TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 変 貌 ー

第二話「変貌」

Illustrated by nagi miyako
Story by makoto wakabayashi

「ここは・・・メトロポリス?クラウド世界に戻ってきたのか・・・!」
ディメンションゲートを抜け、クラウド世界の大地に着地するオプティマス。腕の中にいる機械の少女・・・「SARA」の姿を確認し問いかける。
「君が私をこの世界に戻してくれたのか?」
しかしオプティマスの問いかけには「SARA」は返答せず、初めて会った時と同様に何を言われているのかわからないといった無垢な表情で見つめ返すだけであった。
オプティマスは時空移動の衝撃で揺らぐ意識を集中させながら周囲の状況を確認する。先ほどは本能的に仲間の危機を察知し考えるより早く攻撃を仕掛けてしまったが、状況は思った以上に良くないように見えた。戦闘により破壊されたかつての都市、はびこる憎きディセプティコン達。だがそこには懐かしい仲間達の顔もあった。
「オプティマス司令官!本当に司令官なのですね!」
行方不明だったリーダーとの再会に喜びの声を上げるラチェットをはじめとしたオートボット戦士達。反してまさかの増援にディセプティコン兵士達は戸惑う。
「オプティマスプライム!?メガトロン様と一緒に消滅したと聞いたが・・・生きていたとは!」
先ほどまでの悠々とした態度から一変、焦りを隠せずにブリッツウイングが叫ぶ。
「そうか・・・メガトロンは戻ってきていないのか。みんな、私がいない間よく持ちこたえてくれた・・・、む・・・?」
言いながらオプティマスは異変に気づく、ラチェットが抱えているブローンからスパークの鼓動を感じないことに。無言のままラチェットは冷たくなったブローンの体をオプティマスに預けた。
「おぉ・・・ブローン・・・、なんということだ・・・!あの時生き残れと・・・命令したじゃないか・・・!」
戦いで仲間を失うのはもちろん初めてではない、戦争に大いなる犠牲はつきものであると理解はしている。だが戦士であると同時に優しき心を持つオプティマスはその痛み、悲しみに決して慣れることはなかった。
「偉大なる戦士、そして永遠の友よ、安らかに眠れ・・・。」
ゆっくりとブローンの遺体を降ろすオプティマス。その時「SARA」はブローンへと近づき、どこか悲しげな表情を浮かべながらその冷たい体にそっと触れた。
「君も友の死を悼んでくれるのか、ありがとう・・・。」
「司令官、その小さいのはいったい何者です?」
その場の空気に水を差すことに申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、ジャズが疑問を投げかける。
状況を見ながら攻めあぐねている周囲のディセプティコン達を見回し、オプティマスは今この場でこの少女が「SARA」であると発言するのは得策ではないと判断する。
「心配するな後で話す。君、危険だから隠れていなさい。」
そう言ってオプティマスは「SARA」をブローンから離す。何か言いたげな表情を浮かべながらも「SARA」はオプティマスの言葉を理解したようで、その場から走り去り物陰へと姿を消した。
「オ・・・オプティマスプライム、お前が戻ってきたからと言って状況がそうそう好転すると思うな!」
ようやく落ち着きを取り戻し、壊れたライフルを捨て代わりにサーベルを構えながらブリッツウイングが叫ぶ。だがオートボット戦士達の表情は先ほどまでの絶望的なものではなく、むしろ戦意に満ちたものとなっていた。
「ディセプティコン共、我々にとって司令官がいてくれるというのがどれほど大きなことか分かっていないようだな!」
オプティマスもまた、険しい表情で敵を見据える。
「無法者達よ・・・私は今日ほど相手を憎いと思ったことはない。ただで帰れると思うな・・・!」
その視線にたじろぎながらも、ディセプティコン達はオートボットに銃口を向ける。
「減らず口をたたくな!ディセプティコン軍団、撃てー!」
ブリッツウイングの号令で一斉に放たれる銃撃、だがその瞬間!
