TRANSFORMERES Cloud , 時空界

ー 決 意 ー

第四話「決意」

Illustrated by HIDETSUGU YOSHIOKA
Story by makoto wakabayashi

「SARA」…それはクラウド世界を維持する「核」と呼べる物であり、無限の可能性と同時に未知の危険性を秘めた存在でもあった。その本質は高次のエネルギー体であるとされているが、小型のユニット・スパークボットの形状をとりメトロポリスセンター地区の施設内にてオートボット達により厳重に保管・管理されていた。だが…。

「ディ…ディセプティコンに「SARA」が奪われただと!そんなことが…!!」
ラチェットからの通信を聞いたオプティマスは我が耳を疑い、まるで自分のブレインサーキットがショートするような感覚に見舞われた。彼は「SARA」の重要度を誰よりも理解している、あれは悪しき者の手に渡ってよい物ではなかった。
動きのとまったオプティマスと対照的にメガトロンは左腕にある通信機を開いてオプティマスにも聞こえるように大きな声で話しだす。
「状況を報告せよ!!」
「メガトロン様!目的の「SARA」をオートボットどもから奪取致しました!」
ディセプティコンのメンバーの中でも高い頭脳と冷静な判断力を持ち、メガトロンに最も忠誠を尽くす一つ目の男から通信が入る。
「ハッハッハッハッハッ!よくやったぞショックウェーブ!!」
作戦成功の報告を聞き、メガトロンの態度は打って変わり勝ち誇ったように笑う。
「まさかここまでうまく行くとはな…。ディセプティコン撤退だ!目的は達成された!」
身を翻し立ち去ろうとするメガトロンに対し、衝撃のあまり立ち尽くしていたオプティマスが我に返ったように叫ぶ
「ま、待てメガトロン!まだ決着はついてないぞ!」
その声からも「SARA」を奪われたことへの激しい動揺が感じられた。
「決着…だと?」
メガトロンがオプティマスの顔も見ずに言い放つ。
「ふん、こんなものは「SARA」を奪うまでの時間稼ぎ、戯事にすぎぬわ!これほどまでに思い通りになるとは思わなかったがな!!」
「い…一体どういうことですかメガトロン様?メトロポリスを徹底的に破壊せよとの作戦では?」
事情を飲み込めてないスタースクリームがメガトロンに問いかける。「SARA」を奪取するというこの作戦の真の目的はメガトロンと彼が認める一部のディセプティコンにしか知らされていなかったのだ。
「ゴチャゴチャ抜かすな、後でお前の頭でもわかるよう説明してやる!全時空を支配した後でな。ゆくぞ、スタースクリーム!!」
「は…はいメガトロン様!へっ、命拾いしたなオプティマス!」
オプティマスの制止も空しく、メガトロンとスタースクリームはメトロポリスより飛び去っていった。
「ま、待て!!メガトロン!!!」
オプティマスは銃を拾いあげ、離れていくメガトロン達に狙いつける。
「そんなことをしてる場合か?オプティマス!」
銃を構えたオプティマスは不敵な笑みを浮かべたメガトロンを見て我に返る。
「く…、今は事態の確認のため一刻も早く本部に戻るべきか…。」
普段の冷静な思考をなんとか取り戻し、通信装置を起動させる。
「ラチェット!至急全部隊を作戦本部に集合させるんだ、 私もすぐに戻る!!」
「わかりました、至急全オートボットに通信を送ります!」
オプティマスはビークルモードにトランスフォームして走り出した。

