TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 遭 遇 ー

第四話「遭遇」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

地球・・・南米大陸に広がる広大な密林地帯、未だ人の手が入っていない大自然が広がる美しい大地。その光景を見渡せる山脈の頂上に一つの影があった。
「ちっ・・・しけた世界だぜ・・・。」
この世界…第15MD時空にディメンションゲートを越えてやってきた者・・・クラウド世界のスタースクリームである。
「俺様が全時空界を支配した暁にはこんな世界はいらねえな、焼き払うか、それともアニマリアンの遊戯場にでもしてやるか。」
気だるそうにつぶやくと、胸のキャノピーを開き中に閉じ込めていた「SARA」を取り出す。
「おい起きろ、あの場から時空移動して逃げ出せたのはいいが、ここはいったいどこの世界なんだ?お前の力で開けたゲートだ、お前ならわかるだろ?」
だがその問いかけに反応することなく、「SARA」はぐったりとしたまま動くことはなかった。
「おいまさか死んでないだろうな?お前にはまだ利用価値があるんだ、この時空の覇者となるスタースクリーム様のためにな。」
強く握っても依然として反応のない「SARA」にスタースクリームは苛立ちながらも諦め、再び胸のキャノピーの奥に閉じ込めながら空を見る。
「なんにせよ、この世界にも時空エネルギーとなる強力な力があるはずだ。それを見つけて更なる力を得れば、今の俺様なら単独で時空を越えることさえ不可能じゃないはず・・・。しかし・・・。」
スタースクリームは途方にくれたような顔で大地を見つめる。
「いくら俺様でも初めての時空移動、そしてまったく予備知識のない世界だ・・・。さすがに気が遠くなってきやがったぜ。せめて・・・誰か利用できそうなこの世界の協力者でもいれば・・・ん・・・?」
何者かの気配を感じ遥か彼方の空を見上げ、笑みをこぼす。
「へへ・・・渡りに船ってやつだ、いや、飛行機か。」