「トランスフォーム!」
オプティマスの掛け声と共にオートボット戦士達は一瞬でビークルモードへと変形し、攻撃を回避しつつ散開、各個敵と戦い始めた。オートボットの反撃がはじまったのだ。

戦場から少し離れた場所、破壊された建物の陰に小さな機械の少女・・・「SARA」は隠れていた。その様子は以前OG世界でオプティマスに話しかけ、メガトロンを時空の彼方に追い払った時のような荘厳な雰囲気は感じられず、何も知らない無垢な少女が親の帰りを待つようなあどけないものであった。
その時「SARA」の背後から一つの影が近寄ってきた。それに彼女が気が付いたときにはすでに遅く、巨大な手に「SARA」の小さな体は握られてしまう。
「なんだ・・・これは・・・?」
その影・・・それはかつてのディセプティコンニューリーダー、スタースクリームであった。先ほど「SARA」の残留エネルギーを浴び全身ボロボロとなり、さらにブリッツウイングに責め立てられ命からがら戦場から逃げ出し、瀕死の状態で彼もまた隠れていたのだ。その手に握られ苦しむ少女の姿をスタースクリームはじっと見つめる。
「こいつ・・・感じるぞ・・・俺の中のエネルギーが反応している・・・!これは俺に…力をくれるモノだ・・・!」
醜悪な笑みを浮かべながら少女を握る手の力を強めていく。
「よこせ・・・この俺様に、全てを支配できる力をよこせぇぇぇ!!」
体を握り締められ苦しむ「SARA」、その身が突如まばゆく発光する。その光はスタースクリームの内部に残った「SARA」の残留エネルギーと同調し強さを増していく。
「オオオオォォォォォ!!!」
絶叫とともに、スタースクリームの体の構造は急激に変化していった・・・。
「バカな・・・こんなことが!」
狼狽するブリッツウイング、自分達に圧倒的であった戦況はすでに覆され、ディセプティコン兵達は次々とオートボット戦士達に倒されていった。これが信頼できるリーダーを得て戦意高揚したオートボット達の強さなのだ。
「さあ、そろそろ観念したらどうだ。大人しく投降するならこれ以上無益な戦いをすることもない。」
銃口を向けながらオプティマスが告げる。ブローンの仇であるディセプティコンは許せない・・・だがそんな彼らに対してもこれ以上の血は流したくないというのもまたオプティマスの本心であり、彼が偉大なオートボット総司令官であるという所以でもあった。
「ちっ・・・ここは下手に逆らわずいったん従うべきか。俺はスタースクリームみたいなバカと違って無駄死にするつもりはねえ。」
観念しブリッツウイングは武器を捨て投降の意思を見せる。続き何人かの残ったディセプティコンも渋々それに従った。
「・・・本当は、多くの仲間を傷つけ殺した連中を一人たりとも許したくはないんですがね。」
普段は大人しいジャズが憎らしげに言う。
「私も同じ気持ちだ、だが今は憎しみで争っている場合ではない。クラウド世界の崩壊も進んでいるようだし一刻も早く「SARA」の力で・・・」
オプティマスが話しているその時、遥か上空から見覚えの無い巨大な戦闘機が急降下し、旋回しながら地上に恐ろしい量のミサイルを降らせた。
「うおおおお!?」
オートボットもディセプティコンも関係なく降り注ぐその爆撃に、辺りは先ほどまでの戦闘以上に騒然とした空気となった。
「オートボット!みんな無事か?体制を立て直せ!」
オプティマスが指示を出しながら敵を確認する、ディセプティコン側も多大な被害を受けているのを見るに敵の増援ではない・・・が、味方でもなさそうなのは一目瞭然であった。
戦闘機は再び旋回し、今度は戦場のど真ん中に向けまっすぐに降りてきた。
「なんだあれは!敵か?いや・・・あの翼にあるエンブレム・・・!それに・・・この気配・・・まさか!?」
ブリッツウイングが見たのは見慣れたディセプティコンエンブレム、そしてその気配は自分が良く知る者・・・。
