TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 跳 躍 ー

第五話「決意」

Illustrated by HIDETSUGU YOSHIOKA
Story by makoto wakabayashi

「オートボット戦士、アターック!」
副官・ジャズの力強い指揮のもと、オートボット達は荒れたアンダーグラウンドの大地に建つ一見廃墟のような建造物…ディセプティコン基地をめがけ奇襲をかける。
「オ…オートボット共め、どうしてここがわかった!?」
戸惑うディセプティコン。オプティマスのにらんだ通り「SARA」のエネルギー反応は広大なアンダーグラウンド内でディセプティコン基地を探る確かな道しるべとなっていたのだ。
「ディセプティコンのクソッタレどもめ!今度はこちらが総攻撃をしかける番だ!」
血気盛んなオートボット戦士のアイアンハイドが銃撃を放ちながら叫ぶ。
「ちくしょうめ!こんな時にメガトロンのヤツはどこに行ったんだよ?!」
ディセプティコン航空兵スタースクリームが焦りと戸惑いで本性をさらしながら嘆く。
不意をつかれ指揮系統の乱れたディセプティコンとオートボットの戦いは激しさを増していく…。

「…クリア。敵の姿はありません。」
辺りを注意深く見回しホットロディマスがつぶやく。
「罠の仕掛けられてる形跡もありません司令官。」
「よし、先に進もう。」
続くブローンの報告を受けたオプティマスが指示を出す。
表層階でオートボットとディセプティコンが戦いを繰り広げる中、オプティマス・ブローン・ホットロディマスの3人は敵基地の深部に潜入していた。目的は一つ…「SARA」の奪還である。
「メガトロンが親切にも教えてくれた戦略、活用させてもらおう」
皮肉めいた冗談を言いつつもオプティマスは「SARA」のエネルギー反応探知機を慎重に確認する。
オートボットの攻撃により地下深部の警備は薄くなり、地上の戦闘とは対照的に不気味なほど静まり返った通路をしばらく進んだところで、三人は足を止めた。

「司令官、この扉の奥に…」
緊張をおびた声でブローンが問う。
「ああ、「SARA」の反応はここからだ。一斉に突入するぞ、ホットロディマス、ブローン、準備はいいか?」
「はい司令官、中にどれだけ敵がいようが必ず「SARA」は取り戻してみせます!」
ホットロディマスの言葉を受け、オプティマスは勢いよく扉をやぶり突入した。
だが部屋に入った3人を待ち受けていたのは警備兵などではなく…
「やはりお前が来たか、オプティマス」
ディセプティコンのリーダー、メガトロン自身であった、そして--
「メ…メガトロン…!一体何をしているんだ!?」
予想外の光景にオプティマス達は動揺した。メガトロンは「SARA」と自らのボディを接続していたのだ。
「見て分からんか?「SARA」の力を我がボディにチャージしているのだ。貴様らがノコノコやってくる前に先手を打たせてもらったぞ。」
「SARA」から溢れるエネルギーを次々と取り込み、その身体がまるで閃光につつまれたような非常に不安定で危険な状況の中でもメガトロンは普段と変わらぬ態度で応えた。

「そんなことをして、何を!?」
部屋中に広がり始めるエネルギーの余波にひるみながらもオプティマスは問いかける。
「決まっている…私自身が「SARA」の力すべてを得、全時空界を統べる覇者となるためだ!!」