オプティマスが作戦本部に到着した時にはほぼ全部隊の戦士たちが各地区より戻り、司令官の帰りを待っていた。
「オプティマス司令官!大丈夫ですか?!」
ロボットモードに姿を変え本部に入ってきたオプティマスを出迎えたのは通信を入れたラチェットであった。
「私のことはいい、それより何があったのか報告を頼む。」
本部に残り各地区の状況を把握していたラチェットが悔しげに話し出した。
「司令官が出撃された後でした…。攻撃されている各地区にオートボット戦士達が到着し戦闘を始めたタイミングで、潜伏していたディセプティコンの増援部隊が守りの薄くなったセンターポイントに潜入し、「SARA」を奪っていったのです。守備隊が必死に抵抗しましたが、不意を突かれたためかなわず守りきれませんでした…。」
自身の把握が行き届かなかったことを悔やむラチェット。その後ろから一人のオートボット戦士が神妙な面持ちで前に出てきた、「SARA」を守り戦っていた守備隊の一人であるスキッズだ。
「オプティマス司令、私が「SARA」を守りきれなかったばかりに…申し訳ありません」
ディセプティコンに負わされたであろう深手を受けた部分を押さえ謝罪するスキッズにオプティマスは穏やかな口調で語りかける。
「気負うなよスキッズ、それにラチェット。私のミスだ。出動する前に冷静に事態を分析するべきだった。」
言いながらオプティマスはメガトロンの姿を見て飛び出してしまった自らを反省しつつ、そんな自分の行動さえもメガトロンの作戦の内であったのだと改めて悔しさと脅威を感じていた。
「となると、今回の奴らの大掛かりな破壊活動は全て陽動だったと言うわけですか…くそっ!まんまとハメられたってわけか!」
作戦本部に戻っていたホットロディマスが悔しげに拳を握り締める。
「「SARA」が奪われるなんて…これからどうすればいいんだ…。」
周囲のオートボット達もそれぞれ口を開きざわつく。彼らは今まで経験したことのない強い不安に駆られていた。
「「SARA」が無いとメトロポリスの…いいやクラウド世界自体の安定が維持できないかもしれないでしょう!?オイラたちもうおしまいなんですか司令官!?」
うろたえるバンブルビーがオプティマスにうったえる。小柄な体のミニボットながら普段は勇敢な心を持つ彼も、この非常事態には弱音をはかずにいられなかった。
「落ち着くんだバンブルビー!皆も!」
普段なら一声でオートボットを纏め上げるオプティマスの言葉も、今回ばかりは皆の不安を払いきることができず部屋の中は沈み淀んだ空気が漂っていた。
「意気消沈している暇はない!」
オプティマスは自分自身を奮い立たせるように強く立ち上がり言い放った。
「現在非常用エネルギーでなんとかクラウド世界を保たせてはいるがそれももって数日、更に「SARA」無しでは時空間移動もできず事実上オートボット本部の機能はマヒしてしまっている…。なんとしてもそのエネルギーが尽きるまでに「SARA」をメガトロン達より奪い返す必要がある!」
「ちょっ…ちょっとお待ちください、司令官。奪い返すとは…?」
驚いた表情で話しかけたジャズに対してオプティマスは決意を込め話す。
「そうだ。アンダーグラウンド内のディセプティコン本拠地に侵入し、我々の手で「SARA」を取り戻すのだ!」
この発言に一同は戸惑う。
アンダーグラウンドと言えばオートボット達でさえ実際に足を踏み入れたことのない未知の場所…メトロポリス内の常識など通用しない凶悪な無法地帯である。そこの住人であるディセプティコン達の暴挙をたった今痛いほど見せ付けられた身としてはいくら歴戦の彼らといえども無理もない反応であった。
そんな中、一人のオートボットがオプティマスに問いかける。市街地でディセプティコンを迎え撃った怪力自慢の戦士ブローンだ。
「そんな簡単に行くんでしょうかね?アンダーグラウンドと言っても広い、情報が少なくて連中の本拠地がどこにあるかもわからないんですよ?」