「トランスフォーム!」
地面に到達する直前、謎の巨大戦闘機はロボットモードへと姿を変え着地した。銀の翼と肩に装備したビーム砲、そしてなにより不敵なその顔・・・ブリッツウイングだけではない、その謎のトランスフォーマーはその場にいた誰もが知っている者であった。
「どうしたクズども、時空の支配者たる王者・・・新破壊大帝スタースクリーム様の降臨だ!ひざまづきやがれぇ!!」
「ス…スタースクリーム!!?」
そのトランスフォーマーの宣言にその場にいた者全てが驚愕し注目する。ボディは以前より遥かに大きく堅牢なものとなっていたが、紛れも無くそれはスタースクリーム本人であった。
「そ・・・その姿はいったい?・・・なっ!?」
問いながらオプティマスは相手の手の中にいる小さな存在を見て衝撃を受ける。
「見えるか?こいつのおかげさ…なんでこんな姿してるのかは知らねえがこいつは「SARA」だ、そのエネルギーを体内に宿した俺様には分かる。こいつが俺の中にあった「SARA」のエネルギーを制御し増幅させ、生まれ変わらせてくれたのさ。支配者たる者にふさわしい力を持ったボディになあ!」
手の中でぐったりとし動かなくなった「SARA」を高く掲げながら、スタースクリームは歓喜の笑いをあげる。
オプティマスは「SARA」を戦場から遠ざけるという自身の判断ミスを後悔し、またOG世界で戦った「SARA」の力を得て暴走したメガトロンの脅威を思い出し戦慄していた。
「ス・・・スタースクリーム!生まれ変わっただかなんだか知らねえが俺たちまで巻き添えにするんじゃねえ!やるならオートボット共をさっさと蹴散らせ!」
ブリッツウイングの抗議の声を聞きながらスタースクリームは口元をゆがませる。
「ああん・・・?いいぜ、よく見ろ…このスタースクリーム様の新たな力を!トランスフォーム!」
そう言いながら「SARA」を胸のキャノピーに閉じ込め、その姿を変えていく。だがそれは先ほどの戦闘機ではなく・・・。
「な・・・何・・・?」
メガトロンを思わせる巨大な体躯の装甲戦車の姿であった。
「フハハハ!どうだ、これが俺様の新たな力!最高のスピードと最強の火力、両方の姿を得た時空の覇者にふさわしいボディだ!」
「と・・・トリプルチェンジだと・・・!なぜスタースクリームが・・・。新たなトランスフォーム能力、これが「SARA」の力がもたらした物なのか・・・?」
驚きながらもオプティマス達は戦闘体制をとる、だが戦車となったスタースクリームの砲塔は静かに向きを変え・・・。
「な・・・?」
同じディセプティコンであるはずのブリッツウイングに向けて発射された。
「ぐがあああぁ!?」
思いもせぬ突然の攻撃をブリッツウイングはまともに食らい吹き飛んだ。目の前の事態にオートボット、ディセプティコンのどちらも驚き凍りつく。その一撃でボディを大きく砕かれ、瀕死の状態のブリッツウイング。ロボットモードに戻ったスタースクリームはさらに追い討ちとばかりに踏みつける。
「がっ・・・・・・貴様・・・なんで・・・俺を・・・?」
「フン・・・えらそうにしやがって、これはさっきのお返しだ。それに俺は前からてめえのことが気に入らなかったんだ、大ボラ吹きのブリッツウイングさんよ。トリプルチェンジャーだからっていい気になりやがって。」
口元には下劣な笑いを浮かべながらも、ぞっとするような冷たい目で見下ろすスタースクリーム。ゆっくりと腕のナルビームキャノンの銃口をブリッツウイングの顔に向ける。
「や・・・・・・やめろ・・・やめてくれ・・・・・・」
「やれやれ、情けない声上げやがって。さすがのブリッツウイングもこれで永遠にグッドナイトってな!」
冗談のような軽薄なセリフを吐きながら、スタースクリームは無慈悲な一撃を放つ。ブリッツウイングは頭部をまるごと吹き飛ばされ、一瞬痙攣した後、そのまま二度と動くことは無かった。