空気を切り裂くような鋭い速さで飛ぶ赤い戦闘機、だがそれはただの戦闘機ではなかった。
「私が得た情報では、この辺のはずだが・・・」
そう、それはこの世界のトランスフォーマーであった。
「メガトロン様に気づかれる前に、私がアレを手に入れられれば・・・私は・・・。」
その時、赤い戦闘機の上に影が落ちた、だが雲よりも遥か上空を飛ぶ今の彼にかかる影など通常では考えられない。不審に思った彼が頭上に注意を向けた時。
「ハッハッハー!トランスフォーム!」
影を落としていた巨大な戦闘機が、その姿をロボットモードへと変え飛びついてきた。バランスを崩す赤い戦闘機。
「な…なんだ貴様は!?見たことのない奴!」
「確かにお互い顔見知りってわけじゃねえがよ、このエンブレムには見覚えあんだろ?何せお前の翼にも付いているんだからよぉ!」
そう言いながら飛びかかってきたロボット・・・スタースクリームは己のディセプティコンエンブレムを指差した。確かに赤い戦闘機の翼にも同じデザインのエンブレムがついていたのだ。
「何…では貴様も・・・?トランスフォーム!」
赤い戦闘機は瞬時にロボットモードへと変化、スタースクリームとにらみ合う形で空中で向き合った。
「見ない顔だが・・・貴様もデストロンのメンバーなのか?」
「はぁ?デストロン?何言ってんだ、俺様はディセプティコ・・・」
そこまで言ってスタースクリームは口をつぐんだ、時空世界によっては同じ意味を持つものでも呼び名が違うことなど多々あるということを思い出したのだ。
「あ、ああ・・・そう、デス・・・なんだっけか、そうデストロンだよ、俺も。」
ヘラヘラと笑ってごまかすスタースクリーム。その様子を訝しげに見ながら赤い戦闘機の戦士が名乗る。
「本当か?私はデストロン航空参謀のスタースクリームだ。貴様も名を名乗れ!」
「は?スタースクリーム・・・?・・・ククク・・・ッ、はぁっはっはっは!」
突然笑い出すその態度に、怒りをあらわに赤い戦士が食ってかかる。
「なっ・・・貴様!人の名前を笑うとは無礼な!」
「いや悪い悪い、俺は怪しい者じゃねえんだ。何せ俺様も・・・スタースクリームなんだよ。つまりお前と同じってわけだ。」
クラウド世界のスタースクリームのその発言を聞き、この世界のスタースクリームと名乗った赤い戦士…便宜上アルマダスタースクリームと呼ぼう・・・はますます不審感を露わに身構えた。
「訳のわからないことを・・・突然現れて自分と同じ名を名乗られて怪しまないわけがないだろう!さては・・・貴様もマイクロンが目当てか!」
その発言を聞き、クラウド世界のスタースクリーム・・・クラウドスタースクリームは気づかれないようニヤリと笑った。恐らくそのマイクロンというものがこの世界での何らかの強力な力を持つものに違いないと悟り、同時に目の前の相手を利用できる弱みになると感じ取ったのだ。これは普段から他人の弱みに付け入り利用することを得意としているクラウドスタースクリームならではの鋭い勘であったと言えるだろう。
「落ち着けよ、俺はお前の味方だ。そのマイクロンってのをお前は探しているんだろう?その手伝いをしに別の世界から来たんだ。」
本心を隠し精一杯の優しげな声でクラウドスタースクリームは相手を信用させようとする。
「別の世界・・・?またおかしなことを言う。本当に私に協力するというなら、足手まといでないか見せてみろ!トランスフォーム!」
アルマダスタースクリームは再び赤い戦闘機の姿へと変わる。
「私の名前をかたるなら、このスピードについてこれるか!」
そのまま矢のような速さで空を駆け出した。
「へへ・・・どうやら名前は同じでも俺様とは違って単純な野郎みたいだ・・・これは思ったよりやりやすそうだぜ。トランスフォーム!」
クラウドスタースクリームも巨大戦闘機へとトランスフォームし、アルマダスタースクリームの後を追う。
両者は雲を払い風を切り裂きながら、超音速の空中チェイスを繰り広げる。自分のスピードに絶対的な自信を持っていたアルマダスタースクリームは、相手を振り切ることができずピッタリとついてくることに驚きを隠せずにいた。
「まさか私のスピードにここまでついてこれるとは…!」
「へっへ、鬼ごっこもいいがこんなのはどうだ?」
そう言うとクラウドスタースクリームは更に加速し、アルマダスタースクリームの横に付いたかと思うと一気に距離を詰め体当たりを仕掛けてきた。
「うお!」
大型で強固なボディとなったクラウドスタースクリームの一撃により、体格差で負けるアルマダスタースクリームはバランスを崩されそのまま地表へと転落。地面に着く直前にロボットモードへトランスフォームし尻餅を付きつつも地面を滑りながらなんとか着地した。顔を上げると目に前に立ちはだかる影。
「大丈夫か?だがこれで俺様の実力がちったあ理解できただろう?」
手を差し伸べながらも勝ち誇ったような態度で見下ろすクラウドスタースクリーム。その手を払いながらアルマダスタースクリームは立ち上がる。
「…確かにその力認めよう。サイバトロンのスパイでもなさそうだし、私を始末するような気も無いようだし・・・な。」
その言葉を聞き笑うクラウドスタースクリーム。
「サイバトロン・・・?へっ、まあいいや。なら決まりだな。一緒にマイクロンを手に入れようぜ、相棒。」
「相棒…か。よかろう。」
アルマダスタースクリームはそう言いながらも相手を信用したわけではない。恐らくこいつもマイクロン目当てなのは間違いない、だが今下手に敵に回すより表向きだけでも味方の態度をとっておいた方が得策だと睨んだのだ。それにいざとなった時のための、まだ見せていない奥の手も彼は隠しもっていた。
「へへ、それじゃあスタースクリーム同盟の結成ってわけだな。」
クラウドスタースクリームは相変わらず軽薄な笑みを浮かべている。もちろん彼も目的は、時空エネルギーとなる超パワーを持つと思われるマイクロンを手に入れることである。相手を格下と思っている彼は目的さえ達すればすぐにでもアルマダスタースクリームをその手にかけるつもりであった。
こうして表面上だけのつながりではあるが、時空世界を越えた二人のスタースクリームの奇妙なコンビが誕生したのであった。

第15MD世界・・・そこはOG世界とはまた違う独自の歴史を歩む時空世界であった。この世界でもトランスフォーマー同士の戦争は起こってはいるが、ここではオートボットに当たる者達はサイバトロン、ディセプティコンに当たる軍団はデストロンと呼ばれ、両軍は戦争の行方を左右するほどの未知の超パワーを宿す小型トランスフォーマー「マイクロン」をめぐり、地球という惑星を舞台に激しい争奪戦を繰り広げていた。

