TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 暴 走 ー

第六話「暴走」

Illustrated by HIDETSUGU YOSHIOKA
Story by makoto wakabayashi

「やはり貴様も飛ばされていたかぁ…オプティマァス…!」
「メ…メガトロン…!」
最悪の相手との再会に戦慄するクラウドオプティマス、危険を感じ少女を岩陰に逃がし改めて相手を見据える。殺気を放ち爆煙の中から現われたのは間違いなく自分の良く知るクラウド世界のメガトロン…クラウドメガトロンの姿であった。だが-
「君!今…メガトロンと呼んだようだが…ヤツを知っているのか?そして…ヤツも君をオプティマスと呼んだようだが…?」
聞き覚えのある名前で呼び合う未知の存在を前にG1オプティマスは困惑していた。
「知ってはいる…が…これは…!」
クラウド世界のオプティマスは息を呑んだ、事情を説明しようにも彼もまた事態をつかめないでいた。なぜなら目の前のクラウドメガトロンの様子は明らかにおかしかったからだ。
異常なまでの殺気を放ちながらクラウドメガトロンが拳を握り締め地面に叩き付ける。大地が大きく割れ二人のオプティマスは危うく飲まれそうになるのを回避する。
「オプティマァス!貴様が…「SARA」の力の吸収の邪魔さえしなければぁ…こんな中途半端な状態で時空移動することもなかったものおぉ!」
部分的に『SARA』の力を吸収したせいか不安定な状態のクラウドメガトロン、今や彼本来の冷静な態度は無く、その強大なエネルギーに翻弄される暴走状態となっているようであった。

「何者かしらんがワシの前で好きにはさせんぞ!やれデバステイター!」
目の前の強大な存在に苛立ちを覚えながらG1メガトロンが部下の合体巨人兵デバステイターに命令を下し、その巨体がクラウド世界のメガトロンを押さえるべく手を伸ばす…だが。
「引っ込んでおれえぇ!」
クラウドメガトロンは瞬時にタンクモードにトランスフォームし、砲塔から強力な一撃を放つ。大爆発が起きデバステイターは合体前のメンバーへとバラバラになり、各々吹き飛ばされてしまった。
この砲撃こそ先ほどオートボットとディセプティコンの戦いを止め大地をえぐった一撃、「SARA」の強大なエネルギーを帯びたクラウドメガトロンの圧倒的な力であった。
「じょ…冗談じゃねえ!あんな化け物の相手なんかしてられるか!」
スタースクリームをはじめディセプティコンの多くが怯えながら散り散りになって逃げ出しはじめた。
「こ…こらお前達!戻ってこい!」
恐怖にかられた部下たちにはG1メガトロンの命令も届かない。ロボットモードに戻ったクラウド世界のメガトロンはそんな者達など気にもとめずクラウドオプティマスをにらみつける。
「さあオプティマァス…渡してもらおうかぁ!」
「渡す?何をだ。」
突然の要求にクラウドオプティマスは思わず問い返す。
「とぼけるなぁぁぁ!!」
大地を、まるで時空そのものさえも揺るがすような怒号。
「貴様が「SARA」を持っているのだろぉぉぉ!「SARA」は今や我が半身…感じる、貴様のすぐそばにあるはずだぁぁぁぁ!!」
言うや否やクラウドメガトロンは太刀を引き抜き一閃、大地と空を引き裂くするどいエネルギー波が放たれる。
「な…「SARA」が私の近くに?…うお!」
意外な言葉に戸惑いながらもクラウドオプティマスは間一髪その攻撃を回避、再び大地が大きく裂けた。「SARA」がこの世界、しかも自分のもとにある…クラウドオプティマスは新たに生まれた疑問の答えを出せずにいた。

部下に逃げられ両者のやりとりを苦々しく見ているしかできないG1メガトロン、その元へあろうことか宿敵であるG1オプティマスが駆け寄った。
「メガトロン!何者かはわからないが…奴はとても我々単独で戦える相手ではない!今は力を合わせねば!」
G1オプティマスの共闘の申し出にG1メガトロンの顔が屈辱にゆがむ、だが。
「ほざけ!誰が貴様などと!…しかし他に選択肢は無いようだな。仕方がない、あくまで一時的に、だぞ!」
G1メガトロンもまたこの状況の異常さと危機感を理解していた。
両軍リーダーの二人が並び立ち、暴れまわるクラウドメガトロンに照準を定める。
「何者か知らないが…これ以上破壊を続けると言うのなら私が止めてみせる!」
「消し飛ぶがよいわ!」
両者の最大出力の砲撃が放たれる。クラウド世界のオプティマスのみを追い他は意に介さずであったクラウドメガトロンはその攻撃をまともに食らい大爆発が起きる。
「むおっ!」
爆風を防ぐクラウドオプティマス。まさか別世界の自分とメガトロンの名前を持つものが協力しあうとは、彼は驚きと共にそれが出来なかった自分への無念さを感じていた。
「やったか?」
一瞬気をゆるめるG1オプティマスとG1メガトロン、だが次の瞬間爆煙の中から衝撃波が襲い掛かる。
「なんだと…ぐわあああ!」
まともに食らい二人は大きく吹き飛ばされた。煙がはれ、太刀を構えたクラウドメガトロンの姿が現われる。両者の攻撃にもさしてダメージは無く相変わらずクラウドオプティマスの方を狂気の表情でにらみつけていた。その圧倒的な力に周囲のオートボット達はすでに戦意を喪失していた。
「オプティマァァァァス!!」
再びクラウドオプティマスを追い攻撃を繰り出すクラウドメガトロン、その被害は周囲のオートボット達を巻き込み休むことなく続けられる。
「私のせいで別時空の者達が…!メガトロン!私は「SARA」など持っていない!貴様の勘違いだろう!これ以上暴れるのはやめるんだ!」
その時クラウドオプティマスの視界にあるものが入った、岩陰に震えながら隠れる先の機械の少女だ。それを見る彼の脳裏に一つの記憶がフラッシュバックした。