バンブルビーと同じくミニボットであるブローンもまた、小柄な体格からは想像もつかないパワーと勇気を持っている。だがそんな彼も今回の事態には戸惑いを隠せていなかった。
「場所に関しては大丈夫だブローン。ディセプティコンが如何に姿をくらまそうと「SARA」のエネルギー反応自体は隠しようがないからな、それをたどっていけばいい。必ず「SARA」を取り戻し、今度こそこの手でメガトロンと決着をつける…。」
オプティマスの考えを感じ取りブローンが声をあげる。
「ま…まさか司令官?!」
「ああ、アンダーグラウンドには私一人で行く!「SARA」が奪われたのは私のミスだ…オートボットのリーダーとして責任を取らねばならない。」
オプティマスの提案にオートボット一同は驚く。
「いくらなんでも無茶です司令官、お体のダメージも残っているのに!」
ラチェットが部下として以上に医者としてオプティマスの体を気遣う。
「傷ついてるのは皆も同じだ、だからこそ私一人で行くのだ。皆は万が一に備えてリペアと都市部の救助を頼む。」
「いいかげんにしてくれませんか、司令官」
状況を見ていたホットロディマスが苦々しげにオプティマスの言葉をさえぎった。
「確かにあなたは判断を誤りました。」
「ホットロディマス…すまない。」
ホットロディマスから指摘を受けたオプティマスは厳しい表情でロディマスを見た。
「しかし、こんな結果を招いたのは我々が司令官に頼りっきりだったからでもあります。今回だってそうです、司令官に全てを託し我々はただ待っている…それでは同じミスを繰り返しかねない。」
ホットロディマスはオプティマスと目をあわせてはっきりと伝える
「あなたがなんと言おうと、私も…いえ、我々もついて行きます。」
「一人で行くと言--」
「いえ、行かせません」
ホットロディマスの真剣な眼差しにオプティマスは躊躇する。その様子を見て、他のオートボット戦士達も声を上げる。
「そうですよ司令官!私も!」
「我々も行かせてください!この世界の危機にじっとしてなんていられません!」
今まで事態の深刻さに沈んでいたオートボット戦士達が我に返ったように次々と志願をする。その様子にオプティマスは頼もしさと安堵を感じ表情をゆるめた、これこそ今までクラウド世界と各時空を共に守ってきた仲間たちなのだ。
「すまない…私はまたミスを犯すところだった。ならば重傷者や一部の救助活動に臨む者を除き戦闘可能な戦士は準備をしてくれ、今度は我々が勝ち誇ったメガトロン達に強烈なカウンターをお見舞いする番だ」
早速準備にかかるオートボット達。不安は確かにある、だが先ほどまでのただ怯え迷うだけの彼らの姿はもう無い。その眼差しはリーダーと共に征き、愛する世界を救う決意を固めた勇敢な戦士達のものであった。
「ありがとう、君のおかげだホットロディマス」
「よしてください、あなたのリーダーとしての強さが皆を支えているんですよ」
ホットロディマスは若さゆえに無鉄砲なところもあるが、その情熱がこういう時には大きな力になる…オプティマスは改めて彼の強さに感謝していた。
その時、ブローンがオプティマスに進言する。
「司令官!自分も行きます!」
「ブローン、お前は先ほどの戦闘でのダメージが大きい。連れて行くわけにはいかない、わかってくれ」
確かにブローンは市街地での襲撃により痛手を負っていた、だが彼もまたオプティマスと同様に痛み以上の感情が体を動かしていた。
「司令官!私はメトロポリスを破壊していった奴らが…そしてそれを止められなかった自分が許せないんです!」
巡回中に平和だった街を突如破壊されるさまを見せつけられたブローンの悲しみと怒りは強く、オプティマスでも彼の決意を止めることはできなかった。
「…覚悟はあるのだろうな?クラウド世界のために命を賭すことになるかもしれない危険な任務になるぞ。」
「了解です、もっとも死ぬつもりもありません。ディセプティコンどもにこの怪力ブローンさまを怒らせたことを後悔させてやりますよ!」

その言葉を受けたオプティマスは自分自身も励まされた気分になった。
数刻後、並び立つ戦士達にオプティマスは普段以上に雄雄しく頼もしい声で宣言する。
「よし!ではただ今より「SARA」奪還作戦を開始する!目指すはアンダーグラウンド!!オートボット戦士…トランスフォーム!」
残された時間はあまりに少ない、崩壊へのカウントダウンの中オートボット対ディセプティコンの全面対決が始まろうとしていた。

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