「おい、本当にマイクロンのありかの目星はついてるのかよ?」
「だまっていろ、・・・む?見つけたぞ、恐らくあそこだ。」
空を行く2機の戦闘機、二人のスタースクリームはジャングルの中に巨大な遺跡を見つけロボットモードとなり降り立った。
「マイクロンはこの惑星に太古の昔降り立ち眠りについた、それらは原住民の伝承や神話としてその存在が崇められていることが多い。恐らくこの遺跡の中に・・・。」
「細かい話はいい、さっさと掘り出そうぜ。このでかい石コロの塊、崩すのにも一苦労だぜ。」
昔話にはまったく興味が無いといった態度でクラウドスタースクリームが遺跡に近づく、だがその時。
「穴掘り大変そうだなスタースクリーム、手伝ってやろうか?もっとも掘るのはお前の墓穴だがな!」
名前を呼ばれて二人のスタースクリームが驚いて同時に上を向く。見上げた先、遺跡の上には二つの影が。
「なに・・・あいつらは・・・!」
二つの影はジャンプし地上に降りてくる。そのうちの片方、大柄な影はそのままクラウドスタースクリームに向けてパンチを放ってきた。
「ちぃ!」
その攻撃を避け後退するクラウドスタースクリーム、アルマダスタースクリームもそれに続いて謎の相手から距離をとる。
「この私がいる限り他の時空世界を巻き込んで好き放題はさせんぞ、スタースクリーム!」
二人のうち、赤いボディの威厳を感じさせる佇まいの戦士が強い口調で告げる。
「どうして追ってこれたんだ・・・オプティマスプライム・・・それにくたばりぞこないのブローン!」
それはクラウドスタースクリームのよく知る二人、つい先刻クラウド世界で自分に辛酸をなめさせたオートボット戦士のオプティマスプライムとブローンであった。
「仲間達が俺と司令官を送り出してくれたんだ。そしてお前さんが狙いそうな力の存在を感じ予めここで待ち伏せしてたってわけよ。さあ、今度こそ「SARA」を返してもらうぞ!」
ブローンが拳を鳴らしながら前に出る。その状況を把握できずにいるアルマダスタースクリーム。
「なんだあいつらは?貴様知っているのか?」
「奴らは…マイクロンを狙う敵だ!ぼさっとしてないで迎え撃て!」
クラウドスタースクリームがそう叫ぶのと同時に、ブローンが飛びかかってきた。ブローンの激しいパンチのラッシュがクラウドスタースクリームを襲う。
「君は・・・この世界のトランスフォーマーか?巻き込んでしまってすまない、奴に何か妙なことを吹き込まれているようだが・・・。」
オプティマスが事態を飲み込めず呆然とするアルマダスタースクリームに声をかける、だがそのオプティマスの肩のエンブレムを見たアルマダスタースクリームは突如険しい表情となり、翼から剣を取り出し斬りかかる。
「貴様!そのエンブレム・・・サイバトロンの一味か!よく見ればコンボイに似た顔をしている・・・どうやらマイクロンを狙う敵というのは本当のようだな!」
サイバトロン?コンボイ?聞きなれない名前に困惑するオプティマス。だがすぐに思い出す、いくつかの時空世界では近い存在でも呼び名が違うことを。確かコンボイとは・・・オートボットに当たる軍団・サイバトロンのリーダーの名。
「そうか、それならばコンボイという戦士が私に似ているというのも納得がいく。」
「何をゴチャゴチャと!」
オプティマスに嵐のような剣撃を加えるアルマダスタースクリーム、彼はその翼から精製される剣、ウイングブレードを使った剣技を得意としているのだ。
「落ち着くんだ君!私は君と争うつもりはない!」
「言うこともコンボイそっくりだな!甘っちょろくて耳障りな!このスタースクリームを愚弄するな!」
今度は聞き慣れた名前、だがそれは残念ながらオプティマスにとって喜ぶべき情報では無かった。よりによって目の前の相手はこの世界のスタースクリームだったのかと落胆する。スタースクリームと言えば自分が知る中で最も信用できぬ存在・・・例え他時空の別人といえども到底こちらの説得など聞き入れる相手ではないだろう。
説得は諦めたものの、時空移動のルール・・・他の世界のことにはなるべく関わってはならない・・・今はそれを尊重し、防戦一方のオプティマス。

一方ブローン対クラウドスタースクリームの戦いは、ブローンが優勢であった。「SARA」の力が安定し、怒りに燃えるブローンの気迫にクラウドスタースクリームは押されて行く。
「クソ・・・こんなクズにこの俺様が・・・!」
「うおおおお!」
ブローンはクラウドスタースクリームを抱え上げ、岩場に叩きつけるように投げすてる。強烈なダメージにたまらず転がっていくクラウドスタースクリーム。
「さあ、そろそろ観念するか?」
のしのしと歩み寄るブローン、だがクラウドスタースクリームは醜悪な笑みを浮かべる。
「観念…?てめえ何か勘違いしてねえか?俺様の有利は揺るいでないんだぜ?・・・こいつがある限りなあ!」
その胸のキャノピーを開き、中に閉じ込めていた小さな少女を取り出す。
「何!あれはいったい・・・!?奴は何を!」
オプティマスへの攻撃の手を止め、アルマダスタースクリームがそのぐったりとして動かない少女の姿に目を向ける。オプティマスとブローンも苦々しい表情でクラウドスタースクリームをにらむ。
「聞けクズ共!それ以上一歩でも動いてみろ!「SARA」を一瞬で握りつぶしてやるぞ!ハッハハハァ!!」

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