「「SARA」はただのエネルギー体などではないぞ、あれは創造者の代弁人…元来は意思を持っているのだよ」
遠い過去、クラウドオプティマスを時空警察・オートボット最高司令官に任命したある人物の言葉。
「今は眠っているだろうがね。それこそ何か外的要因によって「SARA」が本能的に初期化するようなことがあれば目覚めるかもしれん。もっともこの世界の安定のためにも、そんな事態は起きないに越したことはないのだがね。」
電子頭脳の片隅に残っていた記憶が、この危機を機に蘇る。

「君は…「SARA」?」
思わず状況を忘れ少女に歩み寄るクラウドオプティマス。その隙をクラウドメガトロンは見逃さず、一気に距離を詰め強烈な拳を浴びせてきた。その威力に吹き飛ぶクラウドオプティマス。
「ん?なんだこの虫けらは…。いや…!こいつ…こいつはぁ…!」
少女に気づいたクラウドメガトロンは彼女を掴み上げ、高らかに笑った。
「感じるぞ…!姿こそ違えどこれが「SARA」だぁ!「SARA」じゃないかぁぁぁ!!」
握る力が強くなり少女が苦しむ。
「さあ…貴様の全てを頂くぞ…。今度こそ時空を越える力を得て、我が真の覇者となるときだぁぁ!!」
「メガトロン!やめろぉぉぉ!」
クラウドオプティマスが叫んだその時、突然少女がまばゆい光と膨大なエネルギーを発し始める。
「ぐああ…!なんだぁぁ…!?」
その衝撃に思わず少女を離すクラウドメガトロン。クラウドオプティマスが駆け寄って光る少女を手のひらに受けとめる。
「オプティマス」
響く声、しかしそれは声というよりクラウドオプティマスの頭脳に直接呼びかけるものであった。
「君が話しかけているのか?やはり君が…「SARA」なのか?」
質問には答えず声は続く。
「私に残された力はわずか…ですがあのメガトロンは私が何とか抑えます。オプティマス、あなたはクラウド世界を。」
その瞬間、強烈なエネルギーと共に空間がゆがみ始めた。
「これは…時空間移動!?」
時空間移動ができるのは「SARA」の力だけ…、クラウドオプティマスは少女の正体を確信する。
さらにゆがみは広がり時空間移動の入り口であるディメンションゲートが開き、クラウドメガトロンを吸い込もうとする。
「ぐおおおお!「SARA」を目の前にして…逃すかぁぁぁ!!」
ディメンションゲートの力に抗おうとするクラウドメガトロン。恐ろしい形相とパワーで振り切り、無防備な「SARA」とクラウドオプティマスに飛び掛る、しかし!
「ぐがああああ!?」
刹那、強力な銃撃がクラウドメガトロンを捉えた。
「止めてみせると言ったはずだ…!」
傷だらけの姿ながら勇ましく立つG1オプティマス、そしてその手にはG1メガトロンがトランスフォームした拳銃が握られていた。
「フン…宇宙最強の兵器であるワシの威力、思い知ったか…!」
ロボットモードに戻りながらG1メガトロンがはき捨てるように言う。
「ぬううああああああああ!!」
体勢を崩したクラウドメガトロンはなす術もないままディメンションゲートに吸い込まれていく。同時にクラウドオプティマスと「SARA」もまた、別のディメンションゲートへと消えていった。
後に残ったのは戸惑うOG時空のトランスフォーマー達のみ。彼らは目の前で起きたことが理解できず呆然と立ち尽くすのみであった。
「どうやら…我々の世界をも巻き込む、想像もつかないような大きな何かが起きているようだな…。」
「フン…全宇宙を支配せんとするワシを差し置いてか…気に入らんな。」
G1オプティマスとG1メガトロンは、得体の知れない胸騒ぎを感じながら空を仰いだ。

一方そのころ、クラウド世界メトロポリス内オートボット本部
「第7地区の都市機能が麻痺!火災発生!被害拡大してます!」
「SARA」の奪還に失敗し撤退したオートボット達。その結果エネルギー供給は減り続け、大地は崩れ、クラウド世界は崩壊へと向う。
「ホットロディマスとブローンは重態、他のオートボット戦士のダメージも大きい。残ったわずかなエネルギーでこの世界が果たしていつまで維持できるのか…。」
管理センターでラチェットが沈痛な面持ちで一人つぶやく。
「オプティマス司令官…こんなときこそ偉大なリーダーである貴方が必要なのです…。いったいどこへ行ってしまわれたのですか…?」

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