メガトロンの宣言を聞きブローンが怒りの声を上げる。
「全時空界の覇者だ!?「SARA」の力を奪うということがクラウド世界の崩壊につながると言うのに何寝言を言っている!」
続いてホットロディマスも責め立てる。
「お前の部下達もこの世界と一緒に滅ぶことになるのだぞ!それでもいいと言うのか!」
「雑魚共は引っ込んでおれ!」
メガトロンはその手から膨大なエネルギーを二人に向け放った。
「うわぁぁぁ!!」
あらがうことのできない力をまともに受け、ホットロディマスとブローンは激しく吹き飛ばされた。「SARA」のエネルギー量は個々のトランスフォーマーが到底耐え切れるものではないのだ。
「二人とも!メガトロン…貴様!」
仲間を撃たれ怒りに燃えるオプティマスをメガトロンはより険しい表情で見つめる。
「私は以前話したはずだ…「SARA」の力はもっとすぐれた活用法があると。この莫大な力は支配者自身の手に置かれてこそ意味がある!絶対的な力による支配…これこそ全時空に真の秩序をもたらすもの!確かにこの世界は消滅してしまうかもしれん…だが大義のためならば我は手段を問わん!!」
かいま見えるメガトロンの狂気にオプティマスは言葉を失っていた。
「この力を吸収し終えれば私は単独で時空を超えることさえ出来るようになる…手始めに始まりの宇宙と言われるOG時空に飛び、この力を試しついでに支配してくれようか!」
エネルギーを放ちながら勝利の笑いを上げるメガトロン、その様子をしばし沈黙して見ていたオプティマスが何かを決意した面持ちでつぶやく。
「…メガトロン、貴様にも貴様なりの正義があるのかもしれない。しかし、だからといってこの世界をみすみす消滅させ、全時空を貴様の思い通りに支配などさせるわけにはいかない!自由とは全時空に生きるもの全てに与えられた権利だ…!」
言いながらオプティマスは倒れた仲間の安否を確認する。「SARA」のエネルギーをまともに浴びてしまったことでホットロディマスはステイシス・ロック状態になり意識不明、ブローンはかろうじて意識を維持していたがこちらも危険な状態であった。
「二人とも、ここまでありがとう。最後の命令だ…生き残れ、いいな?」
「し…司令官…何を…?」
ブローンの声には応えずただ優しい瞳で彼を見つめた後、オプティマスは宿敵の方へと再び顔を向けた。
「どうした?我を撃つか?「SARA」とつながった状態では何が起こるかわからんぞ?」
すでに勝利を確信し、せせら笑うメガトロン。
「そうだな、つまりはその接続を乱さなければならないわけだ。」
言うや否やオプティマスは駆け出しながらトレーラーへと瞬時にトランスフォーム、メガトロンへ一直線に向っていく!

「まさか貴様!接続に割り込む気か!?そんなことをしたら貴様もろとも…!」
予想外のオプティマスの捨て身の行動にメガトロンは不意をつかれた。
「この世界を守れるならば、私の命くらい軽いものだ…」
両者がぶつかりあった瞬間、エネルギーの流れが乱れ辺りはまばゆい光に包まれた。
「ぐおおお!?…くっ…こうなったら…!」
最後まであがくメガトロンの声をかすかに聞きながら、オプティマスの意識は途絶えた。

「-おい!おい君!大丈夫かね!?」
聞きなれた声を耳にし、オプティマスは意識を取り戻す。
「ラチェット…?」
ようやく頭脳回路が働き始め、身の回りの風景が先ほどのディセプティコン基地内とはまったく異なることに気づく。見慣れない有機的な森の風景-そして自分を取り巻く複数の人影、それも…
「動けるのか?言葉が通じてないのか?しかし見た目は完全に我らの同胞なんだが。」
自分と同じトランスフォーマー達であった。
オプティマスの容態を伺う白いボディの看護員…ラチェットそっくりな人物を尻目に、がに股で温和そうな雰囲気の別のトランスフォーマーが歩み寄る。
「見た目で判断しちゃいかん、色々試さにゃ。あー、バーウィップ・グラーナ・ウィ…」
「いや大丈夫、言葉はわかるよ…」
オプティマスは応えながら驚く。しかしそれも無理はない、目の前の人物はオプティマスが良く知るオートボットの技術者ホイルジャックにそっくりであったのだから。
どうやら時空移動を行ったようだ-オプティマスは事態を徐々に把握していく。
メガトロンに体当たりをしたとき、メガトロンが行おうとしていた時空移動に巻き込まれこの世界に飛ばされてしまった。そして倒れてたところをこの一団に発見されたのだとオプティマスは推測する。
メガトロンと「SARA」はどうなったのか、クラウド世界は無事なのか?そしてここはどの時空なのか…数々の疑問がオプティマスの脳裏に浮かぶが、答えの一つはすぐにわかることとなった。

