうか・・・やはりこの世界には、君にとってなんらかの理由があって移動してきたのだね。」

「む・・・あれはマイクロンパネル!そうか、あの子が保護したのか・・・。」
クラウドスタースクリームと戦闘を繰り広げる中、ただならぬ雰囲気に気がつきアルマダスタースクリームが遺跡の方へ目を向ける。この時空に眠る大いなる力を持つ存在「マイクロン」、それらはみな小さなパネル状になってこの惑星の大地に眠っているのであった。
「なんだと!あれがマイクロンなのか!よこせ!それは俺様のものだ!」
目の色を変えてマイクロンパネルを奪いに行こうとするクラウドスタースクリーム、だがそれに気を取られている隙を見逃さず、ブローンは強烈なタックルを見舞った。たまらず吹き飛ばされるクラウドスタースクリーム。
「くそ・・・!ちくしょう!!こうなったら・・・!」

マイクロンパネルは光を放ちながらゆっくりと「SARA」の元へ降りてくる。だが・・・。
「危ない!」
オプティマスはとっさに「SARA」をかばい抱きかかえて転がり込んだ、直後轟音が響き巻き起こる大爆発。爆煙の中オプティマスが顔を上げると遠くには唖然としたまま立ち尽くすアルマダスタースクリームとブローンの姿。更にその先にあるのは・・・クラウドスタースクリームがトランスフォームした巨大な戦車。その砲口から上がる硝煙はまさに今強烈な砲撃が放たれたことを示していた。
「へっへへ・・・見たか・・・。俺様の物にならない力なんざ、いっそぶっ壊してやるぜ・・・!」
オプティマスは青ざめて爆発が起きた場所・・・つい数秒前まで自分達が立っていた場所を見る。煙が晴れ、えぐれた地面に転がるは瓦礫と化した遺跡、そして・・・マイクロンパネルであったと思われる砕け散った破片であった。
「な・・・なんということを・・・!」
オプティマスは驚きのあまり言葉を失う。だがこの事態にもっとも感情を爆発させたのは・・・
「貴様・・・貴様という奴は!!」
他ならぬアルマダスタースクリームであった。怒りと悲しみが入り混じる表情を浮かべ、クラウドスタースクリームに猛烈な勢いで斬りかかる。
「貴様は何をしたのかわかっているのか!マイクロンは大いなる力をくれる者・・・だがそれ以上に、彼らもまた命ある存在であったのだ!それを貴様は!」
アルマダスタースクリームの怒り、それはマイクロンと出会い相棒として共に戦い、意思を通じさせたことのある彼だからこそ感じられるものであった。
「ちぃ!もはやここには用は無え!トランスフォーム!」
戦闘機へと姿を変え、まっすぐ上空へと飛び立つクラウドスタースクリーム。
「逃がさんぞ!絶対に!」
アルマダスタースクリームもトランスフォームし上空へ舞い上がる。
「司令官!「SARA」を頼みます!トランスフォーム!」
ブローンもビークルへと変形し両者の後を追う。

雲を裂き繰り広げられる、空の王者スタースクリーム同士の激しいドッグファイト。
「しつこいんだよ!ぶっ飛びやがれ!」
そう言うとクラウドスタースクリームはその大柄なボディに物を言わせ体当たりを繰り出した。弾き飛ばされるアルマダスタースクリーム。
「スピードで追いついてもお前の貧弱なボディじゃ俺様のアタックには耐えられねえだろ!・・・ん?うあ!?」
敗者への侮蔑の言葉を吐いていたクラウドスタースクリームであったが、自身もバランスを崩しきりもみ回転で降下していく。
「な!なんだこれは!?」
見るとその自慢の翼に深く突き刺さるものが、アルマダスタースクリームの武器ウイングブレードである。たまらずロボットモードへ戻るもバランスをうまくつかめずもがく。
反してアルマダスタースクリームの方はすでに体制を立て直していた。
「貴様のやることは分かっていた、初めてやりあった時と同じ行動だ。よほどそのボディに自信があったようだな…、だがその慢心が命取りになったな!」
「く・・・こんなことでえええ・・・!」
必死に体制を立て直そうとするクラウドスタースクリーム、だがそれを黙って見ているアルマダスタースクリームではない。
「奥の手はとっておくものと言っていたな・・・まったくその通りだよ。来い!グリッド!」
するとどこからともなく小型のレースカーの形をしたトランスフォーマーが現れる。そう、これこそアルマダスタースクリームの本当の相棒であるマイクロン、そして彼が秘めていた切り札である。
「エボリューション!ナルッ光線キャノンッ!!」
マイクロン・グリッドがアルマダスタースクリームに合体=エボリューションすると巨大な2門の砲塔がせり出し、膨大なエネルギーのビームを発射した。これこそマイクロンがトランスフォーマーへ与える強大な「力」である。
「ぐあああああ!!」
満足に身動きできないクラウドスタースクリームはそのビームをまともに食らい、煙を吹き出しながら地面めがけ落下していく。
「まだだ・・・こんな程度でこの俺様が・・・、はっ!?」
彼は気づいた、これから落ちて行く地上で、今もっとも会いたくない者・・・ブローンが手ぐすねを引いて待ち構えていることに。
「奴に出来て、俺に出来ないわけがない!うおおおお・・・!」
ブローンは失われた拳に意識を集中する、するとなんとブローンの腕がみるみる再構築されていく。完成したそれはまさに鉄塊、立ちふさがるもの全てを打ち砕く強靭な鉄球であった。
「や、やめ…!助けてくれええええ!?」
「うおおおお!!」
地表にぶつかる直前、完璧なタイミングでブローンの鉄球ストレートパンチがクラウドスタースクリームの顔面に炸裂した。インパクトの瞬間ミシミシと顔にめり込み、直後大きく後方へ弾き飛ばされたその体は周囲の木々をなぎ倒し大地をえぐり縦横無尽に転がりはてた末やっと止まる。その衝撃にブレインサーキットは大きく揺さぶられ、ついにクラウドスタースクリームの意識は途切れた。
「決着のゴングは俺が鳴らさせてもらったぜ!スタースクリーム!」
ブローンは鉄球となった腕を天高く掲げ、この戦いの勝利を宣言したのであった。

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