「う・・・うわあああ!逃げろー!」
その凶行に恐れをなしたディセプティコン達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。その光景の中スタースクリームの悪魔のような笑い声が響き渡る。
「な・・・なんて奴だ・・・。」
ラチェットが息を呑む。目の前の相手はもはや今までのスタースクリームではない、下手をすればメガトロン以上の凶悪な存在であることを実感していた。だがそんな萎縮した空気の中、偉大なリーダーオプティマスプライムは敢然と前に進み出た。
「これはこれは、オートボット司令官オプティマスプライム殿。次に鉄クズになりたいのはてめえ様でございますか。」
挑発するようなふざけた態度で語りかけるスタースクリームに対し、強い口調で告げる。
「たとえお前がどんな力を得ようとも、時空世界を、私の仲間たちを傷つけようとするなら戦うまでだ!そしてお前の邪悪な手から必ず「SARA」を取り戻す!」
「できるものならやってみやがれ!ヘッ、オプティマスを俺がくびり殺してやったと知ったらメガトロンの奴どんな顔するか楽しみだぜ!」
叫びながら戦車へと変形し砲撃を撃ち込む。その爆風にオートボット戦士達は吹き飛ばされそうになりながらも叫ぶ。
「司令官ー!?」
だがオプティマスは砲撃を回避しつつ、愛用の銃を構え攻撃のチャンスを狙う。
「ハッハー!最高の気分だぜ!」
砲撃の連射によりあたり一面が爆煙につつまれる、その状況を利用しオプティマスは身を隠しながらも、砲撃の来る方向を冷静に見据えていた。
「どんなに威力があっても・・・当たらなければ意味は無い!」
そう言って砲撃の来た瞬間を狙いオプティマスは爆煙の中へ銃撃を放った、相手を捉えた完璧なタイミングでの射撃であった。
「!・・・何!?」
だが煙が晴れた先にはスタースクリームの姿は無く・・・
「うすのろが!俺様はここだー!」
真上から急降下してくる戦闘機、そのままトランスフォームしオプティマスを踏みつける形で着地するスタースクリーム。
「どうだこのスピードと破壊力を備えた縦横無尽なトリプルチェンジ能力は?もはやこの俺様に勝てるやつなんざいやしないぜ。」
「ぐ・・・うう・・・」
顔を踏みつけられ苦悶の表情を浮かべるオプティマス。周囲のオートボット達も助けようにもダメージが酷く動けないでいた。
「さて、それじゃあおさらばだオプティマス。俺様の手で死ねるのを光栄に思え・・・ん?」
「し、司令官!・・・え?」
スタースクリームとオートボット、全員が何かに気づき目を向ける。その視線が集まる先には、戦場へと歩み寄る一つの影があった。傷だらけで胸には致命傷に見える大穴を開けた小柄なトランスフォーマー、だがその体はみなぎるエネルギーによりまばゆく光っていた。
「ブ・・・ブローン・・・!どうして・・・?」
そう、その姿はスタースクリームの手によって殺されたブローンであった。ラチェットは確かに死を確認したので、この状況に喜びよりも混乱と疑問を感じていた。さらに驚くべきことに、そのブローンの体が突如再構成を始め、みるみるうちに膨れ上がり巨大化していった。
「な・・・なんだ?てめえは俺様が殺したはずなのに・・・いったい!?」
もはや今までの小柄なミニボットとしての面影はない、その怪力に見合った大柄な体格となったブローン。光が収まりエネルギーの流れが正常になったところで、オートボットの仲間達にとって聞きなれた声が響く。
「司令官からその汚い足をどけろスタースクリーム・・・この生まれ変わった怪力ブローン様が相手になってやる!」

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