「ラチェット、どうだ彼の様子は?」
「まだわかりませんが言葉は通じるようです、やはり同じトランスフォーマーと認識してよいかと思います、オプティマス司令官」
聞きなれた名前、オプティマスは遅ればせながら気づく-その場にいるトランスフォーマーの大半が非常に見覚えのある姿をしていることに。
さらにメガトロンが時空移動しようとしていた状況も思い出すことで、オプティマスはここが始まりの世界…「OG001時空」だと確信する。
「OG001時空」-詳しいことは解明されてないものの根源的な時空の一つであるとされ、トランスフォーマー種族のルーツが存在する時空と考えられている。事実他時空のトランスフォーマー達は誰かしらこの時空のトランスフォーマーに類似していた。
「どうした?なにやら動揺しているようだが?」
この時空のオプティマス-便宜上G1オプティマスと呼ぼう-が手を差し伸べながら尋ねる。
「かなりダメージを受けているようですからね、何があったか知らないが無理はしない方がいい」
ラチェットがリペアユニットを取り出しながら告げる。どうやらこの世界のラチェットもなかなかにおせっかい焼きのようだなとクラウド世界のオプティマス-クラウドオプティマスは心の中で苦笑いした。
「司令官!油断しないでください!こいつ見た目が司令官に妙に似ているじゃないですか!まさかディセプティコンのスパイってわけじゃないだろうな!?」
自分の知っている人物と同じく血の気の多いアイアンハイドの態度を見て、クラウドオプティマスは別の世界とはいえ不思議な安心感を感じていた。
G1オプティマスがアイアンハイドをなだめながらクラウド世界のオプティマスをゆっくりと観察しながら質問する。
「言葉が通じるなら聞かせてくれないか。君と…その少女が何者なのかを、ね」
どう答えたものか考えかけたクラウドオプティマスだったが、今の質問に不可解な点があったことに気づく。
「少女?」
言うと彼は他のトランスフォーマー達の視線の先、自らの足元に目を向けた。
そこには機械の体ではあるものの紛れもない少女と呼べる小さな存在が、両者をキョロキョロと見ては落ち着かない様子でたたずんでいた。
「…誰だ?」
クラウドオプティマスは思わず本心を口に出す。その様子を周囲の面々は怪訝な表情で見据える。困ったような口調でG1オプティマスは聞き返す。
「その子は君の隣にずっといた、我々の注意を引いたのもその子だ。だが何者か聞いても何も答えてくれないのだ…君の仲間ではないのかね?」
クラウドオプティマスは少女の顔を見、彼女も見つめ返す。しかしやはり彼には見覚えは無かった。一体この子は?いやそれ以前にまず自分のことをこの世界の住人にどう伝えるか?クラウドオプティマスが言葉に窮したその時…。
「くらいやがれオートボットども!」
突然の上空からの襲撃、オートボット達は即座に戦闘体制をとる。周囲に響く声。
「オプティマス!大きなエネルギー反応があったから駆けつけてみればやはり貴様らが関わっていたか!ディセプティコン軍団、アターック!」
「メガトロン…!なんというタイミングだ!オートボット、散開し迎撃するんだ!」
宿敵の襲撃に焦らず的確に指示を出すG1オプティマス、一方クラウド世界のオプティマスは…
「メガトロン!?」
一瞬戸惑いながらも、すぐに事態を把握し冷静さを取り戻す。この世界においてもオートボットとディセプティコンの戦争は繰り広げられ、オプティマスの名を持つ者がいればまたメガトロンの名を持つ者もいたということを思い出したのだ。
「まさかこの世界でも戦闘に巻き込まれるとは…。本来他の時空に深く介入するのは避けるべきことだが、この場をしのぐには…仕方ない!」
クラウドオプティマスは足元の少女をかばいながらも銃を構え、襲い来るディセプティコンへ攻撃を始めた。
「!君、何を…」
戦闘ができると思っていなかったのか、突然の支援にG1オプティマスは驚きの声をあげる。
「話は後だ、一つ言えることは私は君達の味方ということ…今は加勢してやつらを撃つ!」
クラウドオプティマスの共闘の提案に疑問の表情を向けるこの世界のオートボット戦士達。だがその空気をリーダーの声がやぶる。
「わかった、今は追及している場合ではない…君の協力に感謝する!だが後でしっかり話は聞かせてもらうぞ!」
並び立つ二人のオプティマス、それを見たこの世界のメガトロン-G1メガトロンは憎しみをあらわに言い放つ。
「オプティマスに似ているあいつは何者だ?忌々しい姿をしおって…これでも食らえ!」
放たれるメガトロンのフュージョンキャノン、だが二人のオプティマスはこれを息のあったコンビネーションで回避し、G1メガトロンに銃口を向けた。

その瞬間である。空気が一瞬固まり、その場にいる全てのトランスフォーマーが本能的に危機を察知した…直後巻き起こる巨大な爆発。
「ぐわぁぁぁ!!」
「ぬおおぉお!!」
吹き飛ばされる両軍の戦士、大地はえぐれ一瞬にして荒野となりオートボットとディセプティコンの戦いはあっけなく幕を閉じた。
反射的に少女をかばったオプティマスは傷つきながらも自分の手の中の少女の無事を確認すると、膨大なエネルギーと殺気を感じ顔を上げた。
視線の先…爆煙よりうっすらと現われる人影に周囲のトランスフォーマーも注目する。
「見つけたぞぉ…オプティマァス…プライムゥゥゥ!!」
身震いするような声を響かせながら近づく影。銀の鎧に包まれたボディ、その手に握られた冷たく輝く鋭い太刀、それはクラウドオプティマスがもっともよく知り、そしてもっとも会いたくない相手であった。
「メガトロン…!」

  • トランスフォーマー
  • タカラトミーモール
  • X
  • e-HOBBY SHOP